名作スニーカーに脱構築的な引用符ワードを加えた代表作であるNikeとのコラボレーション「THE TEN」の「エア ジョーダン 1」を見ればわかりやすいだろう。または、盗用だと糾弾されたIKEAの椅子でもいい。ここでは、ミッドセンチュリーに人気を博した椅子とそっくりなデザインに小さなドアストッパーを含ませる「3%アプローチ」が行なわれている。リファレンスという手法自体はファッションの文化に根づいているものだが、こうしたデザインは「あまりにオリジナリティがない」として、否定的反応も生んだ。

Nike幹部より「DJの素養を発揮するリミキサー」として評された(*2)ヴァージルは、先人たちにリスペクトを捧げる自らのアプローチをヒップホップだと説いた。マルセル・デュシャンの「レディメイド」を指針とし、その概念にストリートウェアとの相関を視た彼にとって、過去の創造物をリファレンスしていくロジックは、既存の楽曲を切り刻んで新たな曲をつくるヒップホップのサンプリング手法と同じものだったのだ。

<「ぼくはアメリカ人であり、スケードボードとヒップホップ育ち。なので、ストリートウェアをつくるけど、それをファッションの文脈に乗せるんだ」(ファッションデザイナーとしての自身について、ヴァージル・アブロー)(前掲*2)>

2010年代初頭にOff-Whiteを創業したヴァージルが掲げた目標は、ストリートウェアが芸術であることを証明し、ハイファッションにおいてストリートの美学を一過性のブームに終わらせないため、ジャズのような持続性ある文化体系を整えることだった。

ヴァージル当人は、ストリート要素を組み込んだBALENCIAGAが台頭した2016年ごろ、そのような自身の思惑が軌道に乗った旨を明かしていた。そしてそれは、2年後に発表された彼のLouis Vuittonクリエイティブディレクター就任によってこそ大々的に達成された使命だったと言えるだろう。

■「君にもできるよ」。黒人の若者たちに向けたメッセージ

「you can do it too...(君にもできるよ)」。2018年、多様な人種のモデルたちが虹色のカーペットを闊歩したLouis Vuittonにおけるファーストコレクション「We Are The World」発表後、ヴァージルが記したInstagramキャプションだ。

チームワークを「ドリームワーク」と呼び、ストリートやSNS越しにチームメイトを採用していった彼は、キャリアを通して、後進、特に黒人の若者たちの育成支援に尽力していた。自ら打ち出したスローガン「I Support Young Black Business」を冠した2020年のOff-Whiteチャリティコレクションから、自身のルーツであるガーナ初のスケートパーク建設への貢献まで、その活動は多岐にわたっている。