女性のファッションでもっとも影響力のある人物を特定するのは簡単だ。ソフィア・リッチー・グレインジ氏やエイミー・ソング氏などのインフルエンサーは、インスタグラムに数百万人のフォロワーを抱え、ファッションブランドと定期的にコラボレーションしている。

しかし、男性が誰に影響を受けているのかを特定するのは少々難しい。データによると、ソーシャルメディアでインフルエンサーをフォローする男性は、女性よりも少ない傾向にある。16歳から24歳の男性はインフルエンサーをフォローする可能性がもっとも高いのだが、その割合は25%に過ぎない。インフルエンサーの数も女性に大きく偏っている。ある推計によれば、ファッションインフルエンサーの77%が女性である。一方、世界のメンズウェア市場の規模は約5500億ドル(約82.3兆円)だ。

有名アスリートを起用するブランド



10月末、スキムス(Skims)は待望のメンズウェアのローンチを発表、メンズスタイルのインスピレーションのために、アスリートなどいくつかの人気カテゴリーを活用している。キャンペーンにはブラジルのサッカー選手で、世界でもっとも稼いでいる有名アスリートのひとりであるネイマール氏を起用した。また、NFL選手のニック・ボサ氏や、TikTokで「薪割りをする男」としても知られるブラッドリー・ソー氏といったデジタルネイティブのインフルエンサーも起用されている。

インスタグラムに2億人以上のフォロワーがいるネイマール氏は、スキムスとの仕事に関する投稿で160万以上の「いいね!」を獲得した。ネイマール氏のようなアスリートは筆者にとってもインスピレーションの源であり続けているし、ディオール(Dior)からゲス(Guess)など多くのブランドとのコラボで、メンズのスタイルにおけるアイコンとなったエイサップ・ロッキー氏のような音楽アーティストもまた同様である。

だが、メンズファッションの購入に影響を与えているのは、ほかに誰がいるのだろう? そこで今回は、ファッションのインスピレーションをさまざまなソースから積極的に得ようとしている男性12人に、何から影響を受けているのかについて話を聞いた。その回答は、映画やテレビのキャラクターからファッションデザイナーや自分の祖父まで、広範囲に及んでいた。

参照するのはファッションデザイナーやアーカイブ画像



フィラデルフィア在住の建築家でメンズウェア愛好家のアンソニー・ランディ氏(31歳)は、特定のファッションデザイナーが、その所属するブランドが変わったとしても、主なインスピレーション源になっているという。

「自分のやっていることをよくわかっていて、その分野において強い発言力があり、シーンを作り出している人を見つけたいと思っている」とランディ氏は言う。「そのすばらしい例が、エメ レオン ドレ(Aimé Leon Dore)の創業者でクリエイティブディレクターのテディ・サンティス氏だ」。

ランディ氏はまた、ノア(Noah)の創業者で現在はJ.クルー(J.Crew)のメンズ・クリエイティブディレクターを務めるブレンドン・バベンジン氏や、メンズウェアのブロガーで、Xでは「メンズウェア・ガイ」としても知られているデレク・ガイ氏の名前も挙げた。

ガイ氏自身は、自分のことをインフルエンサーだとはあまり考えていない。彼はほとんどのブランドとの提携を避けているという。

「これはブランドに対する陰口でも何でもないのだが、ブランドとは仕事をしないようにしている」とガイ氏。「ブランドとは一定の距離を置くように心がけている」。

ガイ氏はメンズウェアの歴史からインスピレーションを得ており、主な参照元として20世紀の高品質なテーラリングのアーカイブ画像を挙げた。また、メンズデザイナーがウィメンズウェアからヒントを得ているという最近の傾向を賞賛し、それを最近のXのスレッドにまとめている。

映画やテレビの登場人物がスタイルアイコンに



何人かの男性は、映画やテレビのキャラクターがファッションの主なインスピレーション源であると語った。

「ユニクロやメイシーズ(Macy's)で売られているもの、映画に出てくる70年代の男性主人公、スタイリッシュになろうとしてない人たち、Reddit(レディット)でメンズスタイルに必死になってる姿勢とは反対の人たちなどを織り交ぜて(参照している)」とある男性は述べている。

ニコラス・ウィンディング・レフン監督の映画『ドライヴ(Drive)』のライアン・ゴズリング氏や、Huluのドラマ『一流シェフのファミリーレストラン(The Bear)』のジェレミー・アレン・ホワイト氏など、映画やドラマの俳優たちは、昔から男性にとって時代のスタイルを象徴する存在だ。『ドライヴ』のゴズリング氏は、ほぼ単独でハリントンジャケット(Harrington jacket)のスタイルをメンズウェアに復活させ、『一流シェフのファミリーレストラン』のホワイト氏の有名な白いTシャツはセンセーションを巻き起こした。

