5月29日午後、猛暑の中でJR高崎駅前を歩く人たち(群馬県高崎市、写真:共同通信)

5月29日、全国で今年初めて35℃以上の猛暑日になりました。

昨年の全国初めての猛暑日は6月9日でした。5月に猛暑日が観測されるのは2019年以来、3年ぶりです。


5月29日の最高気温(出所:weathermap)

こちらは5月29日の各地の最高気温です。

(外部配信先では天気図などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

東京、名古屋、大阪などで今年初めて30℃以上の真夏日を観測。全国で真夏日になったのは261地点、今年最も高い気温になったのは402地点でした。

「なぜこんなに暑くなったのか」「今から暑くて夏本番はどうなるのか」など、暑さの原因と今後の見通しを解説します。

記録的な暑さ

5月29日に猛暑日になったのは、佐野(栃木県)と上里見(群馬県)で、ともに最高気温は35.2℃でした。佐野(栃木県)は5月の観測史上3位、上里見(群馬県)は2位です。


5月29日の最高気温ランキング(出所:weathermap)

近年、暑い場所として知られるようになった多治見(岐阜県)は34.9℃で、ギリギリ猛暑日にならなかったものの、 5月としては観測史上1位の気温です。

全国の25地点で5月の観測史上最も高い気温となりました。私の地元・岡崎(愛知県)でも、5月の観測史上1位の33.0℃、8月上旬並みの気温でした。「確かに暑かった、この時期にこんなに気温が上がるなんて」と家族も驚いていました。

ここまで気温が上がったのはなぜでしょう。

1つは、上空に暖気が流れ込んでいました。


5月29日の暖気(出所:weathermap)

こちらは5月29日の上空1500メートル付近の暖気です。

東北から西日本にかけて広い範囲が薄いオレンジ色の12℃以上となりました。オレンジ色で示されている15℃以上になったところもあり、平年よりも暑い空気に覆われていました。

ただ、暖気だけを見ると、沖縄のほうが暑くなりそうです。

気温が上がったもう1つの原因は、よく晴れて強い日差しが照りつけたことです。この時期は日差しのパワーが増しています。

さらに、関東の内陸で特に気温が上がって35℃以上の猛暑日になったのは、フェーン現象が関係しています。


フェーン現象(筆者作成)

山を越えた暑い空気が吹きおろすフェーン現象により、気温が押し上げられました。

今年4月に東北で真夏日になったときなど、極端に暑くなるときにはフェーン現象が関係していることが多いです。

インドで熱波 50℃近い高温になった理由

5月のインドは、気温が50℃近くまで上がったところがあり、日本を上回る猛烈な暑さに見舞われました。これはラニーニャ現象が影響しています。


5月11日〜17日の平均気温(出所:気象庁HP)

インドでは3月から5月が1年で最も暑い時期です。

さらに、今年はラニーニャ現象によって、偏西風がインド付近で北偏したため、インドに暖気が流れ込みやすくなり気温が上がりました。


5月15日の暖気(出所:weathermap)

インドの首都デリーで49℃以上となった5月15日の上空の暖気の様子です。

ニューデリー付近は、上空1500メートル付近で30℃以上の暑い空気に覆われていました。

今年の夏(6〜8月)は日本付近で偏西風が北偏する見込みで、日本は暑さが厳しくなりそうです。


予想される海洋と大気の特徴(出所:気象庁HP)

まず、偏西風が北偏すると、太平洋高気圧が北に張り出しやすくなります。その上空のチベット高気圧も平年よりも北偏しそうです。このため、暖気が流れ込みやすくなるでしょう。


3か月予報の平均気温(出所:気象庁HP)

気象庁の3か月予報によると、6月は全国的に平年並みか高い、7月は北日本から西日本で平年並みか高い、8月は北日本と東日本で平年並みか高い見込みです。

昨年、10年ぶりに平年値が更新されて、「平年並み」の気温自体が上昇しました。それよりさらに気温が高い傾向ということで、熱中症には十分注意が必要です。

ひんやりグッズで熱中症対策を

熱中症対策として、まず思い浮かぶのはこまめな水分補給と適度な塩分補給。外ではこまめに休憩することも大切です。家の中など屋内では無理せずエアコンをつけましょう。室温28℃以下が目安といわれています。

直射日光を避けることも有効です。夏の場合、日向と日陰では5℃くらい違います。日陰を選んで歩いたり、帽子や日傘で直射日光を遮るような工夫をしましょう。風通しが良い服、汗を吸いやすい吸水性が良い服もおすすめです。


熱中症予防のポイント(出所:weathermap)

また、最近はいろいろな暑さ対策のグッズが出ています。持ち歩けるハンディ扇風機は街中でもよく見かけるようになりました。

ひんやりグッズにも注目です。首、脇の下、足の付け根など太い血管が通っているところを冷やすと、効果的に体を冷やすことができます。外でも冷やしやすいのは首かと思いますが、ネッククーラー(アイスネック、アイスリング)といわれる首にかけて冷やすグッズが便利です。自然由来の素材でできた環境に優しいものや、首が疲れにくい軽量のものが出ています。

保冷剤ほど急激に冷えないので、肌にも優しそうだと感じました。


ネッククーラーを用意しておくのも手です(写真:metamorworks/PIXTA)

服などにかけると涼感を得られるスプレーもあります。暑がりの共演者の方がよく使っていて、私も使ってみたら予想以上にひんやりしました。

夏に向けて、今のうちに自分に合った熱中症対策を見つけることをおすすめします。

気候変動へのアクションを

今年5月、国連の専門機関であるWMO(世界気象機関)は、今後5年以内に産業革命前と比べて1.5℃の気温上昇が一時的に起こる可能性が50%近くまで高まっているという厳しい見方を示しました。イギリスの気象庁の調査に基づくものです。

産業革命前と比べて1.5℃の気温上昇は、気候変動によって深刻な影響が広がるとされる1つの目安です。昨年1年間の世界の平均気温は、すでに1.1℃上昇しています。

また、WMOは5月18日、世界の平均の海面水位が昨年までの30年間に10センチ以上も上昇したと発表しました。特に近年、海面水位が上昇する速度は増しています。

その原因として、南極などの氷が溶けて海水の量が増えていることなどが挙げられています。

世界の平均気温や海面水位、南極の氷、というと実感は湧きにくいかもしれませんが、今回の暑さのような身近な出来事が気候変動へのアクションを考え、実践していくきっかけになればと思います。

(久保井 朝美 : キャスター、気象予報士、防災士)