結婚4年目。夫婦で幸せに暮らしているはずの34歳妻が、友人に会った際に覚えた違和感とは
マウンティング。
本来は動物が「相手よりも自分が優位であること」を示そうとする行為のことを言う。
しかし最近、残念ながら人間界にもマウンティングが蔓延っているのだ。
それらを制裁すべく現れたのが、財閥の創業一族で現在はIT関連会社を経営する、一条元(はじめ)。通称・ジェームズだ。
マウンティング・ポリスとも呼ばれる彼が、今日戦う相手とは…?
▶前回:地方出身者を見下していた、東京出身の自称・お嬢様。しかし思わぬところで“育ちの悪さ”が露呈し…
ある火曜の昼下がり。
濃厚なコラーゲンスープと絡み合う太麺、程よい大きさの信玄鶏。そしてシンプルなしんとり菜とのコンビネーションは、何度食べても最高に美味しい。
幸せな気持ちに浸りながら食べていると、いきなり彼女が箸を置いて、こちらをまっすぐ見つめてきた。
「ねぇジェームズ。結婚して子どもがいない夫婦って、変なのかな?」
僕たちは、未来が独身だった頃からの知り合いだ。だけど結婚後には彼女の夫とも仲良くなり、今では夫婦で付き合いがある。
六本木にある彼らの素敵なご自宅にお邪魔したこともあるし、アート好きで聡明な2人と話しているのはとても楽しい。
「えっ、どういうこと?」
最初はなぜ未来がこんなことを尋ねてきたのか、よくわからなかった。けれど彼女も、人知れずマウンティングされることに悩んでいたようなのだ。
未来が悩んでいたマウンティングとは…
Case3:子持ちマウンティングをしてくる女/通報者・未来の悩み
「ねぇジェームズ。結婚して子どもがいない夫婦って、変なのかな?」
気がつけば、ジェームズにそんなことを尋ねていた。
というのも私たち夫婦は、30歳で結婚してもう4年になる。夫婦仲もいいし幸せだ。でもそれを話すと、決まって言われることがある。
「子どもはいつ産むの?」と。
なかにはまったく悪気のない人もいる。けれども最近、友人である夏帆の言葉に、気持ちがかなりエグられているのだ…。
◆
34歳にもなると「女性の生き方も、本当に人それぞれだなあ」と思うようになる。結婚している人、していない人。一度は結婚したけれど離婚した人。そして子どもがいる人、いない人…。
特に大学時代からの友人の集まりなどは、それが顕著に現れる。
私にも学生時代から仲の良い女友達が4人いるが、その中で美優だけがバツイチ独身だ(ちなみに彼女は、はたから見ても相当人生を謳歌している)。
他はみんな既婚者だけれど、私だけ子どもがいない。ただ夫ともそれは話し合い済みで「無理に子どもは作らない」と決めていた。
だが最近、彼女たちと『キハチ 青山本店』でお茶をしたときのこと。そこで“ある事件”が起きてしまったのである。
「こうやって、みんなで集まれるの久しぶりで嬉しいな」
「本当だね。夏帆は子ども、誰かに預けてきたの?」
すると夏帆が、笑顔で首を横に振る。
「ううん、今の時間はちょうど保育園行ってる。でもいいなぁ、未来は子どもがいないからラクだよね。産む予定はあるの?」
― 予定は未定だけど…。
私だって子どもは好きだけど、できないならば仕方ない。そう思っていた。
「私たちもう34歳だよ?そろそろ考えないとじゃない?旦那さんは何か言っていないの?」
「自然に任せようかなって、思ってるんだ」
子どもがいなくても、十分幸せだった。でも出産した人からしたら、結婚4年目にもなって子どもがいない夫婦は不思議なようだ。
「でも絶対、子どもは産んだ方がいいと思うんだ。出産を経験すると世界が変わるよ!世の中を見る目も変わるし、女として次のステージにいける感じかな」
「次のステージ…?」
美優と私で、思わず顔を見合わせてしまった。
まるでそれは「子どもがいない私たちは、レベルが下だ」と言われているようにも聞こえてしまったから。
「少子化に貢献できていなくて、申し訳ないな〜!」
私なりに精一杯笑顔で対応する。けれども夏帆は眉間にシワを寄せながら、一見自虐しているかのように見せかけて畳み掛けてくる。
「でも2人とも、自分のことにたっぷり時間が使えて羨ましいなぁ。私なんて子どもがいるから、そっちに手一杯で」
「いやいや、子育てしてるほうがすごいよ」
