掲載:THE FIRST TIMES

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ドラマ『パリピ孔明』で上白石萌歌が演じるヒロイン、EIKOが劇中で歌唱した楽曲をコンパイルしたアルバム『Dreamer』がリリースされた。英子が初めて自分で作詞作曲したオリジナル曲として、シンガーソングライターの幾田りらが提供した「DREAMER」や内澤崇仁(androp)による「Time Capsule」に加え、Creepy Nuts「堕天」や松原みき「真夜中のドア~stay with me」などのカバーも収録。俳優業に加え、adieuとして音楽活動も行なっている上白石萌歌は、“歌手として人を感動させる”という夢を志すEIKOとどう向き合ったのだろうか。

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■いろんなギャップとの戦いだった

──もう髪色が戻ってますね!

そうなんです。3ヵ月前ぐらいには撮影は終わっていて、次の作品にすぐ入って、私はあの髪が好きだったんですけど、割とあっけなく元に戻ってしまって。

──人生初ブリーチという金髪ロングも似合ってました。

ありがとうございます。私もすごく新鮮でした。私はここまでの原作ものを初めてやらせていただいて。しかも、みんなからとても愛されている作品で、英子は普段の私から結構かけ離れているイメージがあった。髪色もそうですし、いろんなアプローチをして、自分の中になかったものを他の要素から引き寄せて。重たいドアを叩いてもらったような役だなと思っていて。

──ご自身の中になかったものっていうのは?

まず、『パリピ孔明』というタイトルで、私はパリピな人ではないと思っていて。英子に関しては、楽しいことは好きだけど、根っこにはすごく深刻な過去があるような子なんですけど、私が『パリピ孔明』という作品に関わるっていうイメージを皆さんは絶対に持ってなかったと思うんですね。そういうところから、いろんなギャップとの戦いではありましたね。

──いちばん大変だったのは何ですか?

英子に関しては歌の曲数ですね。1話に1曲は必ず歌うぐらいのボリューム感だったので、撮影をしながら、撮休の日は音楽のことをやって。今回、アコギの弾き語りもやらせてもらったんですけど、ギターに触れたことはあっても、ここまでしっかりとした弾き語りは初めてだったので、ずっとたくさんの宿題を抱えているような感じで撮影してました。

──EIKOのアルバムがリリースされたことに関してはどう感じてますか。

EIKOがこれを聞いたら喜ぶなって思いました。彼女は作中でも自分の意志を曲げずに、がむしゃらに夢を追いかける中で、いろんな挫折があって。自分の理想と現実のギャップをたくさん感じながら成長していく。私自身、歌うことがすごく好きで。でも、歌うことへの憧れの中で、何回もくじけたことがあった。そういう姿がすごく似ているなって思うので、「英子、よかったね」っていう気持ちでいますね。

■英子にも、りらさんにも、私の感情にも全部に重なる曲

──歌うことへの思いとしては共通する部分があった?

そうですね。今回、「DREAMER」っていう曲は幾田りらさんが手がけてくださって。本当にこの曲がなかったら、この役って演じられてなかったんじゃないかっていうぐらい、自分にとって大切な曲になってて。幾田さんと英子がそもそもすごく近しいんじゃないかって思ったことがありまして。幾田さん、今、ものすごくご活躍ですが、過去には路上で地道に弾き語りをされていた時代もあって。きっと、歌の中でいろんな思いをされてきた方が紡いだ言葉で、紡いだ音楽なので、英子にも、りらさんにも、私の感情にも全部に重なる曲だなって思って。この曲が私を、私が演じる英子っていうものに近づかせてもらったような気はします。

──ご自身の心情と重なった部分というのは?

この曲って、言葉の端々にすごくストイックな気持ちとか、現実と理想のギャップの中から生まれる悔しさや不安、夢を見る中での葛藤みたいなものが描かれていて。1番のサビで“だから歌ってきた”が、2番の歌詞で“いつも歌ってきた”になり、ラストサビでは“だから歌っていたい”になる。歌う中で、いろんな挫折があって、でも、やっぱり私は歌っていたいんだなっていう気持ちに行き着く曲でもあると思う。すごく支えになった曲ですね。

──漠然とした質問になってしまいますが、萌歌さんにとって“歌うこと”っていうのはなんですか? 

