「口唇口蓋裂」になると現れる症状はご存知ですか?医師が監修!
口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)は、赤ちゃんの上くちびるや上あごがふさがっていなかったり、割れがあったりする先天的な病気です。
古くは大人になってもその症状が残っていることが多かったですが、最近は手術やリハビリによって治療が可能となりました。
適切な治療を受ければ、治療跡も目立つことなく、口や鼻の機能も健康な人と変わらないくらいで回復することができるようになっています。
今回は口唇口蓋裂の特徴から診断、治療までを解説いたします。
口唇口蓋裂の特徴
口唇口蓋裂はどのような病気ですか?
上くちびるや上あごに割れが見られる先天的な異常を指します。
上くちびるに割れがあることを口唇裂、上あごに割れがあることを口蓋裂としていますが、実際の割れや症状の範囲は個人差が激しく、両方の症状を併発していることも多いです。
日本人では約500人に1人がこの病気とされています。
口唇口蓋裂の原因を教えてください。
妊娠後、赤ちゃんがお腹の中で発育していくなかで、上くちびるや上あごの形成に異常が起こることが原因です。
異常の原因の大半は多因子遺伝と考えられており、ひとつの遺伝子ではなく、複数の遺伝子や、お母さんの生活習慣など環境要因が関係していると見られています。しかし多くの場合、はっきりとした原因はわかっていません。
もし身内に同じ症状の人がいる場合は症状の遺伝の可能性も指摘されていますので、次のお子さんをお考えの方は主治医と相談されるといいかもしれません。また次のお子さんを妊娠した際は、再発を防ぐために葉酸の摂取をすすめられることがあります。
どのような症状がみられますか?
口唇口蓋裂は、上くちびるに割れが見られる口唇裂と、上あごに割れが見られる口蓋裂の両方を指します。
口唇裂は、両方の鼻の穴の下に位置するくちびるが割れている両側性、片側だけの片側性、また割れが鼻にまで達しているかどうかで、完全性・不完全性に分けられています。
また口蓋裂も、裂が軟口蓋のみのもの・硬口蓋に及んでいるもの・くちびるや歯ぐきにまで達しているものなど、色々なタイプがあります。
口唇口蓋裂にもいくつかの種類があるのですね。
この病気でよく見られるのは、以下の4タイプです。上くちびるが鼻にかけて割れている口唇裂
上くちびると歯ぐきの両方が割れている口唇顎裂
上くちびると上あごから口蓋垂まで割れている口唇口蓋裂
上あごのみが割れている口蓋裂
それぞれ症状が現れる箇所や範囲が異なりますので、それに合わせて治療方法や手術回数が決められます。症状によっては形成外科だけでなく、歯科や耳鼻咽喉科と協力して治療を進めていくことになります。
口唇口蓋裂の診断と治療
口唇口蓋裂は妊娠中にわかりますか?
上くちびるの割れは、妊娠中のエコー検査で発見されることがあります。エコー検査で顔の形や造作を確認する時に上くちびるに異常が見られた場合は、口唇裂と診断されます。
大体妊娠20~30週以降、胎児の身体がしっかり形成される頃に見つかることが多いです。
一方、上あごの割れは口の中の症状ですので、妊娠中のエコーではほとんど見付けることができません。出生後の検査で診断されることがほとんどです。
生まれてから口唇口蓋裂に気づくこともあるのですね。
妊娠中のエコー検査でわかるのは胎児の外見のみなので、この病気が発見できない時も多いです。また、片側性の口唇裂が実は両側性だったなど、妊娠時の診断と生まれてからの診断が違うこともあります。
見た目に関係する病気なので、出産直後にビックリしたりショックを受けたりするご両親もいるかもしれませんが、口唇口蓋裂は現在ではしっかり治療できるため治療跡も目立ちません。事前にこの病気についての知識を持ち合わせていると、慌てることなく治療に進めるでしょう。
もし妊娠中に胎児にこの症状があることが分かった場合は、生まれてからの情報収集や治療法について、かかりつけ医と相談しておくことをおすすめします。
口唇口蓋裂の治療方法を教えてください。
先天性のこの病気は、赤ちゃんが生まれてからしっかり状態の精査をし、症状の確認と治療方針を決めることが必要です。
その後、口唇裂のお子さんはくちびるを形成する手術を、口蓋裂のお子さんは破裂部を閉鎖する手術を実施します。
また割れの程度によっては、症状が顔貌障害や哺乳障害のほか、歯並びの障害・言語障害・風邪を引きやすいなど多岐にわたります。
その場合、小児科だけでなく形成外科・矯正歯科・耳鼻咽喉科などの専門外来とチームを組んで、長期に渡り治療に当たる必要があります。
出生後どれくらいのタイミングで手術するのですか?
