どのように子育てをしたらいいのか悩む親は多い。お茶の水女子大学附属小学校前副校長で同大学長特命補佐の神戸佳子さんは「親御さん自身が『子育てに失敗してはいけない』という考えを捨て、子供に対しても『失敗していいんだよ』というメッセージを送れば、子供はいろんなチャレンジができる強さを身に付けていきます」という――。

※本稿は、『プレジデントFamily2022年春号』の一部を再編集したものです。

撮影=小松士郎
お茶の水女子大学附属小学校前副校長の神戸佳子さん - 撮影=小松士郎

■最近の親は「失敗してはいけない」という気持ちが強い

「子育ては、そう簡単に失敗できるものではない」

教師生活35年、延べ3000人の子供たちを見てきて、さらに自分も母親として子供を育てた私の実感がこれです。

『プレジデントFamily2022年春号』

もちろん子供はいろいろ失敗するし、問題も起こします。親としては「この子は大丈夫だろうか? 今に大問題を起こすのではないか」と思ってしまいますが、ほとんどの場合、子供は自然と成長していくもので、大問題にまで発展するケースはごくごく稀です。

最近の親御さんは子育てに対して本当に真面目で、熱心です。その反動なのでしょうか、「失敗してはいけない」という気持ちが強いように思います。自分自身が、「子育てに失敗してはいけない」し、子供にも「失敗させたくない」と考えているのですね。

たとえば小さな子供がお友達を叩いたとします。まあ、よくあることです。

ところが最近の親御さんは「このままではいじめの加害者になってしまうのでは」と過剰に心配して、子供と一緒にしょげかえってしまう。

人を叩いてはいけないことをしっかりと伝えていけば、子供はだんだんとそれを理解して、同じような問題を起こさなくなるもの。むしろ、友達とケンカをすることも、成長していくための大切な糧だったりするものです。

■子供は放っておけば勝手に探究を始める生き物

かつて大学進学は「憧れて目指すもの」でしたが、今は「せめて大学ぐらいは」というセーフティーネットになっています。中学受験も同様で、すてきな校風の学校に憧れて、ここで学べたらいいねという受験から、中学受験で失敗したらもう後はないくらいに緊迫感の強いものになってしまっているようです。

お茶の水女子大学附属小学校前副校長の神戸佳子さん(撮影=小松士郎)

まずは親自身が「子育てに失敗してはいけない」という考えを捨て、子供に対しても「失敗していいんだよ」というメッセージを送ってください。そうすることで、子供はいろんなチャレンジができる強さを身に付けていくのではないでしょうか。

最近の教育上のキーワードとして探究心とかメタ認知とか、いろいろな言葉が飛び交っていますが、そもそも子供というのは、放っておけば勝手に探究を始める生き物です。

「放っておけば」がミソです。

今は習い事やら塾やらスケジュールがいっぱいで、「放っておかれる」時間が子供たちにないのです。ですから、親御さんにお願いしたいのは、子供が自由に過ごせる時間をつくってやることですね。重要なポイントは、その間、親も自分の時間を楽しむことです。

一緒に自然の中に出かけていって、親子でキャンプするなんていうのはとてもいいことですね。でも、親が「ここで探究心を身に付けさせよう」などと“親プロデュース”のキャンプにしてしまっては台無しです。親自身がまず、「自分のために」楽しむ。あとは放っておけば、その姿を子供が見て、勝手に自然に興味・関心を持つようになります。

家の中に本を置いておくのもいいでしょう。親御さんが料理に興味があれば、料理関連の本を置いておく。そうすると子供はいつの間にか見るようになっていく。

また、夫婦で新聞やニュースを見て、思ったことを話し合うことも大切です。親が子供と話すときには、具体的でわかりやすい子供向けの話し方をしますが、夫婦で話すときは大人の会話です。子供は両親の会話をなんとなく聞きながら、大人の話し方のニュアンスや、抽象的な言葉の使い方を覚えていきます。

こういった工夫は、いわば「家庭の文化的資産」ともいうもので、それが豊富な家庭と貧しい家庭では、子供の成長に差が出てくるのは明らかです。

あとは「優しい子供に育ってくれればいい」くらいにゆったり構えていること。子育てが本当に大変なのはほんの一時です。子供はどんどん成長し、変わっていきますから、悩んだこともあっという間に笑い話になっていきますよ。

----------
神戸 佳子(かんべ・よしこ)
1961年福島県生まれ。お茶の水女子大学卒業、同大学大学院理学研究科数学専攻へ進学。修了後、同大附属小学校の教師に。2013年に同校副校長就任。21年4月よりお茶の水女子大学学長特命補佐。
----------

(神戸 佳子 構成=田中義厚)