ブラックホール情報パラドックス解決を主張する「発毛定理」英米伊の研究グループが発表
ブラックホールについて我々が知っていることといえば、非常に強い重力のために、光でさえもいったんその中に取り込まれれば出てくることができないといったことです。ただしこれは一般相対性理論で論じられていることで、量子力学の世界ではそのようなことはあり得ないとも言われています。
しかし、英サセックス大学の研究者らはこの相容れないような双方の主張「ブラックホール情報パラドックス」を解決できるかもしれないとBBN Newsの取材に対して答えました。
これは1960年代に米プリンストン大学のジョン・ウィーラー教授らが提唱した、ブラックホールについて観測可能な物理量は電荷・質量・角運動量(スピン)の3種類のみで、あとはすべて事象の地平面に飲まれツルツルのハゲ頭状態だとして名付けられた”ブラックホール無毛定理”に取って代わる考え方になるものです。
サセックス大学のザビエル・カルメット教授、伊ボローニャ大学のロベルト・カサディオ教授と米ミシガン州立大学のスティーブン・シュー教授らのチームによるこの研究では、ブラックホールになる前の星の構成要素が、ブラックホールの重力場に”痕跡”を残すことを示したとのこと。
研究では量子的な考え方を重力に応用した重力子と呼ばれる仮説上の粒子をを用いており、この重力子が特定のエネルギー条件下でどのように振る舞うと考えられるかを、論理的なステップを経て導き出した結果、ブラックホール内部の情報が重力場のわずかな摂動として現れ、本来なら一度落ちたら戻ってこられないはずの一線を越えて周囲の空間に接続し続ける…というモデルを実証しているとのことです。そしてこのモデルはどちらの理論にも重要な原則に反しないシンプルかつエレガントな解決策だと述べられています。
そのためカルメット教授らはこの摂動の痕跡を”Quantum Hair(量子髪の毛)”と呼び、さらに査読付き科学ジャーナルPhysical Review Lettersに提出した研究論文には、この定理を脱毛定理(No-hair theorem)に対して”Yes-hair theorem”と名付けました。日本語にするなら"発毛定理"でしょうか(?)。
カルメット教授はこの研究結果が一般相対性理論と量子力学の橋渡しをすると考えているものの、一方で人々がこれを受け入れるにはまだしばらく時間がかかると予想しています。その理由はカルメット教授いわく、スティーブン・ホーキング博士らがこのパラドックスに気づいて以来長年にわたり、一般相対性理論と量子力学は相容れないものだという考え方が定着してきたところへ、突然「両者は非常に相性が良い」と言い出したようなものだからとのこと。
もしこの研究が本当に正しく、2つの理論の対立が丸く収まることが世の中に受け入れられたら、宇宙物理学の世界だけでなく、広範な科学分野においても、将来的に世の中に大きな進歩をもたらすことになるかもしれません。
Source:BBC News
coverage:Physical Review Letters