病院や主治医によって判断は異なりますが、くちびるの割れの手術は生後3カ月後、体重5kgを目安に行う病院が多いです。あごの割れの手術はもう少し後、1歳~1歳2カ月の頃に実施されます。
どちらの手術も状況によって1~2回に及ぶことがあり、また就学前や青年期にくちびるや鼻の修正手術を必要とするなど、治療が長期にわたるケースもあります。
口唇口蓋裂の経過
聞こえや言葉に影響はありますか?
上あごに割れのあるお子さんは中耳炎になりやすく、検査が必須です。浸出液が耳の中に溜まる滲出性中耳炎は、耳の中に水が入っているような感覚で、声が聞き取りづらいなど難聴の症状を引き起こすことがありますので適切な治療が必要です。
この症状のお子さんは、軟口蓋とのどの間を閉鎖する機能が不完全ですので、手術や言語訓練を行わないと言葉を正確に発音することが困難となります。
手術後4歳ぐらいからリハビリテーション科で言語療法を開始し、個人差はありますが7歳ごろまでにはほぼ正常な発音ができるようになるでしょう。
歯並びや噛み合わせに影響することがあると聞きます…。
口蓋裂のお子さんは上あごの発育がよくないことが多いため、受け口やかみ合わせに問題が出ることもあります。その場合は手術後に、歯科で歯列矯正を受けることがおすすめです。
また口蓋裂部が歯の生えてくる部分にまで及んでいる場合、その部分の骨が欠けているので、身体のほかの部分から骨を移植する手術を行うこともあります。
そのほか、くちびるやあごが完全に閉じていないお子さんは唾液の分泌など口の自浄作用が働きにくく、虫歯になりやすい傾向があります。虫歯予防のための指導やケアをしっかり行うことが必要です。
適切に治療を受ければ将来への影響を少なくできるのですね。
くちびるやあごの割れは部位や症状が人によって個人差が激しく、場合によっては複数回の手術が必要なこともありますが、発育に合わせた治療を行えば健康な人とほぼ同じ程度まで回復できます。
そのためには多岐にわたる診療科が、チームとなって症状を抱えるお子さんを治療サポートしていくことが必要です。お子さんが生まれてすぐ、しっかりと治療に関する説明を受け、スケジュールを立てることをおすすめします。
最後に、読者へメッセージがあればお願いします。
口唇口蓋裂は見た目に関する病気ですので、お子さんの将来を思って自分を責めるご両親もいらっしゃいますが、この病気の原因ははっきりとわからないことがほとんどです。そして、生まれてすぐ検査と治療を開始し適切な治療を受ければ、手術跡も目立たず各機能も健康な人と遜色ない程度にまで回復します。保護者の方はあまり悲観・心配せずに、しっかりとお子さんをサポートしてあげてください。編集部まとめ
口唇口蓋裂は妊娠中のエコー検査か、生まれてすぐに発覚する先天性の病気で、上くちびるや上あごに割れが見られることが特徴です。
上くちびるに裂があることを口唇裂、上あごに裂があることを口蓋裂と呼び、裂の範囲や症状は大きく個人差があります。
場合によっては顔貌障害のほか、耳の聞こえや言語障害、歯並び・咬合不全にまで症状が及ぶケースがありますので、複数の診療科で長期的な手術・リハビリを行うことが必要です。
ただ現在の医療では、適切な治療を受ければ、見た目や各機能はしっかりと回復することができます。
この病気の手術は生まれてすぐに開始され、青年期に渡って数回実施されることがあります。
口唇口蓋裂を持つお子さんに対しては、生まれてすぐ診察を受け、発育に合わせて適切な治療を受けさせることが大切です。
参考文献
口唇裂・口蓋裂とはなにか―原因不明の場合が多い先天性の異常|Medical Note
口唇口蓋裂とは?出生前診断から治療まで|Medical Note口唇口蓋裂|Wikipedia
口唇裂・口蓋裂の治療について|県立広島病院