意中の彼を部屋へ呼ぶため、15万円使って模様替えする女だったが…
いまや私たちの日常に溶け込んでいるSNS。
InstagramやYouTube、Twitterなど、とても便利で面白いツールだが…。
そこには、とんでもない“ヤバイ世界”が潜んでいる可能性も。
SNSの沼にハマった女たちに待ち受ける衝撃の事件と、その結末は…?
◆これまでのあらすじ
「Twitter婚活」を始めた柚香(28)は、婚活よりも“バズる”ことに楽しさを見いだし、過激なツイートばかりするようになっていた。フォロワーも徐々に増え始めた頃、ハイスペ風の婚活男子からお誘いがあり…?
Twitter婚活の落とし穴〜柚香(28)の場合〜【後編】
今日のデートに対する私のモチベーションは、いつもとは少し違う。
デートのお相手は、30歳の外資系コンサルタント・アツシさん。Twitterの婚活垢にDMをくれたハイスペ男子だ。
彼は、送ってくれた顔写真もなかなかのイケメンで、何より、メッセージから誠実さがにじみ出ているのが好印象だった。
いつもは、Twitterでつぶやく恋愛ネタ探しのためにデートをする。が、今の正直な気持ちは、ネタにしたいという思い半分、婚活が成就してほしいという期待半分といったところだ。
デート場所であるザ・リッツ・カールトン東京の『タワーズ』で彼を待つ間、自分のTwitterを開き、今朝投稿したツイートに対する反応を確認する。ツイートにはすでに100を超える“いいね”が付いている。
ただ、我ながら、相変わらず内容が苛烈で笑ってしまう。
― こんな過激なツイートばかりしている私に興味を持つなんて、やっぱりすごく変な人なんじゃ……。
アツシさんが自分のツイートをどう思っているのか気になりつつも、“いいね”数が伸びていく様を見るのがたまらなく快感だった。
スマホに夢中になっていると、ふと頭上から声がした。
「すみません、お待たせしました。yuzukaさんですか?」
スマホから視線をはずして顔を上げると、黒のジャケットを羽織った長身の男性が、少し息を切らしながら立っていた。
色白で細身、いかにもインテリといった雰囲気だ。
私は「はい、そうです」と答える。
「アツシです。今日はありがとうございます。お会いできて嬉しいです」
「ええ、こちらこそ。今日はよろしくお願いします」
彼は爽やかで清潔感があり、人当たりがよさそうに見えた。
アツシとの初デートに対する柚香の評価は…?
「yuzukaさん、ワインお好きでしたよね? ここ種類が結構あるので、好きなものを選んでください」
彼はそう言って、メニュー表のワインのページを広げて見せてくれた。
― ワインが好きなことなんて、婚活垢を始めたばかりの頃にしかつぶやいてなかったのに。本当に私のTwitterを熱心に見てくれているんだ……。
少し恥ずかしく思いつつも、自分のライフワークともいえる、あのアカウントを好きでいてくれることに悪い気はしなかった。
彼とは不思議なほどに共通の趣味や話題が多く、その後も終始盛り上がり、楽しいひとときを過ごした。
気づけば、あっという間に1時間半ほどが経過。
食事も終えてそろそろ店を出るかなと思っていた矢先、彼はラフな雰囲気から一転、改まった様子で私を見つめた。
「僕、思ったことをハッキリ言えるyuzukaさんのこと、すごく素敵だなと思っていて。今まで僕が出会ってきた女性は、物静かで口数が少ない方が多くて、コミュニケーションがうまくとれなかったんです」
彼は一切、目線をそらさない。
「ずっと、どんな女性がツイートしてるんだろうって気になっていたんですけど…まさか、こんなに綺麗な方だったなんて。今日お会いできて、すごく嬉しかったです」
照れ笑いする彼に、つられてこちらも笑顔になる。
「それで…もしよかったら、次も会ってもらえませんか?」
婚活を通していままでたくさんの男性とデートを重ねてきた。でも、初対面ながらこんなにも心動かされた人はいただろうか。いや、アツシさん以外にそんな人いなかった。
「はい、私もまたアツシさんとお会いしたいです」
次のデートのお誘いに内心舞い上がりながら、即答したのだった。
◆
その後、アツシさんとは週に1回のペースでデートを重ねるようになった。
彼はかなりの聞き上手で、私の話に熱心に耳を傾けてくれる。映画や漫画をおすすめしたときなんかは、デート翌日には観て、感想を送ってくれた。さらに、話もうまく、面白い。褒め方はスマートで、センスも良い。
彼と会うたび、新しい素敵な一面が見えてくる…。アツシさんへの“好き”の気持ちが、どんどん膨らんでいった。
何としても振り向かせたいと、私は彼好みの女性になるための自分磨きに勤しんだ。
彼が好きだと言っていた本田翼さんに似せて、ロングヘアから思い切って茶髪のショートボブにしたり、メイクをナチュラルめに変えてみたり。彼と会う前日には、必ずフェイシャルと全身のエステに行ったりもした。
― もうすぐ付き合うことになるだろうし…部屋のインテリアも変えたいな。
ふとそう思い立ち、インテリアコーディネーターをしている友達にアドバイスをもらって、大幅な模様替えも敢行した。彼と一緒にワインを飲むためのワイングラスを買ったりと、友達に勧められるまま、気づけば15万円も使っていた。
