井上尚弥【写真:浜田洋平】

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井上尚弥VSバトラーが今夜ゴング、日本ボクシング界の歴史的一戦へ

 ボクシングのWBAスーパー&IBF&WBC世界バンタム級3団体統一王者・井上尚弥(大橋)が13日、東京・有明アリーナでWBO世界同級王者・ポール・バトラー(英国)と4団体王座統一戦を行う。勝てばアジア人初、世界でも過去8人しかいない4団体統一の偉業は、なぜ難しいのか。試合が実現するだけでも日本の歴史を塗り替える一戦。今夜のゴングを前に、ボクシングをよくわからないライト層にお届けする。戦績は29歳の井上が23勝(20KO)、34歳のバトラーが34勝(15KO)2敗。

 井上が所属する大橋ジムの大橋秀行会長は言う。

「いまやワールドカップでドイツとスペインに勝つ。二刀流でMVPを獲る選手がいる。そんなこと、30年前は誰も信じていませんでした。(井上が)どれだけ凄いことをやっているか。30年前の自分は信じないと思います」

 井上が目指してきた「4団体統一」とは何なのか。現在のボクシング界にはWBA、WBC、IBF、WBOの主要4団体が存在し、各団体が「世界タイトルマッチ」と認定した試合で勝てば「世界王者」になれる。かつてはWBAとWBCの2団体制だったが、1980年代にIBFが、2000年代にWBOが主要団体として認められるようになった。

 しかし、近年では各団体で王者が乱立し、ライト層のファンには「結局、誰が一番強いのか」がわかりづらくなっていた。そこで各団体の王者同士が拳を交え、ベルトを統べる「王座統一戦」が行われるように。4団体制になって以降、世界では過去8人しか誕生していない。日本人では井上の3団体が最高だ。

 4団体統一王者が少ないのは、真の実力が問われるのはもちろんだが、試合の実現すら難しい背景がある。一つは指名試合の存在。ボクシングでは世界王者が楽な相手との対戦を選び続けることを避けるため、各団体が期日を決めて上位ランカーとの指名試合を義務付ける。井上も今回までにIBFから対戦指令を受けたマイケル・ダスマリナス戦をこなさなければならなかったため、他団体王者との試合まで時間を要した。

ファイトマネーや開催地もネック、軽量級では難しい実現性

 また、王者同士の戦いでは敗戦のリスクが高く、対戦を避ける選手、プロモーターもいるため、交渉がまとまりづらい。ファイトマネーや開催地がネックになることも。大橋秀行会長によると、バトラー戦は敵地の英国、第3国の中東開催の話も浮上するなど、難しさがあったという。

 さらに世界的に人気の高い中量級、重量級なら対戦の機運が高まり、4団体統一戦は比較的実現しやすい。4団体統一王者が生まれた中でこれまで最も低い階級は、バンタム級より4つ重いライト級。軽量級では興行面でも実現性に難しさがあり、井上が達成すれば軽量級初、アジア人初の偉業となる。

 井上は2018年5月のジェイミー・マクドネル戦でバンタム級デビュー。WBA王座を奪うと、19年5月にエマヌエル・ロドリゲスからIBF王座を奪取した。今年6月にはノニト・ドネアからWBC王座を奪取。過去8人の4団体統一王者は1試合で一気に2つ以上のベルトを奪った試合、世界ランカー同士の王座決定戦で勝った試合、判定勝ちも含まれる。井上のように「4人の王者から1本ずつ奪取」「4本全てKO奪取」となれば、ともに世界初の大偉業だ。

 井上は今年6月、世界で最も権威ある米専門誌「ザ・リング」のパウンド・フォー・パウンド(PFP)で1位に選出された。全17階級で体重差がなかったことを想定した現役最強ボクサーを決める格付けランク。日本人初の歴史的快挙を達成し、大橋会長は心境を明かしていた。

「PFP1位になった時、凄く興奮したというか、感動しました。不思議な気持ちです。自分は小学生の時に具志堅さんに憧れて(1990年2月に)世界王者になりました。当時は日本人が世界挑戦で21連敗中。(井上の偉業は)信じられないです。もしかしたら、30年後は世界ヘビー級王者が出ているかもしれないですね」

 4つ全てのベルトを統一すれば、海外では「Undisputed Champion(議論の余地のない王者)」と呼ばれ、王者が乱立する現代ボクシングの中で真の階級No.1とされる。井上の拳には、30年前は想像すらしなかった日本人の夢が込められているのだ。

(THE ANSWER編集部)