日本に再上陸を果たす「フォーエバー21」の生まれ変わった姿とは。写真左からABGの上級副社長ケビン・サルター氏、アダストリアの木村治社長、クリエイティブディレクターの野田源太郎氏(写真:アダストリア提供)

アメリカ発ファストファッションの「フォーエバー21」が、2023年に日本に再上陸する。同ブランドは2019年9月に民事再生法にあたる米連邦破産法11条の適用を申請し、日本市場からも撤退。アメリカのブランド管理会社オーセンティック・ブランズ・グループ(ABG)など3社連合が買収し、改革を進めてきた。

このほど、伊藤忠商事がABGから日本事業におけるマスターライセンシーを取得。アダストリアが2022年5月に設立した子会社・ゲートウィンが伊藤忠商事とサブライセンス契約を締結し、2023年から店舗運営、商品販売を開始する。来年2月からアダストリアの自社ECサイト「ドットエスティ」で販売を始め、4月に関東、関西のショッピングセンターに実店舗をオープンする予定だ。

サステイナブルと逆行していた

このニュースを聞いたとき、少し意外に思った。フォーエバー21は手頃な価格と旬なデザインで若い世代を魅了する一方で、大量生産・大量消費・大量廃棄を助長するファストファッションの象徴的存在として、サステイナブルが業界で叫ばれるようになった2010年代中盤以降、批判の的にさらされてきた。今もブランドイメージは決して良いものではない。

2009年にフォーエバー21の原宿旗艦店オープンの記者会見に行った時のことを、今も鮮明に覚えている。ユニクロやしまむらを凌駕する驚異的な安さと、シワだらけのペラペラのワンピースの質の悪さに驚き、ファッションが悪い方向に荒れることを懸念した。そしてその時の杞憂は現実のものとなった。

あくまで個人的な見解だが、2008年のH&M、2009年のフォーエバー21の日本上陸は、それまでの日本の戦後の若者ファッションの流れを大きく変えたと思っている。急成長を続けてきたユニクロの安くて長持ちする服の流れに、そこそこ旬で安い “外資”が加わり、市場に安くて長持ちしない安易な服が溢れた。

1990年代までの日本の若者はお小遣いの多くを憧れのブランド服に投資し、一生懸命背伸びしてきた。1990年代後半からのギャル、ギャル男ブームを牽引した109系ブランドの流行で単価こそ下がったものの、それでも2000年代後半までは食事を抜いてでも憧れのブランドの服を買う若者が多くいた。

その流れを大きく変えたのがこの2つの外資の上陸で、以降は高価かつ個性的なファッションはサブカルチャーへと転落し、ストリートを拠点とする若者たちの“族”も街から姿を消した。

もちろん、全身を1万円以内で揃えられるファストファッションが若者のファッションの入り口となった面もあるし、他の先進国と同様に若者がファッションにお金をかけすぎなくなった=グローバル化した面もあるが、いずれにせよ“ファスト黒船”の上陸によって日本の若者のファッションの価値観がガラリと変わったのは間違いない。

商品の8割は日本で企画

では、ブランドイメージが決して良くないはずのフォーエバー21を、なぜ伊藤忠商事とアダストリアは再上陸させることにしたのだろうか。「新フォーエバー21」の概要はこうだ。

初年度は、婦人服と服飾雑貨に絞り、主要顧客層は10〜30代前半と撤退前に比べて幅広い年代に設定。商品の8割はアダストリアによる日本企画で、残りの2割はアメリカで企画された商品を販売する。平均商品単価は4000円、客単価は5800円を想定しているという。

もっとも注目すべきは、8割の商品がアダストリアの生産背景を活用した日本企画というところで、破綻前のすべてを輸入に頼っていたビジネスモデルとは正反対であることがわかる。商品単価も以前の倍以上のはずで、ユニクロやジーユーより少し高い単価を想定しているという。

初年度は13億円、5年後の28年2月期は100億円という売上目標もいささか控え目で、店舗は年間3店舗を目安にショッピングセンターに出店し、以前のような原宿や銀座などの一等地への大型店の出店は考えていないとしている。となると、5年後の店舗数は15店舗ほどで、それだけで100億円は到底望めないので、売上の6〜7割ほどをECで稼ぐビジネスモデルを想定しているのだろう。

ゼロからブランドを立ち上げて5年で100億円規模のビジネスを作り上げるのは今の日本ではもう難しいので、知名度のあるブランドの名を借りて日本独自のビジネスを築く……そんな思惑が伊藤忠商事、アダストリアにはあるのではないだろうか。

1980〜90年代に花盛りだった欧米のブランドのライセンスを幅広いジャンルに広げていく(ハンカチとか傘とか)商社お得意のビジネスモデルではない、新しい形のライセンスビジネスと言えるのかもしれない。

利益率の高いブランドに育てる?

2022年2月期のアダストリアの国内EC売上高は、前期比6.8%増の574億円。日本のファッション企業としてはユニクロに次ぐ、ベイクルーズと2位の座を争う規模まで成長している。

同社の主力ブランドであるグローバルワークは直営店を2022年2月期時点で206店舗、ニコアンドは144店舗、ローリーズファームは134店舗、スタディオクリップは183店舗を構えるが、そうしたブランドとは違いフォーエバー21はEC中心の利益率の高いブランドに育てたい意向なのだろう。

商品面でも大きな変革を掲げている。再上陸にあたってアダストリアが掲げたのは“トレンド&ハイクオリティへの転換”。

「フォーエバー21のファッションブランドとしてポテンシャルと、アダストリアの環境と人に配慮したサプライチェーンマネジメント(SCM)を軸に、1400万人以上の会員を保有する自社EC、店舗開発力、商品開発力などの強みを掛け合わせることで、かつての大量生産・大量販売・大量廃棄といった悪いイメージから脱却し、現在の日本マーケットにローカライズしたファッションをお届けする」(プレスリリースを要約)という。

業界の「やり手」が会見に登場した意味

筆者は出席できなかったのだが、記者会見の壇上には懐かしい顔があった。イギリスのセントラル・セント・マーチンズを卒業後、自身のブランドである「イリアド」「ヒース」を立ち上げた後、ユニクロ、ジーユーで商品企画を担当していた野田源太郎氏だ。

モードと大衆ファッションの両方を経験してきた日本では稀有な人物で、今年に入ってからアダストリアのクリエイティブディレクターとして入社し、同社のクリエイティブを担当していくという。


クリエイティブディレクターの野田氏がフォーエバー21のクリエイティブを担当する(写真:アダストリア提供)クリエイティブディレクターの野田源太郎氏

おそらくフォーエバー21は以前のように表立って大きな存在にはならないし、なれないと思う。でも、環境に配慮した新しいライセンスビジネスの形として成功する可能性は十分にある。今後の進捗を注意深く見守っていきたい。

(増田 海治郎 : ファッションジャーナリスト)