日本代表のダルビッシュ有【写真:Getty Images】

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WBC優勝記念連載「世界一の裏側」#4、ダルビッシュ有の貢献

 野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表「侍ジャパン」は3大会ぶり3度目の優勝を成し遂げた。大谷翔平投手(エンゼルス)ら一流選手の団結力で掴んだ世界一。「THE ANSWER」では米マイアミで行われた熱戦を現地取材。大会を通じて伝えきれなかった選手、監督の思いや現地でのエピソードを連載「世界一の裏側」として連日紹介していく。

 第4回はチーム最年長・36歳での参戦となったダルビッシュ有投手(パドレス)。メジャーリーガーでは異例となる2月17日の宮崎合宿から参加。日本のために雰囲気づくり、知識の伝授などでも尽力しながら、自身の調整には悔しさを感じていたことも明かした。若手投手、栗山監督の言葉からも、成績だけでは量れないその存在の重要性が伝わってきた。(取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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「チームを構成するときから、ダルが来てくれたらもの凄く日本の若い投手たちのためになると分かっていたので。思った通りというか、それ以上に、自分のことより若い投手のためにやってくれた。ダルが示してくれたものは、日本の野球界にとってもの凄く大きかったと思う」

 栗山監督は、ダルビッシュを代表メンバーに選出した思いを、米国での会見でこう語っている。2009年の世界一を唯一知る男にして、バリバリのメジャーリーガー。トレーニングや栄養面の知識も豊富で、戦力としてはもちろん、日本の若い選手たちにとってはこれ以上ない“教材”と共にプレーできる機会が生まれることになった。

 米国で調整を進める選択肢もある中、ダルビッシュは2月17日の宮崎強化合宿初日から参加した。いきなり心遣いが話題になる。

 参加していた宇田川優希投手が「皆がみんな、テレビの中の人だと思った」と豪華メンバーに恐縮。1年前はオリックスの育成選手として3桁の背番号をつけていたシンデレラボーイは、自分を出せずにいた。減量も命じられていたが、ダルビッシュは「体重より、動けないほうが問題」と声をかけ、心の不安を少し取り除いた。

「宇田川さんを囲む会」としてダルビッシュがツイッターに投稿した投手会もきっかけに、宇田川はチームになじんでいった。

 京セラドームの強化試合期間には、オリックスでのユニホーム型「宇田川キーホルダー」をダルビッシュが多数購入。選手が自由に持っていけるよう、ロッカーに置いたことも。WBC優勝後、「ダルビッシュさんは一人一人の選手をすごく見ている。凄いなと思った」と宇田川は感謝を口にしていた。

決勝後は「泣くかなと思ったけれど…」調整に悔いも

 侍ジャパン最年少の20歳・高橋宏斗投手(中日)も、憧れのダルビッシュと距離が近づいたことを喜んだ。

「最初はダルビッシュさんが(同じチームに)いることがビックリするくらい。でも、今は存在に慣れていろいろなことを聞けます」

 準決勝イタリア戦(東京ドーム)に勝利し、ナインはそのまま米マイアミへチャーター機で移動したが、ダルビッシュが投手陣のライングループに時差ボケ対策のアドバイスを投稿。日光浴や散歩、睡眠に効果のあるサプリなどを伝えていた。

 その効果もあってか、マイアミ到着から2日も経っていない全体練習では多くの選手が問題なし。高橋は「ダルビッシュさんのおかげでピッチャーは仲良くなれてます」と感謝し、大勢ら他の投手からも偉大な先輩との交流を喜ぶ声が多々出ていた。

 ダルビッシュは決勝の後「泣くかなと思ったけれど、それはなかった」と語っている。優勝時の感情について「純粋に嬉しかったのと、調整の部分で上手く行っていなかったので、悔しいというのが自分の中で結構あった」と説明し、充実した日々の中でも調整の難しさに悩んでいたことを垣間見せた。

 WBC前、日本ではライブBPの登板はあったものの、試合での実戦登板の機会はなし。本戦で3試合6イニングを投げて3被弾、自責点4だった。

 決勝の米国戦では2点リードの痺れる8回のマウンドを託された。1死からシュワーバーに粘られ、10球目の甘くなったスプリットをソロ本塁打にされた。続くターナーにも中前打を許したが「同点に追いつかれて渡すのだけは嫌だった」と後続はしっかり断って9回の大谷に繋げ、世界一を掴んだ。

WBCに出場して得た「最高の時間」

「走れるターナーが出て、二塁打を打たれたら同点のところ。そこで抑えられたのはよかった」。万全でない状態の中、重圧のかかる場面での登板。ダルビッシュでなければもっと大崩れしていたかもしれない。

 優勝後、ミックスゾーンの取材で今やりたいことを問われると「先発をしたいですね」と明かし、「段階踏んで開幕にいつもは行きますから。パドレスのキャンプ地に行って調整したい」と話した。ただ、14年ぶりのWBC参加で、かけがえのないものも手にしている。

「みんな友達みたいに仲良くなれましたし、自分にとって最高の時間になった。チームワークは絶対に大会でNo.1。明るく、お互いを支え合ってプレーできるのが日本の強いところ」

 ダルビッシュには願いがあった。見る人にとって、野球が明るく楽しく、ポジティブなイメージであってほしい――。味方でも敵でも尊敬の心を持って接し、世界の野球ファンを熱狂させた侍ジャパン。日本のために見えないところでも尽力したダルビッシュの貢献が、報われる形でそのイメージに繋がったことは間違いない。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)