大活躍の大谷翔平が、絶対に言わない「まさかの言葉」があった…! 大谷の「言葉の力」をかみしめる

シーズン中はもちろん、今回のWBCでも圧倒的な存在感を見せている大谷翔平。口数が多いわけではなく、リップサービスが得意なわけでもないが、その言葉には20代とは思えない重みがある。そんな大谷翔平には、「口にしない言葉」があるという。
大谷の「言葉の力」
大谷翔平(28歳)の活躍が止まらない。
昨季、15勝34本塁打という記録を残した男は、渡米6年目にして、メジャーリーグの歴史上でも屈指の天才として認知されている。
なぜ、大谷はこれほどの存在になり得たのか。むろん、193cmの堂々とした体躯にしなやかな手足、走攻守すべてに卓越した野球センスと、いくつもの才能に恵まれたことは大きいだろう。
Photo by gettyimages
だが、他の選手と一線を画し、大谷を大谷たらしめている重要な素質がもう一つある。それが、自らの未来を切り開く「言葉の力」だ。
〈一番野球が上手い選手になりたいなと思って小さい頃から頑張ってきた〉
'18年に渡米する際、カメラの前でにこやかに語った大谷は、その3年後、二刀流と本塁打王争いを同時に成し遂げるという形で、その言葉を実現した。
「大谷選手は花巻東高校時代から、人生の節々で自らの目標を公言し、達成してきました。その強靭な『意志の力』に驚かされると同時に、人間の行動に『言葉が及ぼす力』の大きさを実感させられます」(スポーツ心理学者で追手門学院大学特別顧問の児玉光雄氏)
良い言葉を発すれば、本当に良いことが起こり、逆に、不吉な言葉は災いをもたらす-。日本人は『古事記』の時代から、「言霊」の存在を信じてきた。ともすればオカルトのように扱われがちな概念だ。しかし、最新の脳科学は、言葉がいかに人間の行動の成否を左右するかを証明している。
平昌五輪スピードスケート金メダリストの高木菜那(高ははしごだか)ほか、多くの選手を指導してきたメンタルコーチの飯山晄朗氏が言う。
「近年の研究によると、人間は頭の中で思い描いているイメージよりも、口から発した言葉に影響されやすいことがわかっています。脳内で成功のイメージを描いていても、ふと不安になり『ヤバい、どうしよう』とつぶやいてしまえば、脳は一気に上書きされてしまう。どんな言葉を発するかは、脳のパフォーマンスに重大な影響を及ぼすのです」
悲観的な言葉は口にしない
その点、大谷が自分自身の将来について、悲観的な言葉を口にしたことは一度たりともなかった。
〈無理だと思わないことが一番大事だと思います。無理だと思ったら終わりです〉
〈頭で最初に考えて、そして後からモノができる。160kmを投げている姿がある。そこに後からできる現実がある〉
Photo by gettyimages
驚くような目標を、臆することなく公言する。さりとて、虚勢を張っている様子も、自分に過度なプレッシャーをかけ、悲壮感を漂わせることもない。あくまで自然体だ。
〈(ピンチのときは)ポジティブに考えようとは思っていない、ということですね。何事もバランスかなと思っているので〉
これまでスポーツにおけるメンタル管理の世界では、常に状況を楽観的に捉える「ポジティブシンキング」や、ピンチの際に自分を奮い立たせることが重要視されてきた。
だが、現在の脳科学において、最も高いパフォーマンスにつながるとされるのは、大谷のような自然体である。ネガティブでもポジティブでもない、「ニュートラル」の状態を常に維持することだ。
今季、国内女子プロゴルフツアーで3勝を挙げている西郷真央らを指導しているスポーツドクターの辻秀一氏が言う。
「掲げた結果を達成するために思考を変えていく行為は、短期的には上手くいくかもしれませんが、いずれ無理が出てくる。その点、いつ何時でも自然体の自分で臨めれば、脳も肉体も高いパフォーマンスを発揮することができる。私の見る限り、大谷選手はそれがもっとも優れているアスリートの一人です」
Photo by gettyimages
揺るがない心
勝つことや、良いスコアを出すことを意識しすぎることなく、これから臨む一球、一スイングに全神経を研ぎ澄ます。
前出の児玉氏は、'18年に、対戦する投手のデータについて聞かれた大谷が語った言葉が強く印象に残っている。
〈理想のバッティングというのは、データを活用しないのがベストだと思っている。ベースの上を通るボールを何も考えずにホームランにできるというのが究極のスタイル〉
「脳は論理を処理する部分と、感性や直感を司る部分に分かれている。データを参考にはするものの、いざ打席に立ったら、一切の予断を捨てて、直感と反応を信じる。すると、思考が乱れにくくなり、心が落ち着く。それを自然に実践していることに驚きました」(児玉氏)
「いま、ここ、自分」に集中し、心に揺らぎがない状態を作り出す。これを、心理学では「フロー」と呼ぶ。
〈一流のピッチャーになるんだとか、一流のバッターになるんだとか思っていたわけじゃない。いいバッティングをしたい。いいピッチングをしたい。いつもそれを望んできました〉
〈(ホームランを)狙うということはなく、良い角度でボールに当てるというのが一番〉Photo by iStock
こうした言葉の数々は、大谷が人生の早い段階から、いかにフローの状態でプレーすることを模索してきたかを感じさせる。
そして同時にわかるのは、大谷が「成果」と「結果」を切り分けて考えてきた、ということだ。
この二つは似たような文脈で使われるが、意味するところは違うと、イチローや北島康介など数多くの選手を指導してきたスポーツメンタルトレーニングの第一人者・高畑好秀氏らは語る。
似て非なるもののこのふたつの一体どこが違うのか…? 続く後編記事『大谷翔平が「他人からの説教」に耳を貸さない理由…「自分の言葉」を信じる“絶対にブレない”メンタル』で彼の「言葉の力」にさらに迫りつつ、同時に「内面の強さ」も明らかにしていく。