3年前の2020年3月、ある女性がヴィンテージのロレックス(Rolex)を購入した(情報源は匿名を希望したので、ここでは彼女をエリザベスと呼ぶことにする)。それはエリザベスが何年も前から目をつけていた自分への40歳の誕生日プレゼントだった。彼女はそれをザ・リアルリアル(The RealReal)で購入し、オリジナルの箱や書類は付属していなかったものの、時計が本物であるという鑑定書をもらった。

書類がないことでエリザベスは少し不安を覚えたが、ストラップのサイズを直してもらうためにロレックスの店に持っていった。店ではその時計について何か言う人は誰もいなかった。数日後、Covid-19が起こり、その時計はその後3年間ほとんど着用されることはなかった。

そして2023年9月、時計が止まった。エリザベスは別のロレックスの店に時計を持ち込んだが、修理には4週間から6週間かかると言われた。ところが驚いたことに、そのわずか数時間後、時計の引き取り準備が整ったというメールが届く。修理代金は1000ドル(約15万円)を超えるだろうという彼女の予想に反して、0ドルだった。ロレックス店の担当者は、この時計にはアフターマーケットの部品が使われているため、修理はできないと言った。

偽物によって失われた投資価値



「担当者の顔を見て、時計が偽物なのだとわかった」とエリザベスは言う。彼女は時計をザ・リアルリアルに戻し、そこで鑑定人はその時計がスーパーコピーであると認めた。エリザベスが最初に時計を持ち込んだ店では気づかなかったように、ブランド自体も騙されてしまう本物そっくりの高品質の時計が市場に氾濫しているのだ。

ザ・リアルリアルは、エリザベスが時計に支払った9295ドル(約140万円)を返金することに同意したが、そこにはひとつ問題があった。エリザベスが時計をロレックスに持ち込んだとき、ロレックスの最初の査定では、その時計は彼女が購入してから数年のあいだに数千ドル値上がりしていた。現在まったく同じ時計が、再販市場でも、またロレックス経由でも1万5000ドル(約225万円)近くで売られている。

「新品で買おうが、中古品で買おうが、その時計を買い直そうと思ったら、どうしたって5000ドル(約75万円)分の投資を失うことになる」とエリザベスは言う。その上、エリザベスの元に戻ってくる9295ドル(約140万円)は、インフレのせいで3年前に使った9295ドルほどの価値はない。いずれにしても、彼女は経済的な損失を被ったのだ。

投資という切り口を強調する再販企業



エリザベスの苦境は、活況を呈しているラグジュアリー再販市場の興味深い傾向を浮き彫りにしている。ザ・リアルリアル、リバッグ(Rebag)、ファッションファイル(Fashionphile)のような委託販売プラットフォームは、時計やハンドバッグを美術品のような投資と同じように、価値をキープして鑑賞することができる金融投資として考えるよう、顧客に勧めている。それがこのモデル全体のセールスポイントだ。これらのプラットフォームはすでに認証に真剣に取り組んでいるが、顧客が将来的にそれらを売却して利益を得られる、あるいは少なくとも損をしないことを期待して商品を購入する場合、リスクはより高くなる。

そして投資という切り口は、再販企業が明確に強調しているものだ。数多くのラグジュアリー再販業者は、消費者がラグジュアリー製品を購入し、評価し、将来的に売却できる金融資産として考えることがこのモデルの利点だと何年も前からGlossyに語っている。これは顧客が半年以内に転売したアイテムの少なくとも70%のリターンを保証するリバッグ インフィニティ(Rebag Infinity)のような取り組みにも適用される。また、eBayのテラピーク(Terapeak)では、顧客は購入したアイテムの過去の価格を確認できるため、それが長期的にみて適切な投資かどうかを予測することができる。

各社の返品ポリシー



エリザベスによると、ザ・リアルリアルはストアクレジットで評価価値の残りを返金すると申し出たという。これはザ・リアルリアルに義務づけられている以上の行為であり、エリザベスはこの状況を改善するために同社が講じた措置には感謝していると述べた。

「当たり前だが、むしろ現金が手に入ったらいいのにとは思う」とエリザベスは言った。「ゼロからの出直しになるし、正直に言って、また中古品を買うのは気が重い。このお金で別の時計を買いたいと思ったら、最終的に時計を買うことになるにしてもザ・リアルリアルで購入しなければならない」。

大手ラグジュアリー再販企業のほとんどは、商品の返品時期についての条項を規約に定めている。通常、リバッグのような会社は、7日以内であれば、いかなる理由でも返品を受け付けている。多くの場合、ザ・リアルリアルなどの会社は、いつでもどんな商品でも再認証を申し出ている。ファッションファイルの担当者にコメントを求めたところ、同社では偽造品であることが証明されたアイテムについては無期限の返品ポリシーを設けており、全額を返金するという。リバッグとザ・リアルリアルはコメントの要請には応じてもらえなかった。

認証プロセスを強化する取り組み



再販業者は、偽造品が自分たちの信用にかかわることを承知している。eBay、ファッションファイル、ストックX(StockX)といった企業では、認証プロセスを強化する数々の取り組みが行われている。そうした取り組みは、新しい認証センターの開設やAIを含む新たな認証ツールとの連携など多岐にわたる。ファッションファイルとeBayの両社は、自社のプロセスに自動認証ツールを組み込み始めている。eBayは2月、AIを搭載した認証スタートアップである3PMシールド(3PM Shield)を買収するにいたっている。

再販プラットフォームがラグジュアリー商品を正確に認証する能力に対しては、シャネル(Chanel)がザ・リアルリアルに対して行ったように、ブランド自身が疑問を呈してきた。だが、エリザベスの話が示すように、時にはブランドでさえも騙されることがあるのだ。

セドム ロー グループ(Sedhom Law Group)の弁護士で、ファッション企業との取引を専門とするラニア・セドム氏は、再販プラットフォームには購入者が商品に対して最初に支払った金額以上の価値を返金する義務はないと述べている。

セドム氏は、ほかの多くのオンライン再販業者と同様に、ザ・リアルリアルは利用規約のなかで利益の損失を含むいかなる損害に対しても責任を負わないと明記している点を指摘した。

だが、エリザベスにしてみれば、5000ドル(約75万円)の評価価値を失っただけでなく、その時計に対する3年間の感情的な価値も失うという経験であり、結果的に少なくとも当面は再販を敬遠するという気持ちになっている。

「信用が損なわれた」と彼女は言った。「次に高級時計やカルティエ(Cartier)のジュエリーなどを手に入れるときは、そのブランドに行って購入する。中古市場に対する信頼はすっかり失われてしまったし、値引きにもなんの価値もなくなってしまった」。

[原文:Luxury Briefing: The Rolex she bought was fake - is she owed the appreciated value?]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)