子育てをしてるすべての人を尊敬しているし、本当にすごいなと思っている。ただ私たち夫婦には子どもがいない、それだけのことだ。
「でも実際に、子どもがいると制限もあるしね」
見かねたのか、ようやくもう1人の子持ちのママである香奈が口を開いた。しかし夏帆の話は止まらない。
「大変だけど、そのぶん可愛いよね。でも未来さ、本当に子どもこそ早く作ったほうがいいよ?余計なお世話かもしれないけど年齢もあるし」
子どもは可愛いとは思う。ただこれ以上、私たち夫婦の子作り事情に踏み込んできてほしくはなかった。
「いい産婦人科知っているから教えようか?」
おすすめされたところで、できるとも限らない。欲しくてもできない場合もある。
― しばらく夏帆には会わないでおこうかな。
そう決めかけたとき、最後に爆弾発言を投下してきたのだ。
「でも…。子どもを作らないなら、結婚する意味ってなんだろうね。旦那さんは、実は子どもが欲しいと思ってるかもしれないよ?」
子持ちマウントをしてくる女に対し、マウンティング・ポリスが取った行動は
「モテなくなったのは、子どものせいなんかじゃない」と気づかない女
ジェームズに、この話をしてから1週間経った頃。彼から1通のLINEが届いた。
J:未来、こんな画像が送られてきた。これって夏帆って人じゃない?
彼のLINEには動画が添付されていたのだが、それを見て私は言葉を失ってしまった。彼女がまだ幼い子どもを抱きかかえ、爆音が鳴り響くクラブのような場所で遊びに興じていたのだ。
「え…?どういうこと??」
周りには若い男女が写っている。その中で1人、乳飲み子を抱っこしながら両脇に謎のイケメンを従えて、ご満悦な様子の夏帆。
それは一種の狂乱のようにも見えた。
「ジェームズ、これどうしたの?」
慌てて彼に電話をかけると、いつもののんびりした口調でこう返ってきた。
「友人から動画が回ってきた。夏帆って人、この界隈じゃ有名らしいよ」
ジェームズの話によると「子どもができてからモテなくなった」と周囲に漏らしている夏帆は、最近になって急に、若手経営者との出会いを求めるようになったそうだ。
しかし若くて独身のイケメン男子の周りには、同じく若くて可愛い女の子たちがいっぱいいる。
そこで「周囲の男性の態度が変わったのは子どものせいだ」と言い、時に自らお金を出してまで、男性にチヤホヤしてもらっているという。
「別にクラブ遊びが悪いことでもなんでもないし、子どもを連れて行くのだって本人の自由だけど。彼女は逆に、未来が羨ましいんじゃない?」
ジェームズの言う通りなのかもしれない。動画を見る限り、彼女は“必死”だった。
「未来が心を蝕まれる必要もないし、考える時間も無駄。自分の時間を、自分らしく楽しみなよ」
時に言葉は、凶器となる。
相手が何げなく放った一言でも、悩んでいたり突っ込んでほしくないことだと、ずっと心に引っかかってしまうときがある。
しかも夏帆のような人たちは、どうやったら自分の言葉が最大限相手を傷つけることができるのか、熟知しているのだ。
「そういう相手に打ち勝つ方法は、ただ1つ。うんと幸せな人生を送ることだよ。未来は今、幸せでしょ?」
「うん、そうだね!別に子どもがいてもいなくても関係ない。私は幸せだから」
実際に、夏帆に何か制裁が下されたわけではない。けれども彼女の心の闇を見た気がして、何も言えなくなってしまった。
きっと彼女なりに悩んでいるのだろう。
今まで自分中心の生活だったのにそうもいかなくなる。そんなとき、目の前にいる子ナシ夫婦の私たちが羨ましく見えたのかもしれない。
女の人生は、それぞれのステージごとに別々の悩みがある。そして隣の芝生は青いと言うように、他のステージにいる人が羨ましく見えるものだ。
ジェームズとの電話を切ってふと空を見上げると、雲1つない快晴だった。
― 今日の夕飯はちょっといいワインを開けて、夫の好物を作ってあげよう!
そう思いながら、私は足早に帰路についた。
▶前回:地方出身者を見下していた、東京出身の自称・お嬢様。しかし思わぬところで“育ちの悪さ”が露呈し…
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学歴マウンティングをしてくる男