福田正博 フットボール原論

■サッカー日本代表は、国内組を中心としたメンバーでE-1サッカー選手権に臨み、見事に優勝。活躍をアピールした選手も多く出た。今大会からカタールW杯のメンバーに入るのは難しいとされるが、それでも福田正博氏は、今後の日本代表活動にも招集され、本番でメンバー入りする可能性があるとする、2人の選手を挙げた。

いいアピールをした選手がいた

 国内組を中心に臨んだE-1サッカー選手権で、日本代表は3戦目で韓国代表を3−0で下して優勝した。4大会ぶり2度目のタイトル獲得となったが、大会の格付けにかかわらず、どんな大会でも頂点に登り詰めることには意義がある。

 ただ、この大会でそれ以上に注目されていたのは、日本代表選手それぞれのパフォーマンスだろう。11月末から始まるカタールW杯のメンバーに名乗りを挙げられるかという点だった。


E-1サッカー選手権での活躍で、自らをアピールした橋本拳人

 日本代表入りへのサバイバルと煽る気はない。森保一監督は2018年から4年間かけて選手選考を重ねながら、カタールW杯を戦える日本代表をつくりあげてきた。それだけに、今回のE-1組の選手たちが新たにカタールW杯のメンバーに食い込もうとするなら、よほどのアピールがなければと難しいだろうと思っていた。

 しかし、その点で数人の選手は、今後の日本代表活動に招集してもいいのではないかと感じるプレーを見せてくれた。

 まず、谷口彰悟と山根視来(ともに川崎フロンターレ)については、W杯アジア最終予選から日本代表活動に参加しているので、今後もカタールW杯へのメンバー候補に残るはずだ。センターバック、サイドバックともに、故障を抱える主力選手の今後の状況次第では、彼らの存在価値がもっと高まる可能性もある。そうしたなかでE-1でも安定したプレーを見せてくれたことに安堵している。

 アピールという点で言えば、相馬勇紀(名古屋グランパス)と橋本拳人(ウエスカ)はカタールW杯に向けて、継続してチャンスを手にできる結果を残したのではないかと思う。

相馬が持つ試合の流れを変える力

 相馬は香港戦で2ゴール1アシスト、韓国戦では先制ゴールを決めたほか、CKから正確なキックでゴールを演出した。相馬のポジションの左サイドアタッカーには、現状では南野拓実(モナコ)と三笘薫(ブライトン)がいる。この2人に割って入る存在というよりは、もう1枚のカードとして相馬を、今後も検討していいと思う。

 相馬のよさは積極性だ。ボールを持てば果敢に仕掛け、チャンスと見るやスペースに猛然と走っていく。シュートへの意識も高いが、味方を生かすための視野も備えている。もちろん、守備もしっかりとやれる選手だ。スタメンに限らず、試合途中から起用されても、持ち前の積極性で試合の流れを変えるエネルギーをもたらすことができるのも魅力だ。

 左サイドアタッカーは、南野と三笘を併用しながらカタールW杯を戦うことも可能だ。しかし、対戦相手であるドイツ、コスタリカ、スペインを考えれば、両選手だけでは心もとない。強度の高い相手から受ける疲労度や試合間隔を考えれば、このポジションの相馬を連れていく選択肢があってもいいだろう。

 橋本拳人はE-1選手権が始まる直前にヴィッセル神戸からスペイン2部のウエスカに移籍が決まったが、日本代表での活動を優先した。W杯に懸ける気持ちが伝わる行動だったのもあって注目したが、いますぐ日本代表のスタメンに名を連ねても遜色ないクオリティーを発揮していた。持ち前の推進力やゴール前にも顔を出せるダイナミックさは、W杯を戦う日本代表を助けるものになるはずだ。

 現状の日本代表の中盤には、遠藤航(シュツットガルト)、守田英正(スポルティング)、田中碧(デュッセルドルフ)、原口元気(ウニオン・ベルリン)、柴崎岳(レガネス)らがいるが、このなかに橋本が割って入る可能性は十分にあるだろう。

 ただ、そのために重要なポイントがある。それが日本代表のフォーメーションだ。森保監督は6月のブラジルやパラグアイなどとの国際親善試合では4−3−3を使ったが、E-1選手権では4−2−3−1とも4−4−2とも受け取れる布陣で戦った。

 私は、森保監督がカタールW杯で4−2−3−1のフォーメーションを使う思惑があるのかなと感じたし、その場合、橋本のW杯行きはグッと高まるのではないかと思う。

ダブルボランチにするなら橋本は可能性十分

 4−3−3にした場合、中盤のアンカー1枚の両脇のスペースは相手にとっては狙いどころになる。遠藤航の守備力は高いとはいえ、W杯でドイツやスペインを相手にして、そこをひとりで守りきれる保証はない。

 しかも、昨夏の東京オリンピックでは、遠藤が連戦の疲労によってパフォーマンスが落ちると、チームの守備力も低下してしまった。あの経験があるからこそ、W杯の短期間で強豪と対戦し続けるスケジュールや疲労度などを考慮して、森保監督は中盤の守備のところで誰を起用してもコンスタントに戦えるフォーメーションを持っておきたいのではないかと感じている。

 ダブルボランチにすれば、守備の安定感は増えるし、人材もいる。組み合わせは遠藤と守田、田中の3選手に加えて、原口、柴崎などを状況や試合展開、相手との力関係によって使っていくだろうが、ここに橋本という選択肢が加わる可能性は十分にあるだろう。

 もうひとつ橋本のメンバー入りの可能性を考えるのは、彼が2019年に初招集されてから長い時間代表の常連でもあったということだ。W杯までに残されている代表活動の時間は、ほとんどない。そのなかでチームの守備の核となるポジションの選手が新たに合流するのは難しいが、橋本には日本代表としてのほかのメンバーと時間を共有した実績がある。連携面などでの心配がないのもいい。

 相馬や橋本がW杯メンバー入りのチャンスを残したと感じるのは、ワールドカップの登録選手数が26人に増えたことも理由にある。そして、だからこそ選ばれてほしいと思う選手もいる。たとえば水沼宏太(横浜F・マリノス)は、26番目の選手としてカタールに連れて行ったらどうだろう。

 ワールドカップのような大きな大会では、すべての選手がピッチに立つために選ばれるわけではない。2002年日韓W杯の中山雅史や秋田豊がそうであったように、チームが一丸となって戦うために縁の下の力持ちになれる選手も不可欠だからだ。その点で水沼宏太のようなキャラクターの選手が選出されてもいいように感じる。

残り続けるのは並大抵のことではない

 カタールW杯の開幕は11月21日。日本代表に残された時間は、9月にあるアメリカ、エクアドルとの国際親善試合の期間と、大会直前の時間しかない。その限られた時間では、W杯を戦うチームを成熟させていくことが最優先になる。

 それだけにE-1選手権から9月の代表活動へとチャンスを継続してもらえたとしても、そこに残り続けるのは並大抵のことではない。そこを理解しながら、今後の日本代表がどうなっていくのかをしっかり見守ってもらいたいと思う。