Appleが2022年6月に発表した次世代シリコンの「M2」チップを搭載した「MacBook Air」と、AMDの「Ryzen 7 PRO 6850U」を搭載したThinkPad X13 Gen 3を用意して、M2チップとRyzen 7 PRO 6850Uのベンチマークスコアを比較するレビューをテクノロジーメディアのPhoronixが公開しています。

Apple M2 vs. AMD Ryzen 7 PRO 6850U Performance In Nearly 200 Benchmarks - Phoronix

https://www.phoronix.com/review/apple-m2-amd-ryzen

Phoronixはベンチマークテストを行うに際し、M2搭載MacBook AirとThinkPad X13 Gen 3の条件をなるべく一致させるため、Apple Siliconで動作するLinuxであるArch Linuxを採用。また、各CPUのパフォーマンスを最大限に発揮させるため、電源管理やハードウェアの構成管理を行うための標準規格であるACPIのプロファイルを「パフォーマンスモード」に、CPU周波数スケーリングも「パフォーマンス優先」に設定しています。なお、M2搭載MacBook AirではLinuxの電力/温度センサーに対応していないため、「M2とRyzen 7 PRO 6850Uのワット当たりのパフォーマンスを正確に比較することはできていません」とPhoronixは記しています。

ベンチマークテストを実行したM2搭載MacBook AirとThinkPad X13 Gen 3のスペックは以下の通り。スペックの違いとしては、M2搭載MacBook Airのメモリ(RAM)が8GB、ストレージ(ROM)が251GBなのに対して、ThinkPad X13 Gen 3はRAMが16GB、ROMが512GBです。



◆Etcpak 1.0

オープンソースのベンチマークソフトであるEtcpak 1.0でベンチマークテストを行った際のスコアが以下。数値が高いほど「スコアが優れている」ことを示しており、「Max Perf」は「最大パフォーマンス」を意味しています。

マルチスレッド性能比較ではRyzen 7 PRO 6850Uが圧勝



シングルスレッド性能でもRyzen 7 PRO 6850Uが2倍以上のスコア差を記録



◆LeelaChessZero 0.28

オープンソースのニューラルネットワークベースのチェスエンジンである「Leela Chess Zero」のバージョン0.28をそれぞれの端末で実行した際のパフォーマンスをスコア化したグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

こちらはM2搭載MacBook Airの方が優れたスコアを記録



◆LAMMPS Molecular Dynamics Simulator

サンディア国立研究所の分子動力学プログラムであるLAMMPS実行時のパフォーマンスをスコア化したのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

こちらはRyzen 7 PRO 6850Uの圧勝



◆WebP Image Encode 1.1

Googleが作成した画像フォーマットであるWebPに画像をエンコードするのにかかる時間をスコア化したのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

僅差ではあるもののRyzen 7 PRO 6850Uの方が優れているという結果に。



◆simdjson 2.0

高速JSON解析ライブラリであるsimdjsonを利用した際のデータ転送速度をスコア化したのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

2通りでテストを実施しているものの、どちらの形式でもRyzen 7 PRO 6850Uの方が優れているという結果に。





◆Java Gradle Build

GradleでJavaアプリをビルドするのにかかる時間をスコア化したのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

僅差ながらM2搭載MacBook Airの勝利



◆DaCapo Benchmark 9.12-MR1

ベンチマークソフトの「DaCapo Benchmark」を利用した際のスコアを示したのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

Java Test:H2



Java Test:Jython



Java Test:Tradebeans



◆Renaissance 0.14

ベンチマークソフトの「Renaissance」を利用した際のスコアを示したのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

Randome Forest



Apache Spark ALS



Finagle HTTP Requests



◆Zstd Compression 1.5.0

リアルタイム圧縮アルゴリズムのZstdを利用した際の、データ圧縮速度を示したのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

圧縮レベル19での圧縮速度



圧縮レベル19での解凍速度



◆GNU Radio

ソフトウェア無線を実装するための信号処理ブロックを提供するためのフリーソフトウェアである「GNU Radio」を利用した際のデータ転送速度を示したのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

5つのFIRフィルターを連続で通した際



信号ソースでテストした際



FIRフィルターを通した際



◆Vp9 libvpx Encoding 1.10.0

Googleが開発する動画圧縮コーデックであるVP9を利用して動画を圧縮する際のデータ圧縮速度を示したのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