私は、母親が学校の音楽の先生をやっていて。生まれた頃からずっと母親がピアノ弾いてくれていたし、姉も昔から歌うことが好きで、幼い頃から音楽が生活の中にあるのが自然なことだったんですね。自分の名前にも“歌”ってつけてもらったように、“簡単には手放せない”っていう歌詞から始まりますけど、私も自分と切り離せない存在だなって思います。

──劇中でEIKOは「何のために歌うのか?」と自問自答するシーンがありますね。八木莉可子さん演じるNANAMI(久遠七海)は「自分が楽しく歌えるほうが幸せなことだと思う」と言ってて。

私のベースにあるのは、やっぱり、ずっと歌が大好きだっていう、幼い頃の純粋なすごく鮮やかな気持ちですね。でも、人前で歌を歌ったりする中で、自分の力不足を感じたり、こんな歌でいいんだろうか?って悩んだりすることたくさんあって。それでも、私にとっては歌がいちばん楽しくて、血が通うものでありたいっていう気持ちが何よりも大切なんですね。それが、結果的に、届いた人にとっても良いものでありたいなっていう気持ちはある。やっぱり歌うこと対して、自分が楽しくあれるかっていうことは、見失いがちだけどいちばん大事なんじゃないかなって思いますね。

■お芝居半分ライブ半分みたいな現場で、それがすごく新鮮

──今回の劇中での歌唱はいかがでしたか。

ここまでの音楽作品は初めてで、オリジナル曲もカバー曲もたくさんあって。まず、音楽に対してすごく真摯に向き合ってくれる現場でした。例えば、弾き語りのシーンはなるべく同録で生の音を使おうっていうことで、ケアをいっぱいしてくれて。七海と路上ライブをするシーンも、弾き語りのトーンを大事にしてくださったし、渋江(修平)監督がもともとMVをたくさん撮ってらっしゃった方なので、ライブシーンの切り取り方もすごく素敵でした。お芝居半分ライブ半分みたいな現場で、それがすごく新鮮でしたね。

──「DREAMER」はアコースティックバージョンも入ってますね。

私はもともと、その人が奏でて、その人が歌って、1人で全部完結させてるっていう弾き語りの音が大好きなんです。アレンジバージョンはダイナミックなアレンジだけど、EIKOが初めて作ったオリジナルっていう意味で、骨組みだけの状態っていうのを聴いていただけるのがうれしくて。ふたつの色を楽しんでほしいなと思います。

──NANAMIと路上ライブでカバーした「I’m still alive」の弾き語りも収録されてます。この曲は、1話で登場したアヴちゃん扮するアメリカの歌姫、マリア・ディーゼルの曲です。

まさか、アヴちゃんさんとご一緒させていただいて、アヴちゃんさんの曲を歌う日が来るなんて思ってなくて。正直、デモを聴いた瞬間、終わったって思ったんですよ(笑)。

──あはははは。

無理って思って。アヴちゃんさんにしか出せない音域と世界観の曲を、私なんかが歌えないって正直に思ったんですけど、足を踏み入れてみたら、EIKOなりの歌ができて。何より6話で長岡(亮介)さん(世界的なDJ&プロデューサーのスティーブ・ギド役)と生でセッションしたことも思い出深いです。ドラマで使われている音源は、あの場で録った歌と音なんですけど、世界に3本しかないというフライングVを弾く亮介さんとセッションをさせていただけるなんてっていううれしさがあったので、この曲も挑戦してよかったって思えた曲でした。

──この曲とマリア・ディーゼルに救われたという過去も「DREAMER」に繋がってて。

そうですね。歌姫って、アヴちゃんさんにぴったりな言葉じゃないですか。そのパフォーマンスを現場で見られて、何か英子の抱く憧れと私もすごくリンクしたので、そのキャスティングも素晴らしいなって思いました。

──オリジナルはもう1曲、「Time Capsule」が収録されてます。「DREAMER」が7話で完成して、そのあとに作る曲ですよね。

サマーソニアに出ることを決めたEIKOは、オリジナル曲が2曲必要だっていうことで、全部自分で手がけるってなって。どうしても2曲目が降りてこないときに、自分のルーツを探すっていう回があるんですけど、その中で自分の家族とのことを考えたりとか、孔明とのことを考えたりしてできた曲なんです。

──孔明との関係と家族との関係のどちらも入ってるんですね。作詞作曲はandropの内澤崇仁さんです。

内澤さんとももともとご縁があって。デビューしたてぐらいのときに、三木孝浩監督の映画品『空色物語』に出る機会があって。短編を何人かで作るオムニバス映画だったんですけど、私はその中で『虹とシマウマ』というショートムービーに出て、そのときの主題歌がandropの「Image Word」(1stアルバム『anew』収録)だったんですね。もう10年ぐらい前から私の存在を知ってくださっている方で、すごく好きなミュージシャンなんですけど、こうやって曲を書いていただくことは初めてだので、ついに!っていう感じでうれしかったです。

