料金値下げと災害対策に揺れ動く通信キャリア – 世界トップクラスの低料金と高い通信品質の両立は可能か

写真拡大 (全5枚)

●通信料金と災害対策
みなさんは地震などの大きな災害が発生した時、真っ先に何をするでしょうか。
恐らく手元のスマートフォンでニュースサイトやSNSを開き、災害に関する情報を確認すると思います。

このとき、スマートフォンで問題なく情報を取得できていることの凄さに気がつく人はあまりいません。

NTTドコモやKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルといった大手通信キャリア(MNO)は、平時のインフラ管理のみならず、こういった災害発生時でも支障なく通信が行えるための対策や準備を24時間・365日備え続けています。
私たちが支払っている通信料金は、そういった有事に備えるための対策費用にも当てられています。

モバイル通信の通信料金は、2021年にスタートしたMNOの格安プランによって大きく下がり、現在では世界でもトップクラスの通信安定性と料金の安さを両立した通信環境となりました。

それでも各MNOは、災害対策やインフラ整備に投資する費用を大きく削減することはありません。

私たちの支払っている通信料金はどのように使われているのでしょうか。
そして災害が発生したとき、MNOは何をしてくれるのでしょうか。

通信料金やサービスの視点から、MNOの災害対策を考えます。


通信の裏側と通信料金のバランスを考える



●通常業務から緊急対応まで多岐にわたる災害対策
はじめに、MNOが災害対策費用として年間に投資している金額やその対策内容を知る必要があります。

各MNOは平時の通信インフラの維持や整備を含めた災害対策費として、年間数十億円から百億円規模の投資を行っています。

例えばNTTドコモの場合、モバイルネットワークの基礎となる装置(設備)として、
・アクセス系装置(アンテナ基地局など)
・リンク系装置(基幹ネットワーク)
・ノード系装置(音声交換機、パケット交換機など)
・各種サーバ設備(iモードセンター、SPモードセンター)
大まかにこれらの装置が存在しますが、その総数は実に120万を超えます(2019年時点)。

この120万以上の装置の保守・点検に加え、ユーザーが持つスマートフォンに関するサポート業務などもまた、災害対策の1つとして存在します。


スマートフォンがインターネットにつながるだけでも、これだけの設備とその保守を必要とする


このほか、
・移動基地局車両・船舶の配備
・ドローン基地局など新しい災害対策技術の研究
・通信衛星を用いたエリア構築
・迅速な災害復旧を可能にするオペレーションセンターの運営
このような分野への投資もまた、災害対策の大きな柱です。


●災害発生時に支援拠点となるキャリアショップ
ユーザーサポートに当たる末端での災害対策の最も端的な例は、「電源貸し出しサービス」や「無料充電サービス」などでしょう。

各MNOは日本全国にキャリアショップを展開していますが、災害時にはそのショップが災害支援の拠点となり、
・スマートフォンや携帯電話の充電
・モバイルバッテリーの貸し出しサービス
・Wi-Fiの無料開放
・衛星通信端末の臨時設置
こういった支援活動を行います。

昨今は通信料金値下げのために、消費者からも
「キャリアショップを減らしてもっとコストを下げて欲しい」
「サポート業務を減らして店舗業務やスタッフ数を減らすべきだ」
このような意見もあるようですが、地域に根付いた迅速な災害対応を行うためにも、必要最低限の店舗数やサポート業務は残さなければいけません。

コストを抑え通信料金を下げつつも、有事への備えを怠らないためにはどうすべきなのでしょうか。
現在のMNOが抱える大きな問題になりつつあります。


巨大災害が発生する度に、各地のキャリアショップは支援拠点として活躍している



キャリアショップだけではなく、各自治体と協力してショップ外でも支援活動を行っている



●日常の「当たり前」が当たり前であることの有り難さ
普段私たちは、スマートフォンがインターネットにつながり誰とでも常に連絡が取れる状態にあるとそれが当たり前となり、通信会社がどれだけの保守・保全を行っているのかなど忘れてしまいがちです。

そのため通信料金の安さばかりに関心が行きがちですが、世界トップクラスの通信品質を世界トップクラスの安さで維持している企業努力もまた、時には思い出す必要があるかも知れません。




執筆 秋吉 健