即戦力拡充の阪神と巨人は上々の評価 一方で中日の指名には疑問点も【ドラフト3段階評価/セ・リーグ編】

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下村(左)と西舘勇(右)。それぞれ大学球界のエースクラスが揃って1位指名を受けた。(C)Norifumi NISHIO

 10月26日に行われた今年のドラフト会議。4年ぶりに有観客で開催され、1位指名では7度の抽選が実施された影響もあって大きな盛り上がりを見せた。

 各球団の指名結果については、あらゆる評価や考察があるが、今回は「将来性」、「即戦力」、そして「補強ポイントにマッチしていたか」の3点で分析。A、B、Cの3段階で採点してみたい。ここではセ・リーグ6球団を見ていく。

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【阪神】
将来性:B
即戦力:A
補強ポイント:B

 支配下では4人の投手と2人の内野手を指名。投手は独立リーグの椎葉剛(徳島インディゴソックス)と社会人の石黒佑弥(JR西日本)を含めて全員が大学4年生と同世代。内野手の2人もいずれも高校生と、投手は即戦力性、野手は将来性と、狙いを感じさせる指名となった。

 投手は全員が完成度を備えており、揃って一軍の戦力になる可能性も高い。とりわけ1位指名の下村海翔(青山学院大)、椎葉(2位)、石黒(5位)の3人はコンディションさえ問題なければ開幕一軍入りも十分に期待できる。チームの投手層は確実に厚くなったと言える。

 一方で内野手の2人も高校球界屈指のショートであり、将来への備えもある程度は評価できる。補強ポイントは主に投手だっただけに十分な指名と言えるが、もう一つ挙げられていた捕手の指名がなかった点で「B」とした。

【広島】
将来性:A
即戦力:B
補強ポイント:B

 楽天との競合の末に1位で指名した常広羽也斗(青山学院大)は、もちろん一年目から活躍が期待できる。ただ、彼は身体つきが明らかに細く、下級生の頃の故障歴をふまえても休ませながらの起用が現実的だ。逆にまだまだ伸びそうな雰囲気は十分で、将来性は非常に高い。

 他に獲得した高太一(大阪商業大)、滝田一希(星槎道都大)、赤塚健利(中京学院大)の大学生投手3人も、完成度よりスケールの大きさが魅力。唯一の野手である高校生の仲田侑仁(沖縄尚学)も含めて、将来性がかなり楽しみな指名になった印象だ。補強ポイントについては投手陣の世代交代と、右の強打者タイプという点で十分にクリアしている。二遊間と外野手もカバーできるとなお良かった。

3球団競合の末にDeNAが指名権を獲得した度会。(C)Norifumi NISHIO

【DeNA】
将来性:B
即戦力:B
補強ポイント:B

 1位では3球団競合の末に度会隆輝(ENEOS)を引き当てた。どこを守るかは流動的だが、打撃に関しては一軍でも通用する可能性が高く、1年目から戦力として期待できる。2位の松本凌人(名城大)も好調時の球威が戻ればという条件付きだが、ブルペン陣の一角に食い込む可能性も期待できる。

 将来性という意味で度会以上に楽しみなのが3位の武田陸玖(山形中央)。二刀流を続けられるかは不透明だが、とくに打撃は高校球界でも屈指のスケールがあり、長打力も備えている。化ければ、吉田正尚(レッドソックス)のような打者になる可能性もある。野手については確実に補強できたが、投手はトレバー・バウアーや石田健大ら主力の去就が不透明なことを考えると、少し不安の残る指名だった。

【巨人】
将来性:C
即戦力:A
補強ポイント:B

 1位で大学球界屈指の実力を誇る西舘勇陽(中央大)を指名した後は、満年齢24歳以上の社会人選手を4人揃えるという思い切った指名となった。

 西舘、2位の森田駿哉(トヨタ自動車)は特に高い完成度を備えており、投手陣の立て直しのために1年目から期待がかかる。また他の3人も社会人で結果を残しているだけにプレーのレベルは高く、一軍入りを争う可能性も高い。来年からすぐに勝負できる選手を揃えたという点で即戦力はAとした。

 当然、将来性は低くなる。昨年に育成で獲得した多くの高校生が成長している背景もあって今回の指名になったと考えられるが、今年の顔ぶれだけを見れば、やはり将来性はC評価だろう。補強ポイントについては野手の指名には少し疑問が残ったものの、投手陣の整備という意味では狙い通りだったと言えそうだ。

草加を1位指名した中日。好打者の度会を外した立浪監督だったが、投手陣の拡充に努めた。(C)KentaHARADA/CoCoKARAnext

【ヤクルト】
将来性:B
即戦力:B
補強ポイント:A

 近年の課題である投手陣が最大の補強ポイントとあって、上位3人は投手の指名となった。1位の西舘昂汰(専修大)と3位の石原勇輝(明治大)は大学生ながら即戦力というよりもスケールの大きいタイプで、逆に2位の松本健吾(トヨタ自動車)は完成度が高く故障がなければ1年目から一軍の戦力として期待できる。

 それぞれタイプも異なり、また西舘はスタミナ面も充実していることを考えると補強ポイントだった投手については良い指名だったのではないだろうか。2人の野手は即戦力というよりも将来性を感じる指名。捕手の鈴木叶(常葉大菊川)は近い将来、内山壮真とレギュラー争いが期待される大型捕手で、伊藤琉偉(新潟アルビレックスBC)もまだ若く、山田哲人の後釜という意味で面白い。全体的に突出はしていないものの、バランスの良い指名だった。

【中日】
将来性:B
即戦力:B
補強ポイント:C

 度会を外した1位では草加勝(亜細亜大)を指名。2位と3位では社会人のショートを揃え、4位以下では投手を3人獲得した。

 投手陣は、現在の主力こそ力はあるものの高齢化が目立ち、二軍を見ると壊滅的な状態。底上げは必要不可欠だった。ただ5位の土生翔太(茨城アストロプラネッツ)と6位の加藤竜馬(東邦ガス)は完全なリリーフタイプであり、4位の福田幸之介(履正社)も高校生と考えると、イニング数を稼げそうなタイプは草加だけ。そういう意味では人選に少なからず疑問が残った。

 野手も昨年に続いて二遊間のチャンスメーカータイプを獲得。同年代に同じタイプの選手が重なるのは違和感がある。2位指名が12球団トップで、力のある投手や強打者タイプも残っていただけに、もったいなさを感じる指名だった。

[文:西尾典文]

【著者プロフィール】

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。