東海道線じゃないぞ車窓…特急「湘南」の異端列車″摩訶不思議ルート″のワケ 歴史は30年
朝夕に東海道線で運転される特急「湘南」のうち、東京行き2本は、一般の東海道線とは異なるルートを通ります。知らない人は車窓風景に驚くかもしれません。
東海道線の特急なのに!?
東海道線で平日朝夕に運行される特急「湘南」。伊豆方面の特急「踊り子」用のE257系電車を利用し、通勤需要を見据えて計11便が設定されています。一部をのぞき小田原〜東京間の運転で、ライバルである小田急「モーニングウェイ」にも対抗する存在です。
この中で、ちょっと異質な列車があります。朝8時台に東京駅へ到着する湘南8号と10号がそれで、他の列車とは車窓風景が明らかに異なっているのです。
朝夕に運転される特急「湘南」(画像:写真AC)。
湘南8号と10号は藤沢駅を出発すると、次の停車駅は品川駅。大船駅を横目に過ぎ、東戸塚駅を通過し、トンネルに入ります。すぐにトンネルを抜け、やがて保土ヶ谷駅を通過……するはずが、トンネルはなかなか終わりません。
長い長いトンネルを抜けると、急に車窓にたくさんの線路が映ります。貨物コンテナが並んでいて、どこだここは……と怪訝に思っていると、またすぐに長いトンネルに入ります。
どこに連れていかれるのか不安なまま、しばらくして地上に出ると、やがて見覚えのある風景が。横須賀線の武蔵小杉駅です。そのまま横須賀線を走り、品川から地下へ入り、東京駅に到着したのは総武線地下ホーム。「東海道線の特急」というイメージにとらわれると、最後まで何がなんだかわからなくなりそうです。
このルートの正体は東海道貨物線で、武蔵小杉を通過する前の“謎の地上区間”は、横浜駅から北西から直線距離で3.5km離れた貨物駅「横浜羽沢駅」です。現在は隣接して「羽沢横浜国大駅」が開業。貨物線は一部が旅客化を果たして「相鉄・JR直通線」となりました。
さらに言えば、「湘南」は小田原駅からずっと「東海道貨物線」という、東海道線と並行しつつ完全な別の線路を走っています。多くは途中で東海道線の線路に移りますが、8号と10号はそのまま貨物線を走り続けるダイヤになっています。
実は歴史が長い「特殊ルート」
この摩訶不思議な2本の東京行き「湘南」のルーツは、ちょうど30年前にさかのぼります。
もともと特急「湘南」は、2021年3月のダイヤ改正までは、快速「湘南ライナー」として運行。「ライナー券」520円を購入して乗車する列車でした。
この湘南ライナーは1986(昭和61)年11月に運行開始。「踊り子」の車両を東京へ回送するついでに旅客化し、小田原〜大船で東海道線に並行する貨物線を利用する形で、3分間隔の超過密ダイヤを横目に走り抜ける「着席保証列車」として誕生しました。普段の列車とは異なる線路を走り、横浜駅すら通過するという、当時は異例の存在でした。
国鉄民営化してJRになると、全車2階建ての「215系」も投入されています。さらに「湘南新宿ライナー」も誕生。現在は「湘南新宿ライン」として旅客化した、品鶴線・山手貨物線を通る運行系統でした。
さて、「湘南ライナー」はそれまで東京駅の東海道線ホームに到着していましたが、1993(平成5)年のダイヤ改正で、上り2本のみ総武線地下ホーム到着となります。このダイヤが、今に受け継がれているというわけです。
今年で30年目になる「2本だけの地下ホーム行き」の理由について、JR東日本は「この2本は横須賀線経由なので、総武線地下ホームに到着しています」とのこと。
西大井から来た横須賀線は品川の手前で東海道線を跨いでいくため、東海道線の線路へ移ることができないのです。一応渡り線は設けられていますが、朝夕ラッシュ時に過密の線路をゆっくり平面交差で横断していくのは、ダイヤにとって致命的な邪魔になります。そのため、そのまま横須賀線の地下ルートで東京駅まで行ってしまうわけです。このルートを取る2本のみ、新橋駅(地下ホーム)にも停車します。
なお、「謎のルート」である羽沢貨物駅と西大井経由(品鶴線)は、「湘南ライナー」運行開始の2年後である1988(昭和63)年に一部列車で採用されたのが発端。理由のひとつとして、都心に近い大船以北は特に東海道線が過密状態になるので、バイパス線へ逃げるという点があります。当時は品川で東海道線の線路へ移っていました。
ちなみに総武線地下ホームに到着した「湘南8号」は、回送となったあと、いったん錦糸町まで行き、留置線でしばらく待機。ラッシュ時の混雑が収まる時間帯に、茅ヶ崎駅東側の留置線まで引き上げていきます。この回送ダイヤ、もともと東京駅総武線地下ホームでそのまま折り返していましたが、相鉄・JR直通線が開業したことで西大井〜武蔵小杉周辺のダイヤ密度が高くなった背景もあり、2019年11月末に現在の形に変わっています。