人生が激変する60代という年齢、いろいろ備えている人も多いはず。でも、「60代からやりたい放題に生きるほうがいい」と提唱するのは、話題の書籍『60歳からはやりたい放題』(扶桑社刊)を上梓した精神科医の和田秀樹さん。今回は、本書の中から60代のお金の使い方について紹介します。

60代からのお金の使い方。子どもにお金を残すより大切なこと

老後を楽しく過ごすために、お金の使い方は大切だと和田さんは語ります。今回は、幸せに過ごすためのお金の使い方について教えてくれました。

●子どもにお金を残すよりも投資しよう

かわいい子どもや孫に、今ある資産をなんとかして残してあげたいと考える人も少なくないでしょう。その場合は、ぜひ子どもや孫に「投資」してはいかがでしょうか。

言葉を選ばずにいうと、日本は、お金持ちであればあるほどに、子どもが「バカ息子」「バカ娘」になりやすいシステムが残っています。

お金がある家ほど、子どもをエスカレーター式の大学の付属校に幼少期から入学させ、大学まで受験を知らずに育てるケースが非常に多いのです。結果、ろくに勉強もできず、受験戦争も知らず、競争の経験もないまま大学を卒業し、社会に出ることになります。たくさんお金を払うことができれば、それほどハードな勉強をしなくても、競争の経験をしなくても、ある程度のステイタスを持った大学に進学することが可能なのです。

ハーバードやオックスフォード、ケンブリッジに付属高校はないように、世界中の先進国にはこうした現象はありません。お金をかけて、バカで世間知らずの子どもを育てるのではなく、しっかりと子どもに投資をして、その子が立派な社会人になれるようにするのが親の務めではないかと考えます。

たとえば、子どもに相続させるより子どもの事業を支援して、相続させるお金をその事業に投じてみましょう。もし子どもが事業に失敗して1円もなくなったとしても、ただ漫然とお金を相続させるよりは、社会を生き抜く力が身につくでしょうし、全体で見れば遺産としてお金を動かさずにいるより、社会は発展します。

また、海外の大学に進学させる留学費用にお金をつぎ込むのもいいでしょう。

先にもお伝えしたように、この国には様々な社会保障制度があります。子どもが一文無しになったとしても、贅沢な暮らしは無理でも、絶望するような人生を送ることにはならないはずです。

●介護士さんを雇うほうが合理的

財産を持つ高齢者の子どもが「お母さんが心配で」と出戻ったら、いつの間にか帰ってきた子どもによって資産の名義が書き換えられていた…などという気分のよくない話を聞く機会はたくさんあります。

最初は善意で戻ってきたとしても、「残される財産」がある限り、どうしてもそうした事件は起こってしまうのです。若いうちに財産を譲り渡すのであればともかく、超高齢社会においては、正直、「子どもに財産を残す」という発想自体が向かないのではと思っています。

複数人子どもがいる場合は、「自分を介護してくれた子どもに財産を残す」と言う方もいらっしゃいます。しかし、本来は残されるお金があるから介護をするのではなく、愛があるから介護をするのです。

さらにいうと、介護をしてくれた子どもと、まったく面倒を見てくれなかった子どものふたりがいたとしても、残念ながら法的には相続は平等になります。いくら遺言を残したとしても、遺留分は確実にありますし、遺言無効の申し立てをされて、兄弟間で裁判が起こることも多いのです。

認知症気味だった父親を一生懸命介護していた子どもに、父親が財産をすべて残すといっても、「父はそのときに判断能力がなかったのだ」と言われて、介護を一つもしなかった兄弟に裁判を起こされる。これが現実です。

介護を念頭に置いて財産を蓄えるならば、自分の世話をしてくれる住み込みの家政婦さんを雇うほうがずっと合理的です。フルタイムで月60万円くらいの費用がかかったとしても、20年でも1億4000万円です。年金と持ち家を使えば無理な額とはいえません。

そのあたりの金銭感覚には個人差があると思いますが、残せるような財産と呼べるものがあるのであれば、まず自分のために使ってからでもよいのではないでしょうか。

●お金はどんどん使ったほうが幸せになれる

認知症やうつ病を防ぎ、毎日を楽しく過ごすためにはどうしたらいいのか。その一つは、自分の楽しみのためにお金を使うことだと思います。

極論と思われるかもしれませんが、日本という資本主義社会に生きている以上、お金は使えば使うほどに幸福感が高まります。また、お金を使っている人ほど、周囲から大切にされるのも事実です。高齢になればなるほどに、その兆候は顕著に現れます。お金をもっていれば幸せと思うかもしれませんが、ケチであることがバレたとたんに離れていく人はいっぱいいます。子どもたちだって待っていれば相続財産が転がり込んでくるので、今お金を使ってくれないのなら、寄りつかないということはざらにあります。

逆にお金を使って周囲の人から大切にされれば、それだけ自己肯定感も上がりますし、ストレスも減るので認知症やうつ病の予防にもなるでしょう。また、知らない土地へ旅行に行ったり、新しいお店に行っておいしいものを食べたりするという刺激を受けると、前頭葉も活性化されます。

健康やアンチエイジングにお金を使い、いろいろな場に遊びに行けば、幸福感も高まります。さらに、孫や子どもとの思い出づくりや教育費のためにお金を使えば、それだけ家族たちからは大切にされるでしょう。

高齢になってもなお、「将来が不安だから」とお金を使わずに済ませようとする人は多いのですが、年金をもらえる年齢であれば、病気になって入院することになっても、国の保険制度を使えば支出はほとんどかかりません。

むしろ、体が動いて頭もしっかりしているうちに、せっかくのお金を使っておかないと、楽しめない上、心身の老化が進んでしまいます。

高齢者が家族に財産を残そうとしてお金を使わないがゆえに、多くの金融機関で預貯金が貯め込まれていることは、私自身も大きな問題だと考えています。お金が使われない状態が続くと、日本経済が停滞し、それこそ次世代への負の遺産になってしまいます。

子どもや孫のことを考えるのであれば、財産を残すことよりも、彼らがよりよく生きられる社会をつくるために、どんどんお金を使って経済循環をよくすることが必須です。現在でも消費税を上げることで税源不足を補おうという議論が進んでいますが、私自身は、いっそのこと相続税を税率100%にして、高齢者が残した財産はすべて税金にしてもらうほうがいいと思っています。そうすれば、若者の税負担も減るし、何より税金でもっていかれるくらいならと高齢者がお金を使うようになり、景気もよくなるはずですから。

 

『60歳からはやりたい放題』(扶桑社刊)では、60代が第二の人生を楽しむためのコツを紹介。ぜひチェックしてみてくださいね。