親馬鹿? いや、それが普通の善良な父親なんじゃないですかね。

父親  「(今後は)親元へ帰らせ、実家から通える仕事を…(芸能活動は)こういうことになりましたんで、あきらめるよう言っております」

被告人の外見、雰囲気からして、また感受性が強く、負けず嫌いで頑固なところからして、努力が実って人気が出るかもしれない。だがそのとき、本件は大スキャンダルになり得る。被告人は取り返しのつかないことをしてしまったのだ。そして被告人質問が始まった。

弁護人 「どうして突き飛ばしたのか、そのときの考えは?」
被告人 「私にとって、歩くということは訓練と同じ…もちろん周囲に注意していたのですが、よけきれず、肩がぶつかり…自分が邪魔者扱いされることに不公平だという思いが…そういうふうに生き続けよう…」
弁護人 「今はどう思いますか」
被告人 「自分の目的のために行動する…それを正当化する理屈だったと思います」
弁護人 「そう思ったのは」
被告人 「逮捕、勾留され、自分の行為を見つめ直して…」
弁護人 「被害者に対し…」
被告人 「本当に申し訳ないことをしたと…」

そのへんで私はそっと出た。9分後に別の法廷で、どうしても絶対に見逃せない事件があったので。1週間後、ぶつかり男の判決言い渡しがあった。

裁判官 「主文。被告人を懲役2年に処する。この裁判が確定した日から4年間、その刑の執行を猶予する。その猶予の期間中、被告人を保護観察に付する」

執行猶予とは、その間を要するにおとなしくしていればいい、判決は効力を失って刑務所行きはもうなくなる、という意味だ。猶予は普通は3年だ。4年は重い。しかも保護観察付き、だいぶ重い。同種罰金前科が2犯あることが大きく影響したのだろう。

ながらスマホで歩いても、多くの人は「迷惑な奴だ」と舌打ちしつつよけてくれる。しかし、よけずにまっすぐに突進してくる人もいる。駅の雑踏には、いろんな人がいる。

ちなみ私の場合、頭の中が煮詰まって、一触即発、何かやらかしかねない者はいないか、キョロキョロ見回しながら歩く。今のところ、電車内で1人、明らかにヤバそうな人を発見しただけだ。そのときは何も起こらず、でもドキドキしたよ。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。