山手線各駅の乗車人員がコロナ禍前の2019年度と比較してどの程度回復したかを集計した

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日本の通勤電車の代表格、JR山手線のE235系車両(撮影:風間仁一郎)

東京の大動脈であり、首都圏はもちろんのこと日本を代表する通勤電車といえるJR山手線。コロナ禍で減少した鉄道利用者数が全国的に回復しつつある中、通勤・通学だけでなく観光やレジャーにも利用される同線の利用者はどの程度復活したのだろうか。

JR東日本が7月に公表した2022年度の1日平均駅乗車人員データを基に、山手線各駅の乗車人員がコロナ禍前の2019年度と比較してどの程度回復したかを集計し、ランキングした。

回復率トップは韓流効果?

対象としたのは、2020年3月開業のため比較データのない高輪ゲートウェイ駅を除く29駅。乗車人員は、山手線以外のJR東日本各線が乗り入れる駅の場合は全線の合計数だ。

2022年度、コロナ前比でもっとも乗車人員の回復率が高かったのは新大久保駅(東京都新宿区)。同駅は乗車人員数で見れば山手線の全30駅中25番目だが、回復率は88.1%とコロナ前の1割減程度まで戻った。とくに復調が進んだのは定期外客で、回復率は93%。新大久保は韓国文化などアジアンカルチャーで知られる街であり、観光や買い物などレジャー利用が回復を牽引したと考えられそうだ。

次いで2位は西日暮里駅(荒川区)で、回復率は84.5%。以下3位は駒込駅(豊島区)、4位巣鴨駅(同)、5位大塚駅(同)と比較的規模の小さな駅が続く中、7位には全国屈指のターミナルであり、JR東日本管内で乗車人員2位の池袋駅(同)がランクインした。回復率は82.1%で、新宿や東京などほかのターミナル駅が軒並み7割台にある中での「快挙」だ。

一方、最下位は品川駅(港区)で、65.9%とコロナ前から3割以上減った状態だ。とくに定期客の回復率は56.7%と低く、定期外客が8割近くまで回復しているのに対して低迷が続いている。同駅に次いで回復率が低いのは隣の大崎駅(品川区)で66.9%、その次も品川から2つ目の田町駅(港区)で68.8%。下位6駅は定期客の回復率がいずれも65%以下で、通勤利用者がなかなか戻らない状態が見て取れる。

テレワークの浸透率を反映か

回復率上位10駅の特徴は、すべて山手線の「上半分」、北側の新宿―上野間に集中していることだ。一方で、下位の10駅は品川付近を中心に南側にある。

これはテレワークの普及率に関係しているとみることができる。東京都の「テレワーク実施率調査結果」(2022年10月)によると、同月時点の都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は54.1%。地域別のデータはないが、従業員規模別では300人以上の企業は実施率67.9%と高いのに対し、100〜299人の企業は58.5%、30〜99人の企業は49.3%と低く、テレワークの普及は従業員数の多い大企業が中心であることがわかる。

一方、東京都産業労働局の「東京の産業と雇用就業2022」掲載の資料によると、都内の企業数に占める中小企業の割合は98.8%で、23区は98.5%(2016年度)。中小企業の定義は業種によって異なるが、例えば製造業は資本金3億円以下または従業員300人以下、サービス業は資本金5000万円以下または従業員100人以下などだ。乗車人員の回復率が高い山手線の北側にあたる豊島区、北区、荒川区はいずれも中小企業の比率が99%を超えており、テレワーク実施率が低い従業員数の少ない企業が多いと推測できる。一方で南側にあたる千代田区、港区は中小企業の比率が95%台、品川区も97.4%で、相対的にテレワークの実施率が高い大企業が多い地域といえるだろう。


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JR東日本は、乗車人員がとくに多い上位100駅を「ベスト100」として公開しており、2022年度は山手線の30駅中26駅が100位内にランクイン。圏外だったのは田端・目白・鶯谷・高輪ゲートウェイの4駅のみで、同線が乗り入れる各駅の利用者がいかに多いかがわかる。山手線の駅乗車人員の増減は、都市の変化をリアルに映し出しているといえるだろう。


(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)