令和のリーダーに必要なスキル「気くばり」について解説します(写真:polkadot/PIXTA)

優れたリーダーとは「気くばりができる人」です。これまで、ビジネスは上意下達。上司が決めたことを部下が実行していれば成果は出ていました。

ところが、いまは顧客ニーズが複雑化した影響で、顧客の接点に近い、現場のメンバーが細かいニーズを吸い上げなければ成果が出なくなったのです。つまり、リーダーは、現場のメンバーが最高の環境で働くことができるように「気くばり」するのが仕事なのです。

本稿では、カルチュア・コンビニエンス・ クラブをはじめ、数々の会社で代表取締役を務めた柴田励司氏が、新刊『リーダーの気くばり』より令和のリーダーに必要なスキルを解説します。

「表情で語る力」の効果

みなさんの周りにいる魅力的な人を思い浮かべてみてください。その方は表情がつねに豊かではありませんか?

つい引き込まれてしまうプレゼンテーションを思い浮かべてみてください。そのプレゼンテーションのスピーカーは、表情豊かに語っていませんか?

「半沢直樹」の大和田常務みたいな「顔芸」をやれ、と言っているのではありません。ただ、ほんの少し表情を意識してみましょう。それだけで、いつものコミュニケーションが円滑になることを実感できるはずです。

私がホテルのフロントで働いていたときのことです。当時のT総支配人の笑顔が素敵でした。見た目もダンディな、いかにもシティホテルの総支配人風のおじさまでした。

ゲスト、社員問わずに目が合うと必ず素敵な笑顔で会釈していました。いまから思うと完全に職業スマイルだったと思うのですが、たちどころに相手をファンにしていたのはさすがでした。

私は、よいと思うことはなんでもまねすることをモットーにしていたので、さっそくまねしてみました。T総支配人ほどの笑顔にはなりませんでしたが、効果はてきめん。初対面の人とのコミュニケーションが弾むようになりました。表情のパワーを実感した瞬間でした。

いかに短く意図を伝えるか

相手に自分のメッセージを伝えることも気くばりを考えるうえで、とても重要な機能になります。最近ではテレワークが増え、メールやチャットなどテキストでの伝達の仕方、スキルがいままで以上に求められます。

ポイントは、いかに短く自分の意図を伝えるかということに尽きます。

たくさんのことを伝えて、理解してもらうのではなく、いかに短く話すか、書くか。付属させる資料もいかに少ない量で相手にメッセージを正確に伝えるかが重要です。

そのためには、頭の中が整理されていないと、短く話す、短く書く、ことはできません。それを意識しておこなうことが「伝えるうえでの気くばり」ということになります。

あなたが一番言いたいメッセージはあと回しで、周辺的な事柄から話す、書く。何が言いたいのか、なかなか出てこない。そういう話し方、書き方が親切であり、ていねいだと勘違いしている人が多いように思います。

これは会議における発言でも、プレゼンテーションをするときでも当てはまることですが、メッセージの主旨がわかりにくくなるということは、いくら親切・ていねいな説明であっても相手にとっては苦痛、時間の無駄でしかありません。

相手に苦痛を与え、相手の時間を奪ってしまったら、これでは気くばりにはなりません。単なる自己満足にしかならないわけですから。

「伝え方」を意識したメッセージを意識して発していきましょう。

Uberでお気に入りのカレーと野菜サラダを注文。

20分程度で配達された。ところが、野菜サラダがない。レシートにはしっかり「野菜サラダ」と書いてある……(Uberのお兄さんはすでにどこかへ)。うむむ……。実は配達漏れは2回目。前回はカトラリー系がまるごとありませんでした。お店に電話だ!

「すみません、野菜サラダがなかったんですが! これ2度目ですよ。前回はカトラリーだったからなんとかなりましたが、今回は注文そのものがない。どうなっているんですか。Uberに渡す前に確認してないんですか!」。よくありがちな内容です。

怒ることで生じる負の連鎖

何のための電話でしょうか。文句を言いたいのか、野菜サラダを持ってきてほしいのか。

まあ、その両方ということでしょう。ただ、このような言い方をしてしまうと文句が前面に出てしまいます。当然ながら相手は恐縮します。文句を言っているほうも言いながらさらにヒートアップしてしまいがちです。

この展開、言った側にも言われた側にも嫌な気持ちが残ります。

なんといっても「私は怒っている」というメッセージが強烈に届きます。先方は、これ以上怒られないようにしようという想いが一番前に出てしまいます。

「すみません、いまUberさんが商品持ってきてくれたんですけど、野菜サラダがなかったんです。おつまみセットとかいろいろ頼んだので、うっかりされたんじゃないかと(笑)……野菜サラダ、お願いできます?」