■幾田さんもそうですけど、内澤さんの曲も“なんでこんなに英子の心情がわかるんだろう?”って感じて

──YOASOBI「あの夢をなぞって」の原作を実写映画化した『夢の雫と星の花』の主演も務めてますし、萌歌さんと縁がある方が参加してるんですね。

そうなんですよ。それもすごくうれしくて。幾田さんもそうですけど、内澤さんの曲も“なんでこんなに英子の心情がわかるんだろう?”って感じて。EIKOを演じてない方が、こんな熱量で理解をしてくれて書いてくださってるから、私は英子に対して、もっともっと熱量マシマシでやらなきゃって思ったような曲ですね。過去と未来が繋がっているっていう言葉とか、やっぱり英子の家族──主に父親のことが関係しているんですけど、お父さんとの関係とか、孔明といることでひとりじゃなくなった、たくましさが描かれて。この曲も演じるうえですごく支えになりました。

──プロデューサーユニットのEAST SOUTHとラッパーのKABEを客演で迎えたヴァージョンも入ってますね。

石崎ひゅーいさんと休日課長のふたりがやってくださって。楽器を弾いてくださったりして。キャスティングが絶妙ですよね。本当にフェス状態というか(笑)、半分以上がアーティストの方なので、おふたりのお芝居を見れるのもすごく新鮮でした。他のアーティストの方もそうなんですけど、やっぱり歌を歌われてる方の表現って、形を変えても素敵だなって思う。あと、あのおふた方とEIKOが一緒に演奏するようなシーンがあるかもしれないし、ないかもしれなくて。…ネタバレになるのかどうか不安なので、急に慎重になりますけど(笑)、やっぱり本物のミュージシャンの方と一緒にセッションするようなシーンもあったりなかったりするのは(笑)、すごく新鮮でしたね。

──宮世琉弥演じるKABE太人のラップはどうでしたか?

KABEくんとEIKOはいろいろあって、最終的にみんなでセッションするんですけど、私は本当にKABEくんのラップが素晴らしいなって思って。宮世さん、ラップは今回が初挑戦だったっていうことを後から知って、ものすごくびっくりして。なんて才能の方なんだ!って思いました。そして、「Time Capsule with EAST SOUTH feat.KABE」バージョンはドラマ『パリピ孔明』の集大成みたいなところもあって。私の歌もあるし、KABEくんのラップもあるし、全部乗せになってる。孔明やKABEくんとEIKOの絆とか、これまでに積み上げてきたものが詰まっている曲ですね。

──「No Future But Go To Future」は3人組の覆面テクノポップユニット、AZALEA(アザリエ)のカバーで、劇中ではAZALEAに扮して歌ってました。

AZALEAはもともとはロックバンドなんだけど、自分たちのやりたいことや素性を隠して、オートチューンをかけて歌っていて。私的な解釈ですけど、AZALEAとサマーソニアへの出演権をかけて対決したときに、EIKOがAZALEAのカッコで歌って、彼女たちのファンを騙してるだけじゃなくて、自分の声で歌うことって大事だよっていうのをななみん(七海)に言いたかったんじゃないかなって気がしてて。なので、この曲を歌ったときは、曲の純粋な良さに加えて、人の声の良さ、生の声の良さみたいなことも、AZALEAに向けて伝えたかってので、そういうことを大事に歌いました。

──また、EIKOがカバーした曲も萌歌さんとどこか通じるようにも感じました。

そうなんですよね。すごく不思議でした。私が選んだものじゃないんですけど、なんか見透かされてるような気もして、全部の曲にシンパシーを感じてやってました。

──原田真二「タイム・トラベル」も、萌歌さんが好きなスピッツがかつて、ドラマ主題歌としてカバーしてましたし。

そうですね。でも、最初にこの曲をカバーするって聞いたときは、ちょっと意外だったんですよ。「真夜中のドア~stay with me」もそうですけど、昭和の名曲をパリピサウンドでアレンジをし直すんだって。私自身は、もともと、原田真二さんも、「タイム・トラベル」もすごく好きで。私の父が好きで聴いてたので、その影響で私も聴いていて。この曲をEIKOはどうやって歌うんだ?って思ったりけど、孔明目線というか、転生してタイムトラベルをしてきたっていう孔明の心情と重なって。

■昭和にリリースされた曲にすごい憧れを持っていて

──“時間旅行のツアーはいかが”というフレーズが場面にも合ってました。

“クレオパトラの衣装の君が”っていう歌詞もあるんですけど、ライブシーンのときに、会場にクレオパトラの仮装した人がいて。衣装のBaby Mixさんの愛情を感じた曲でした。「真夜中のドア~stay with me」ももちろん知っていた曲で。私は昭和にリリースされた曲にすごい憧れを持っていて。それこそ両親がヤングな時代っていうか、当時の音楽の跳ね上がり方っていうか、全体的に元気な感じがすごく好きで。この曲は今でもまた再び燃えている曲なので、そういうプレッシャーはあったんですけど、いいものって回り続けるんだなっていうのは、今回の選曲でも思いました。

──ハナレグミ「さよならCOLOR」もシンパシーを感じた?

