4月に既存店から2倍に増床して移転リニューアルしたギンザシックス店。中央に試着室を配置し「顧客体験」を重視している(提供:ルルレモン)

訪日観光客で日に日に賑わいを増していく東京・銀座。ラグジュアリーブランドやデザイナーズブランドなどが多く出店する商業施設「ギンザシックス」の4階で、一際大きな店舗を展開するのがカナダ発の衣料品ブランド「lululemon(ルルレモン)」だ。

1998年にカナダのバンクーバーで創業したルルレモン・アスレティカは、吸汗性やストレッチ性に優れたヨガウェアをはじめとしたスポーツウェアを販売する。

業績は右肩上がりの成長が続く。2022年度(2022年2月〜2023年1月)は売上高が前期比29.6%増の約81.1億ドル(約1兆1718億円)、営業利益は同99.6%の約13.2億ドル(約1907億円)となった。6年前の2017年から、毎年平均25%増の勢いで売上高を伸ばしている。

時価総額でアディダスを超えた

アパレル業界では「ZARA」を展開するインディテックスが売上高約5.1兆円で首位となっているが、H&Mの約2.9兆円、同3位で「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの約2.3兆円に続き、業界5位前後にルルレモンは位置する。

一方で、株式市場はルルレモンの高い成長性を評価。7月時点の時価総額は約6.5兆円で、インディテックス、ファーストリテイリングに次ぐ、アパレル時価総額で世界3位まで上り詰めた。スポーツウェア業界の中ではナイキの時価総額約24兆円には遠く及ばないものの、アディダスの約4.5兆円を上回る。

成長を牽引してきたのが、独自の「コミュニティマーケティング」だ。商品を売るだけでなく、ヨガやマラソンなどの運動イベントを自ら主催してファン同士のコミュニティを形成することで客層を拡大してきた。

ルルレモンが新たな成長戦略として掲げるのが、メンズとeコマースだ。2026年までに売上高倍増を目指している。さらに(本拠地の北米を除く)アジア・欧州などの売上高を4倍に増やすことで、売上高125億ドル(約1.8兆円)という中期目標を掲げる。

ルルレモン・アスレティカ日本法人で代表を務めるスチュワート・テューダー氏は日本市場について「人口減少や円安があったとしても、中期目標を目指すうえで重要なマーケット」と語る。成長のカギを握る店舗が、冒頭のギンザシックス店だ。


ギンザシックス店は、日本展開の足掛かりとして2017年に出店。従来の5階から4階に移転し、増床改装を経て今年4月にリニューアルオープンした。店舗面積は従来比約2倍の389平方メートルに広げ、メンズ売り場は倍近くまで拡充。テューダー氏は「改装前からギンザシックス店はメンズの売り上げが好調だったので、さらに伸ばしていく」と力を込める。


店舗中央に位置する豪華な試着室(提供:ルルレモン)

店舗改装のポイントは、売り場の中央に設置した試着室だ。一般的にアパレルショップの試着室は店舗の端に設置する場合が多い。しかし、ギンザシックス店ではウィメンズとメンズの売り場をつなぐ店の「ど真ん中」にあえて置いている。

個室の中は、携帯電話の充電ポートや自撮りに適した照明付き鏡などを設置。テューダー氏は「社内データから、日本のユーザーは他国と比較して試着室で過ごす時間が長いことがわかった。ギンザシックス店では試着室を重視して店の真ん中に設計し、個室内にもさまざまな機能をつけた」と狙いを語る。

銀座と六本木を日本の「ハブ店舗」に

個室を出た試着室の共有スペースにはカウンターテーブルを設置し、家族や友人など一緒に来店した客同士で会話をかわせる場所を作った。テューダー氏によるとルルレモンでは試着室でいろいろな服を試すのは女性に限らず、男性も時間をかけて試着する客が多いという。

ここに目標に掲げる「メンズ売り上げ2倍」の突破口がある。従来は女性向けヨガウェアが代表的な商品だったが、今では男性向けのカジュアルウェアの人気も高まっている。

とくにコロナ禍で在宅勤務が普及すると、仕事で着用できるシャツや伸縮性の高いパンツに注目が集まった。メンズ向けパンツは価格帯が1万〜2万円弱と安くない価格帯だが、「男性客は『これだ』と思ったら同じ服をまとめて買ったり、買い続けてもらえる。日本のみならずアメリカでも同じ特徴があり、これが強みだと思っている」(テューダー氏)。

ギンザシックス店はメンズ商品の取り扱いを増やしたことに加え、インバウンド(訪日外国人)の受け皿としても日本展開における要衝となる。

ルルレモンの売上高構成比は、本拠地のカナダを含めた北米で約85%を占める(2022年度)。一方、伸び率で見ると北米以外のアジア太平洋や欧州の拡大が著しく、中でも存在感を高めているのが中国市場だ。

2022年度の中国市場の売上高は前期比30.9%増の6.81億ドル(約984億円)で、店舗数は117まで増えた。売り上げ規模では国別2位のカナダに及ばないが、100店舗以上を展開するのはアメリカ(2022年度末は350店舗)と中国のみとなっている。


ギンザシックス店では好調なメンズの売り場を2倍に増床した(提供:ルルレモン)

テューダー氏は「訪日観光客が東京に来て、まず行くのがやはり銀座。日本へのインバウンドはこれからどんどん増える。リニューアルした銀座店で多くの需要を取り込みたい」と意気込む。

日本政府観光局の推計によれば、2023年1〜5月の訪日観光客は863万人と前年同期比の約22倍まで増えている。コロナ前の2019年1〜5月の1375万人には届かないが、さらなる回復が期待できそうだ。

「大都市集中出店」の成否は

今後の日本での出店は東京都内が主軸となる。現在、東京23区内の南側は六本木店、東側はギンザシックス店が各エリアの「ハブ」店舗となっている。今後は小型店も増やし、ドミナント展開を進める方針だ。

現在、日本では8店舗を展開するが、そのうち5店舗が東京都内。他は大阪府などだが、国内の地方都市のすべてをカバーしているわけではない。そこで活用するのがeコマースで、コロナ禍をきっかけに成長が続いているという。

「eコマースを通して、日本全国のユーザーの動向を把握できる。未出店の地域でもeコマースの売り上げに勢いのある都市は、優先的に出店するという戦略も打てるようになる」(テューダー氏)

こうした大都市圏に集中した店舗戦略や、得意のコミュニティマーケティングで日本にどれだけルルレモンを浸透できるのか。日本での成長を見据え、新たな戦略が動き出している。

(山粼 理子 : 東洋経済 記者)