「やりとりも店選びも完璧なのに連絡がない…」自信過剰の弁護士の男がおかした重大なミス
恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。
接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。
そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。
理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。
私の、僕の、どこがダメだったのだろうか？その答えを探しにいこう。
▶前回：麻布十番で初アポに臨む、広告代理店勤務の女28歳。デート中、仕事関係の邪魔者が現れて…
Episode09【Q】：柴崎 雅臣（36）
肩書にも恋愛にも自信あり
『柴崎 雅臣：昨日はありがとう。楽しくて飲みすぎてしまいました。結衣ちゃんは、ちゃんと帰れたかな？』
すぐに返信をくれる結衣なのに、正午になっても返事がない。
僕は気を紛らせるため、豚バラと使いかけのキャベツで塩焼きそばを作った。
『料理が好きな男性っていいですよね』
結衣が言ってくれた言葉を思い出す。
出会いこそマッチングアプリだが、僕は彼女と真面目な付き合いをしていくつもりでいた。
― もしかして、このまま音信不通に？いや、まさかな…。
結衣と会うのは、昨日が初めてだ。
だけど、メッセージのやりとりの段階でも僕たちは盛り上がっていたし、昨夜も楽しかった。
それなのに、結局夜になっても結衣から返信が来ることはなかった。
― この子、かわいいなぁ。
友人たちの間で最近話題になっていた、マッチングアプリ。
彼女がいない僕が、迷うことなく会員登録したのは先月のこと。
他のアプリに比べて、綺麗な子が多いと聞いていたが、あながち間違いでもなかった。
僕は、31歳のYMに目を奪われた。
『医療関係の仕事をしています。医師ではないので、逆玉狙いの方はごめんなさい。笑
ちょっと前まで韓国ドラマにハマっていましたが、最近は日本のドラマも面白くて、夜な夜な一人でワインを飲みながら見てます』
― 医療関係か。ナース、医療事務…いや、受付かな？
そんなことを思ってみたが、正直言うと相手の職業はなんでもよかった。
僕がそれなりに稼いでいるから、恋人は何をしてくれていてもいい。
顔が可愛くて、性格が悪くなければ問題ないのだ。
『はじめまして。都内で弁護士事務所を経営しています。趣味は料理ですが、外食も好きなので美味しいもの食べに行きませんか？Yさんの好きなもの、食べに行きましょう。それと僕も最近、日本で制作した配信ドラマの質に驚かされています。やはり資本があると違いますよね』
僕は、彼女に好感を持ってもらえるような文面を考えて、送信した。
堅苦しいのはダメだし、長すぎる文章も最初から読んではくれない。
もちろん、コピペだとわかるのもNGだ。
女性のプロフィールをちゃんと読んでいることがわかる一文も欠かさない。
― このメッセージを嫌がる女性はいないだろう。
その努力は、見事に実を結んだ。
『メッセージありがとうございます。弁護士さんなんですね！料理できる男性、素敵ですね』
― よし。まずは第一関門クリア。
LINEでやりとりするようになってからは、本名も明かした。
『柴崎 雅臣：結衣さんは、普段料理しますか？^^ 』
『YUI：したいんですけど、平日は忙しくてできてないです〜』
『柴崎 雅臣：そうだよね。仕事、クリニックの受付かな？結衣さんは美人だから人気ありそう』
『YUI：ありがとうございます。でも全然そんなことなくて。笑』
LINEで長文のやりとりは、お互いの負担になる。
だから、短文で会話を進めることにしたのだが、結衣もサクサク返事をくれた。
― これなら、クロージングも早いぞ。
僕は、順調な滑り出しに安心する。
待望のデート
西麻布にある住所非公開のフレンチ。
金曜日に席があるとは思わなかったのだが、たまたまキャンセルが入ったらしく、運良く予約できた。
「こんばんは、結衣です」
「雅臣です。来てくれてありがとう」
ノースリーブのワンピースで現れた結衣は、写真よりも綺麗で見惚れてしまう。
「ここって、完全個室のレストランですよね。なんだか緊張しちゃいます」
「来たことあった？」
「いえ。でも、いつか来てみたいなぁとは思っていました」
― それならよかった。
一安心した僕は、結衣とシャンパンで乾杯をした。
店の雰囲気がよく、料理もお酒も美味しい。ライティングのせいか結衣もさらに美しく見える。
「結衣ちゃんって、結婚願望ある人？」
僕は、メインが来る前に結衣に聞いた。
「う〜ん。まぁ、人並みにはありますよ。仕事も辞めたいなって思うことも多くて」
「そうか、それなりに大変なんだね。電話も多そうだしね」
女性は共感してもらうのが好きだ。だから、仕事の愚痴も聞いてあげた。
「そうですね。やりがいのほうが大きいですけど。だけど、もう少し頑張ろうかなって」
「うんうん！応援してるよ。世の中には、もっとハードな仕事をしてる人もたくさんいるしね」
励まされて嫌な気分になる人はいないだろう。
結衣は、小さく「ありがとうございます」と言いグラスを持った。
彼女はワインを飲むとき、横を向き、顔は上げない。
その飲み方が、とても上品で胸を打つ。
大学も有名なところを卒業していたし、きっと育ちがいいのだろう。
― こんな子と結婚できたら、幸せだろうなぁ…。
気持ちが先走ってしまい、ワインのペースも早くなる。
「僕は、結婚したら仕事辞めてとか言わないタイプなんだよね。でも…」
「でも？」
結衣が、僕を見つめた。
僕はもう36歳だ。そろそろ結婚を視野に入れてもいい年齢。
「今は、他にも代わりがいる仕事のほう方が多いじゃない？それなら専業主婦になってくれてもいいし、僕の仕事のサポートをしてくれたら嬉しいかもな」
「弁護士さんですもんね。支えたいって女性は多そう！」
結衣は、ニコニコしている。
― これは、脈ありだな。
「結衣ちゃんワインどうする？次、赤にしようか？」
「そうですね。お任せします〜」
このあと、赤ワインをグラスで2、3杯飲んだはずだ。
僕も結衣もお酒をよく飲み、話も弾んでいい会だったと思う。
それなのに、翌日のLINEに返信がないのは、どういうことなのだろう。
やりとりの段階からスムーズで、店選びも会話も文句なしの出来だったと自負している。
ただ、寝ているだけだといいのだが…。
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結衣が気になった、雅臣のNGポイントとは