私、ハナレグミももともと大好きで、「サヨナラCOLOR」もすっごく大好きな曲なんですよ。だからこそ、この曲は、永積(タカシ)さんにしか歌えない曲だと、私は思ってて。譜面じゃ起こせない感じっていうか、語るように歌う方なので、どう歌っていいんだろうっていう気持ちはあったんですね。でも、この曲はKABEくんがすごく好きだった曲で、KABEくんに届けるっていう意味でリンクしたので、それをそのまま届けるっていう気持ちで歌ってました。

──そして、いちばん意外だったのが、初めて出演したフェスで歌った、Creepy Nuts「堕天」でした。キーも低いし、メロラップっぽい感じで。

はい。新鮮というか、私にとっては挑戦でしたね。何事もやる前がいちばん不安なんですよ。どうなってしまうのだろうっていう気持ちでいたんですけど、やってみるとすごく楽しくて、意外な化学反応が生まれたりして。EIKOがセカンドステージとして、自信を持ってやるっていうシーンだったし、EIKOと私の新しい扉を開けてくれたような曲だったなって思います。

■自分が自分に抱いてる先入観みたいなものを、役を通して、ちょっとこじ開けられて

──萌歌さんのどんなドアが開きましたか?

世間の皆さんが私に抱くイメージとか、貼るレッテルってあると思うんですけど、同じように私が自分自身に貼ってたレッテルもあるような気がして。“私じゃできない”とか、“私じゃ歌えない”っていうのをEIKOを通して、EIKOならどうやるかなって考えていくうちに、そういうのも楽しいんじゃないとか、意外と合ったよね、みたいな発見があった。そもそも、私は英子。EIKOの役をいただいたときに、私じゃ絶対に無理って思ったんです。皆さんも普段の私とギャップがあるように感じたように、私もすごくギャップを感じていた。そういう、自分が自分に抱いてる先入観みたいなものを、役を通して、ちょっとこじ開けられて。EIKOが私を違う階段に連れてってくれたような気はします。

──それはご自身のadieuとしての活動にも影響を与えているものですか。

そうですね。adieuの曲も一貫してバラード調のものとか、ミドル系が多かったんですけど、もうちょっと新しい音楽のジャンルに挑戦してみたいなっていう思う気持ちが芽生えていてあと、ドラマの撮影中にライブがあったんですけど、今回、ギターを今回やったので、andymori「16」を弾き語りでやってみたんですね。人前で弾き語りをしてみるとか、そういう音楽への挑戦の心をもらえたのも大きかったですね。

──全10曲揃って、ご自身ではどう感じました。

大変でした。自分でもフルアルバム出したことないのに、英子として10曲も出しちゃったよ、みたいな。

──あはははは。よかったんですか。adieuはまだ3枚のミニアルバムしか出してないのに。

よかったです(笑)。やっぱりEIKOが喜ぶなって。CDを作ることもEIKOにとっては憧れだったから、EIKOに聴かせてあげたいですね。

■ドラマ『パリピ孔明』は“支える人”と“支えられる人”の話でもある

──ドラマのクライマックスも近づいてます。

サマーソニアに向けて、EIKOは孔明と一緒に二人三脚でより頑張っていくんですけど、このオリジナルの2曲を通して、EIKOは、シンガーとしての自覚や、自分が歌うことの意味みたいなものを見出して、これからどんどん成長していく。そんなEIKOの成長物語を見守ってほしいですし、ドラマ『パリピ孔明』は“支える人”と“支えられる人”の話でもあるなって思ってて。「Time Capsule」の歌詞にもあるんですけど、孔明に支えられて英子がいるし、孔明は英子に支えられているような気もする。ドラマで男女がメインで恋愛ものにならないってすごく珍しいなと思って。ある意味、ビジネスパートナーでもあるけど、一緒に夢に向かって歩んでくれる人っていうのは、今までになかったような気もするんですね。そういうふたりの二人三脚の美しさみたいなところも最後までぜひ、見届けてほしいなと思います。

INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY 大橋祐希

リリース情報
2023.11.1 ON SALE
ALBUM『Dreamer』(EIKO)