こういう言い方で、とくに途中で笑いを入れながら伝えると、かなり違います。

自然に「申し訳ない」という気持ちが相手に湧いてきます。その気持ちが、自発的なオペレーションの改善やトラブルを起こしてしまった顧客への想いにつながります(実際のケースでは野菜サラダ1つのオーダーでしたが、2つ持ってきてくれました!)。

思ったとおりにことが進まなかったことに腹を立てて、その怒りを相手にぶつけてしまうといいことがありません。

相手は怒られないことが目的となり、オペレーションの改善にはつながりません。配達漏れはその後も起こるでしょう。

これは部下に対する接し方でも同じです。問題行動に対して、ただ怒鳴っても、その怒り方が激しければ激しいほど、怒られないようにしようという想いしか相手に湧きません。

行動改善にはつながりません。おそらく再度同じ問題行動を起こすでしょう。それでさらに怒る、まったく改善されない。悪循環となります。

ただし、本当に成長してもらいたいと思っている部下に対しては違います。怒りをぶつけてもいいでしょう。全身全霊で怒ってもいいです。

ただ、それ以上に愛情も注ぎましょう。愛情なき怒りは相手を委縮させるか、逃避させるか、恨みを買うか、いずれかになります。

お店や取引先に対しても愛情を注げるのなら、怒りをぶつけてもいいと思います。

余計なひと言を言わない

そのひと言は、自分の気が済むためではないか、と自問せよとよく言っています。

上司としてメンバーの行動を正したい。その想いから注意をするわけですが、余計なひと言を言ってしまいがちです。正すべきことを伝えるだけでいいのですが、つい否定的な感情を吐き出してしまうものです。しかも話の最後に。

たとえば、「……、結局、変わらないな」。

「……、どうせわからないだろうけど」。

「……、いつもそうだよな」。

上司から正されると誰でも反省します。腑に落ちない指摘をされたとして、なんでそう言われるんだろうと、やはり自分の行動を振り返ります。誰でも会話中に自省しています。

ただ、最後のこの手の否定的な感情を落とされると、誰でもその言葉に対する否定的な感情がわっと湧き出します。そうなると「正すべきこと」はどこかにいってしまいます。

自分の感情をぶつけたいのか、行動を正してほしいのか。明らかに後者のはずですが、自分の余計なひと言がそれを台なしにします。

感情をぶつけてはダメと言っているわけではありません。その逆です。感情のないメッセージは伝わりません。メッセージを否定するような感情の吐露はやめよう、ということです。

気持ちを伝えたいとき、そんなときには言葉に頼らないほうがいいです。表情、声のトーン、身振り、ボディタッチなどから伝わります。ただ、オンラインだと黙って肩をポン、ができません。そういう意味でも腹を割って話すときは、やっぱりリアルでやるのがいいと思います。

人間最大の強みの1つが「忘れること」だと思っています。

嫌な思いとかつらい思いは引きずっていると、どんどん沈殿していきます。とくに、人に迷惑をかけたことは、よほどの心臓の持ち主でない限りずっと引きずってしまいますし、また迷惑を受けたほうもそれを繰り返し言ったりすることで、負のスパイラルに陥ってしまいます。

いつまでも双方あるいはどちらか一方が気にしていると、お互い付き合いづらいわけです。心に棘が刺さったようなものです。

「忘れたふり」も気くばり

忘れたふりでもいい。ふりをずっと続けていると、本当に忘れます。

これには私にも苦い経験があります。ある人に自社の経営諮問委員会の委員を頼んだのですが、こちらの都合で3回も日程を変更。とうとう3回目には大変怒られてしまいました。

もちろん、当初快く委員を引き受けてくれた人に対して、欠礼が3回にも及んだことがその人の怒りの原因ですが、そもそも怒りのスイッチが入ってしまった責任は、私にありました。

私が会社の代表としてお願いしたにもかかわらず、日程変更の理由を他責にしてしまったからです。

電話口で4時間ほど怒られました。これはマズイと思い翌早朝、その人のオフィスに出向き謝罪、そこでまた3時間ほど怒られました。最後にはもう「出ていけ」ということで、その人との関係性は切れてしまいました。


ところが、5〜6年後にその人からいきなり電話がきて、また怒られるのかなとビクビクしながら電話に出たのですが、至って平静で、私がその節は……とお詫びを入れると、「そんなことあったっけ」と。

そのあと、会食しているときも、あの話にはいっさい触れられませんでした。「忘れたふり」をしてくださっているんだなと、以降、その話はしないようにしました。

この一連のことで、その人からすごい気くばりをしていただいたな、と思っています。その人は「自分は本気で相手に向かう、だから相手から本気で返ってこないと、自分も本気は出さない」といつも言っておられます。

本気で接する相手に対して本気の気くばりが“忘れる”ということなんだなと、そう思いました。

(柴田 励司 : 株式会社IndigoBlue代表取締役)