すべては、彼との幸せな未来のための投資。この程度の出費は、痛くも痒くもない。
― 来週の日曜日でデートも5回目だし、そろそろ告白…のはず!でも、彼は少しシャイなところがあるから、私から促してあげたほうがいいのかも…。
次のデートのためにと奮発して買った、6万円のベージュのタイトワンピースを鏡の前で合わせながら、微笑んだ。
◆
日曜日の朝。
デートの支度をするため、家を出る3時間前の8時に起床した。
起きてすぐ、いつものようにTwitterを立ち上げると、フォロワーから何十通ものDMが届いていた。
何事かと思い、その一つを開いてみる。すると、「yuzukaさん、晒されてますよ」というメッセージとともに、あるアカウントのリンクが貼られていた。
それは、有名婚活アカウントの「ヨシロー」。以前、私がコテンパンに叩いて炎上させた男だ。すぐに、彼のタイムラインを見にいく。
「何……これ……」
私は、愕然とした。
ヨシローのタイムラインに並ぶ衝撃のツイートとは…
『炎上させられた恨みを晴らすべく、別垢を作って、婚活垢のyuzukaに会ってきました。いつもは大口叩いているけど、なんの面白みもないフツーの女でしたよ(笑)もう会うことはないのでここに供養します』
『捨て垢だと怪しまれると思って、別垢はフォロワー15人くらいまで育ててからDMしました。タイムラインでちょっとハイスペ匂わせたら、すぐに食いついてきましたよ(笑)』
ツイートとともにアカウントで晒されていたのは、私の口から下が写った隠し撮り写真。そして…「アツシさん」とのLINEのやり取りだった。
一旦Twitterを閉じ、慌ててLINEを開いてトーク画面をさかのぼる。しかし、「アツシさん」のアカウントは消え『Unknown』と表示されていた。
― やられた!
Twitterを再度立ち上げ、ヨシローのアカウントのタイムラインに並ぶツイート内容を、改めて見直す。
晒されたLINEのスクショ画面は、私がフォロワーのことをバカにしているともとれる内容だった。決してそういう意図で送ったわけではなかったが、前後の文脈がうまく切り取られていた。
それらのツイートには、すでに1,000を超えるいいねがついている。
私のアカウントの最新のツイートには、『yuzukaさんがフォロワーのことを見下してたなんて…ショックです』『晒すヨシローは最低だけど、yuzukaも自業自得』など、あらゆるコメントがつき、炎上していた。
フォロワーの数は、昨日の夜、最後に確認したときよりも100人ほど減っている。
スマホを持つ手が小刻みに震えた。
何か弁解しなれけばと思ったが、ヨシローのフォロワーは3万超え。対する私は、最近やっと5,500人に到達した程度だ。拡散力では比にならない。
でも。
― 負けてられない……。
私はヨシローのツイートを引用し、文章を打つ。そして、誤字がないか最終チェック。
大きく深呼吸し、震える指で「ツイートする」ボタンをタップした。
『この方。Twitterじゃハイスペぶってますけど、実際は全然そんなことありませんでしたよ。すごくガッカリな男性でした(笑)隠し撮り、LINEでのやりとりを無断でアップするといった個人を晒す行為自体、稚拙すぎます。人として最低なことをしている自覚、ありますか?』
彼の行動は、批判されて当然の異常なもの。感情的にツイートをするより、毅然とした態度でそれを指摘しようと考えた。
思惑通り、賛同するコメントが殺到し、世論を味方につけることに成功した。「いいね」数もかなりのスピードで伸びていく。
それに対しヨシローがどう反論しても、もはや負け犬の遠吠えだった。
― ヨシローはもう終わりね。
ひとまずヨシローを打ち負かせたことに安堵し、私はベッドから起き上がる。朝からTwitterにずっと釘付けになっており、気づけば本来デートの約束をしていた12時を回っていた。
食事の準備をしようとキッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。
「……あ」
そこには、「アツシさん」を家に招いたときに一緒に開けようと、前もって準備していたモンラッシェが入っていた。
『ワインお好きでしたよね?』
『まさか、こんなに綺麗な方だったなんて。今日お会いできて、すごく嬉しかったです』
彼と出会ったあの日の光景が、鮮明に頭をよぎる。
― あのときの笑顔や言葉は、全部ウソ、だったんだ……。
Twitter上では必至で見栄を張って応戦していたが、そのリアルな現実を受け入れることができず、思わず冷たい床にへたり込んだ。
部屋の中は、至る場所に彼の好みに合わせたクールなインテリアが置かれている。ドレッサーには買ったばかりのコスメが並び、その横には今日着るはずだったワンピースが掛けてある。
本当はすべて、全然私の趣味なんかじゃない。
― 一体、いくらかけたんだろう……。
ただただ、虚しさだけが募る。
『すごくガッカリな男性でした(笑)』
― 違う。そんなことない。アツシさんは、本当に素敵な人で……。
涙がボロボロと溢れ、床を濡らす。
「……私、何やってるんだろう」
Twitterの通知が鳴りやまないスマホを握り締め、私はひたすら嗚咽した。
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