4K動画を圧縮する際



1080p動画を圧縮する際



◆x265 3.4

動画圧縮規格のH.265を用いて4K動画を圧縮する際のデータ圧縮速度を示したのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



◆Coremark 1.0

ベンチマークソフトの「Coremark」を利用した際のスコアを示したのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



◆libavif avifenc 0.10

libavifを使ってAVIFファイルを作成するのにかかる時間をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

設定がエンコーダースピード6の場合



設定がエンコーダースピード6かつロスレスの場合



設定がエンコーダースピード10かつロスレスの場合



◆Build2 0.13

オープンソースのクロスプラットフォームのビルドツールであるbuild2を利用してコンパイルを行った際の所要時間をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



◆POV-Ray 3.7.0.7

レイトレーシングソフトウェアの「POV-Ray」を使った際のトレースにかかる時間をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



◆Primesieve 8.0

Python構築用のC++ライブラリであるPrimesieveを利用した際の処理時間をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



◆Numpy Benchmark

対気速度ベンチマークのNumPy Benchmarkのスコアをまとめたのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



◆Ngspice 34

オープンソースの電気および電子回路用シミュレーターNgspiceの処理時間をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

回路:C2670



回路:C7552



◆OpenSSL 3.0

オープンソースライブラリ・OpenSSLのバージョン3.0でSHA256のハッシュ値計算を行う際のデータ転送速度をまとめたのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



◆Node.js V8 Web Tooling Benchmark

Node.jsを使用したシステムのJavaScriptパフォーマンスをテストすることができるベンチマークソフトNode.js V8 Web Tooling Benchmarkのスコアをまとめたのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



◆Liquid-DSP 2021.01.31

C言語で記述されたソフトウェア無線用のオープンソース信号処理ライブラリ・Liquid-DSPを利用した際のデータ処理速度をまとめたのが以下のグラフ。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

スレッド:2、バッファレングス:256、フィルタレングス:57



スレッド:8、バッファレングス:256、フィルタレングス:57



◆TensorFlow Lite 2022-05-18

モバイル向けのTensorFlowモデル軽量版であるTensorFlow Liteを利用した際のデータ処理にかかった時間をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

モデル:SqueezeNet



モデル:Mobilenet Quant



モデル:Inception ResNet V2



◆Darktable 4.0.0

オープンソースの写真ワークフローアプリケーションであるDarktableを利用した際のデータ処理にかかった時間をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

テスト:ボート



テスト:サーバールーム



◆GEGL

画像処理アプリケーション向けに開発されたプログラミングライブラリ・GEGLを利用した際のデータ処理にかかった時間をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

実行処理:クロップ



実行処理:カートゥーン変換



実行処理:反射



実行処理:アンチエイリアス



実行処理:カラーエンハンス



◆GIMP 2.10.32

フォトレタッチソフトGIMPを利用した際のデータ処理にかかった時間をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。

実行処理:リサイズ



実行処理:回転



実行処理:自動レベル補正



◆Inkscape

ベクター画像編集ソフトのInkscapeを利用してSVGファイルをPNGファイルに変換するのにかかる時間をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



◆GNU Octave Benchmark 7.2.0

ベンチマークソフトのGNU Octave Benchmarkを利用して、GNU OctaveからC++の実行ファイルを呼び出すのにかかる時間を計測した結果をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



◆PyBench 2018-02-16

Pythonベンチマークソフト・PyBenchでさまざまな関数の平均テスト時間を測定した結果をまとめたのが以下のグラフ。数値が低いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



実施した190種類のベンチマークテストに置いて、最もスコアが高かったものを分類すると以下の通り。Ryzen 7 PRO 6850U(黄緑)が20種類(10.5%)、M2(オレンジ色)が26種類(13.7%)、M2最大パフォーマンス(紫色)が67種類(35.3%)、Ryzen 7 PRO 6850U最大パフォーマンス(青緑色)が77種類(40.5%)。



すべてのベンチマークテストの平均値を取ると以下の通り。数値が高いほど優れたパフォーマンスであることを意味します。



なお、M2搭載MacBook AirがどれだけRyzen 7 PRO 6850Uのスコアに近づけるかは、「対象のソフトウェアがAArch64用に最適化されているかどうか」や「ワークロードのサブセットに大きく依存する」とPhoronixは記しており、スコアが一部低いのは「Apple SiliconにおけるLinuxサポートに制限があることにも由来している」と指摘しています。