麻雀(マージャン)のプロリーグ「Mリーグ」が、大きな盛り上がりを見せています。複数のチームがしのぎを削り、半年以上をかけて優勝を競い合う様子は、これまで麻雀に触れてこなかった人たちをも夢中にさせています。

そのMリーグで活躍する女性雀士(じゃんし)のひとりが、瑞原明奈プロ。Mリーグのチーム「U-NEXT Pirates」メンバーで、2021-22シーズンでは、参加選手32名の中でMVPを獲得するなど大活躍。ここでは2児の母という“働くお母さん”でもある瑞原さんに、仕事と暮らしについてインタビューしました。

 

瑞原明奈さんインタビュー。「母親であることをもっと誇りに思ってほしい」

瑞原さんは、今年2月に初エッセイ

「日記のようになるべく正直に自分の気持ちを伝えることを心がけたので、それを表したくてつけたタイトルです。『つれづれ』の部分は、『徒然なるままに』であると同時に、つらいこともいろいろあるというニュアンスを含めたくて、ひらがなにしました」

 

●「人と人はどうせわかりあえない」と思う理由

タイトルの「つれづれ」に含まれた「つらさ」。「脳内をタイムスリップするような感じ。泣きながら書いていた章もあります」と執筆を振り返ります。なかでもつらかったと語るのは、初年度2021年シーズンで起きた、ある“ミス”。

大きな得点のチャンスの場面でミスをし、大きな批判を浴びました。本では、〈こんなミスをしたせいで、私のうしろにあるすべての看板に傷をつけてしまった。チームはもちろん、Mリーガー、最高位戦、麻雀プロ、ネット麻雀、母親、女性……みんなに申し訳ない〉とつづっています。

「1年目から、表に出て戦うということは、いろいろな看板を背負ってるんだというのを肝に命じて戦っていました。自分が活躍すれば、自分の看板が評価される。そしてあのミスによって逆に、自分の後ろにあるいろんな看板を傷つけてしまったと思ったんです。

チームメイトの小林(剛)さんは『ミスをするのもプロの仕事』と言ってくれたし、周りの人たちは励ましてくれましたが、だれかを見るたびにごめんなさいという言葉しか出なかった。たとえば塚田美紀プロが励ましの連絡をくれたときも、塚田さんとは団体が一緒だし、女性同士だし、母親同士だし…と、よりたくさんの『ごめん』があふれました」

ただ、そのミスに対する考え方は、しだいに変わっていったのだそう。

「今後自分はこのミスのことを言われ続けるだろう、麻雀の実力を評価される際のキズとしてずっとついてくるだろうと思ったんですよね。でもそれによって逆に、『評価されたい、うまいと思われたい』という感情、今思えば呪いのようなものから離れることができました。麻雀を打っているときにミスをしてもそんなに動揺しなくなったし、人のヒューマンエラーに対しても理解を持てるようになった。今では、あの出来事があったから今の自分がいると思えます。でもそういう風に思えるのは、あの2019-20シーズンでPiratesが優勝できたから。チームメイトに本当に本当に感謝しています」

挫折と立ち直りを経験したいま、SNSの反応も含めて、あまり周囲の評価や反響を気にすることがないのだといいます。

「もともと『人と人はどうせわかりあえない』と思っていて(笑)、ほめられたいとか好かれたいという感情って、基本的に何もいいことがないなって。ほめるのも、好きになってあげるのも、甘えるのも、自分自身が自分にやってあげるのが、たぶん一番効率がいいと思うんですね」

●試合前に掃除して運気を上げています(笑)

Mリーグの試合は週に約8回。夜7時から始まり、試合終了後の検討まで含めれば、終わるのが0時近くになることも。またMリーグ以外にも、さまざまなリーグ戦やタイトル戦、勉強会、ファンに向けた配信やイベントなども行われています。家庭と仕事の両立を、瑞原さんはどう実現しているのでしょうか。

「家事は効率化しています! 全自動洗濯機や食洗機、浴室乾燥機など家電をフル活用。掃除機はマキタのコードレスを使っているんですが、すごく便利です。それから水回りやトイレをきれいにすると、運気が上がると言われているんですよね。麻雀ってけっこう運が大事なゲームなので試合前になると『掃除しなきゃ』と思うんです。私が出場するのは週に1〜2回なので、ある意味掃除の頻度としてはちょうどよくなります(笑)。

あとは、いろんなことを適当にしています。もともと適当な人間なんですよね…(笑)。たとえば料理の盛りつけは、子どもたちの食育に悪い影響のない範囲であればいい。ひとりだったらもうなんでもいい。自分が生活するうえでストレスなく、問題がないなら、それでいいやと思っています」

そしてずっと大事にしているのが、「ひとりの時間は家事や用事をせず、自分に使う」ことなのだそう。

「Mリーガーになる前、一人目が生まれたときからずっと決めていました。子どもが寝たら、よーいドンで自分の時間。私の場合は、ネット麻雀で麻雀の勉強と研究という、仕事に関係するものですが、趣味の時間でも同じだと思います。育児って本当に大変だから、自分の時間を自分に使うことで、育児にも向き合えるんじゃないかなと」

 

●「お母さんであること」を大事にしながら戦うということ

瑞原さんは2021-22シーズンのMVP授賞式で「私が活躍することが、働く女性や戦うお母さんをはじめ、だれかの励みになれたら嬉しいなと思います」とスピーチしました。本でも「一方的に、勝手に、世界中のお母さんのことを仲間のように思っています」とつづっています。

「先日、ある女性の方から『育児休暇や子育てで、職場に迷惑をかけてしまうのが気になる。子どもが熱を出して休むことや帰ることが申し訳ない』という悩みを聞きました。きっとそうやって『迷惑をかけているな』と悩む女性は多いと思うんですが、私個人としては違和感があって。確かに周りの人はその分の仕事を担ってくれているけど、一方で、母親であることをもっと誇りに思ってほしいなと思います。

みんなが仕事をしてだれも子どもを育てなかったら、人類は滅びてしまいますよね? 私は別に人類のために子どもを育てているわけじゃなくて、自分の幸せのためにやっているけど…、客観的に見ると、ママさんたちは社会のために子どもを育てていると言えると思うんです」

最後に、心がけていることを聞きました。

「基本は、私は『お母さんであること』を大事にしていきたいと思っています。子どもたちが小さいうちは、母親業をちゃんとやりたい。でも、子どもって、本当にあっという間に大きくなって、どんどん手がかからなくなっていく。それにつれて、自分で仕事にあてられる時間も増えてきました。そのバランスをとりながらこれからもやっていくんだろうなと感じています。

でもやっぱり、育児しながらだと、仕事の面でできないことのほうが圧倒的に多い。それを考えると、焦りや不安がふくらんできてしまうんですけど…そこを考えてもしょうがない。できることをいかに頑張ってこの先につなげるかを意識したいと思ってやってきています。みなさんも、頑張りすぎず、自分で自分を楽しませてほしいなと。もし趣味を探しているなら、麻雀もおすすめです(笑)」