メンズウェアのライター兼エディターであり、『GQ』などの出版物にも寄稿しているトレス・ディーン氏は、こうした映画やドラマのキャラクターが、彼自身のファッションの進化を主に支えてきたと話す。

「私の場合は、やはりいつも映画に戻ってくる」とディーン氏は言う。「メンズウェアへの興味をかき立ててくれるのが映画だし、どんな映画であっても衣装やスタイリングに注目せずに鑑賞するのは難しい。ブラッド・ピットのシャツの着こなしは、とにかくこれまでこの世に存在した誰よりもうまいと思う。私の脳みそは、どのシーンだろうがジェームズ・ボンドのあらゆる服の名前をひとつひとつ挙げることができるし、映画『TAR/ター(Tär)』ではケイト・ブランシェットのザ・ロウ(The Row)のコートが気になって仕方なかった」。

2022年8月に『一流シェフのファミリーレストラン』の第1シーズンが放送されていたとき、この番組の衣装デザイナー、コートニー・ウィーラー氏は、テレビや映画におけるアイコニックなメンズウェアの瞬間が、男性の着こなしにますます影響を与えているとGlossyに語っている。

「長年にわたって、男性についてはそれほど細い点にまでこだわることは許されていなかった」とウィーラー氏は述べた。「映画に登場する男性がどんな服を着ているのか、それがスーツでもない限りは、必ずしも気にされていなかった。でも、それは変わりつつある」。

依然影響力があるソーシャルメディアのインフルエンサー



しかし、特に一般的な男性がファッションに関心を持つのが普通になりつつあるなかで、依然としてメンズファッションにおける役割を担っているのは、従来のソーシャルメディアのインフルエンサーである。デレク・ガイ氏のような人物の台頭、ジェームズ・ハリス氏とローレンス・シュロスマン氏がホストを務めるメンズウェアのポッドキャスト「スローウィングフィッツ(Throwing Fits)」、ノア・トーマス氏とジアン・デレオン氏が作ったフットウェアに特化したソーシャルメディアアカウントのミュールボーイズ(Muleboyz)、アルバート・ムスキス氏をはじめとするTikTokの多くのスターなどはすべて、メンズウェアを取り巻く発展中のメディアエコシステムの一部である。ガイ氏、ムスキス氏、スローウィングフィッツは、ソーシャルメディアのアカウントに数十万人のフォロワーを抱えている。

特にムスキス氏は、メンズウェア分野の第一人者のような存在になっている。人気のTikTokアカウントや、ハリーズ(Harry's)やロンハーマン(Ron Herman)といった企業とのコラボレーションに加え、サブスタック(Substack)で、メンズウェアに関する自身の見解の歴史と哲学をさらに深く掘り下げたニュースレターを毎週発行しており、購読者数は2000人を超える。

「最近の若者の服装だけでなく、メンズウェアのインフルエンサーの自己表現にムスキス氏が与えた影響ははかりしれない」とディーン氏は指摘している。「ムスキス氏は男性の服の着方に影響を与えただけでなく、男性が着こなしについて話す方法にも影響を与えている。それから、ジェイク・ウルフ氏(インスタグラムのフォロワー数5万8000人)もいる。ウルフ氏のメンズウェアへのアプローチは、俳優のオースティン・バトラー氏のワードローブを分解したり、eBayでクールなヴィンテージアイテムを探す方法を教えたりと、非常にわかりやすく、教育的だ」。

日常出会う身近な人々から影響を受ける人も



また多くの男性がGlossyに対し、祖父母や同僚など、日常生活における身近な人々から影響を受けていると述べた。

ロサンゼルスに住む脚本家でプロデューサーのジャレッド・コーウィン氏は、「お気に入りの服はボタンダウンの半袖Tシャツで、実際の自分の祖父にインスパイアされたので、僕のおじいちゃんスタイルと呼んでいる」と話す。

また、ニューヨークを拠点とする31歳のアドテック分析マネージャー、ジェイムズ・レッティエリ氏は、特定のインフルエンサーは必要としていない、ただ毎日街を歩き回っているだけで十分なインスピレーションが得られるとGlossyに語っている。

「ただソーホーで働き、目を光らせているだけで、ほとんど毎日のように憧れのルックを着た見知らぬ人とすれ違うことになる」とレッティエリ氏。「それにトッド・スナイダー(Todd Snyder)のカタログに載っているような人たちともね」。

[原文:Fashion Briefing: Who’s really influencing men’s style these days?]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)