東名など一部の高速道路で、道路が「右ルート」「左ルート」に分かれる区間があります。お互い並行しているこの2ルート、どういった意味があるのでしょうか。

一瞬迷ってしまう謎のルート分岐

 高速道路には、全国的に珍しいつくりや構造をしているところがちらほら存在します。そのひとつに、道路が「右ルート」と「左ルート」に分かれている区間が挙げられるでしょう。

 たとえば、東名高速の下り線では大井松田IC(神奈川県大井町)を過ぎると、「←左ルート」「右ルート→」の標識が出たあとに分岐。互いの道路はつかず離れずで並行し、足柄SAの手前で再び合流します。

 このような右ルート/左ルートが分かれる区間は、この東名下りの大井松田IC〜御殿場IC間を含め全国で4区間、うち名神高速の京都南IC〜高槻JCT間は、上下線とも右ルート/左ルートが分かれます。


左右にルートが分岐する東名高速の上り線(画像:のっぴー)。

 とはいえ、左右どちらのルートを通ってもほとんど距離は変わらず、最終的には同じところへ到着して同じ方面に向かいます。ただ、特定のルートを通らないと利用できない施設もあるなど、注意が必要なケースも。

 先述の東名下り線の大井松田IC〜御殿場IC間では、「左ルート」に入らないと鮎沢PAが利用できない構造になっています。もし「右ルート」を利用した場合は、「右ルート」「左ルート」が合流した先の足柄SAまで、約23kmにわたり休憩ポイントがなくなります。

 一方、名神の京都南IC〜高槻JCT間では、前出の通り上下線それぞれが右ルート/左ルートに分かれており、合計4ルートが並行する形になっています。こちらもルート選択が重要で、上下線とも「左ルート」を選択しないと、京滋バイパスおよび京都縦貫道への分岐となる大山崎JCT/ICが利用できません。特に京滋バイパスは、名神の交通渋滞が激しい際の迂回ルートにもなるため、ルートの2択を間違えると大きなタイムロスに繋がりかねません。

 その他、NEXCOが管轄している高速道路では、東名上り線の焼津IC〜静岡IC間、中央道下り線の上野原IC〜大月IC間で同様のルート分岐がありますが、どちらも一方のルートを選択しないと到達できない施設はありません。

右ルート/左ルートはなぜ生まれた? すべての区間に共通点

 ではなぜこのような右ルート./左ルートが生まれたのでしょうか。実は、先述の4区間には共通点があります。それはトンネルの存在です。

 もともと名神・東名・中央道とも交通量の多い区間で、さらに山間部で勾配や起伏が激しいために速度が低下してしまうなどの構造的な要因から、週末や大型連休の際には大渋滞が発生する区間として有名でした。しかしこれら区間には、東名なら都夫良野トンネルや日本坂トンネル、名神なら天王山トンネルなど、線内最長級のトンネルがあります。


名神で最長のトンネルとなる天王山トンネル(画像:のっぴー)。

 混雑を緩和させるために車線数の増加が検討されますが、道路を拡幅したくても、トンネルは容易に幅を広げることができません。そこで既存の道路の周辺に新しい道路を作るという策が取られたのです。もちろん現状の高速道路の車線数を増やすよりも建設費はかかるものの、工事中に既存の道路の交通を規制する必要が少なくすむため、かえってスムーズに建設ができるメリットもありました。

 1991(平成3)年、大井松田〜御殿場IC間で南側を通る新たな3車線道路が完成。上り線として供用開始します。一方で既存の道路は、中央分離帯で分かれた旧上下線を、どちらも下り線として使うことになりました。どちらも同じ方向へクルマが走る右ルート/左ルートにして、2車線から4車線へ実質的に拡幅となった、というわけです。

 では、上下線とも左右ルートに分かれる名神の場合はどうでしょうか。こちらは、天王山トンネルのほか、大阪寄りの梶原トンネルも、車線数を増やす目的で新たなトンネルを元の上下線に並行して掘りました。現在は、それぞれの山を4本のトンネルが並んで貫いていますが、このうち、「新たに作ったトンネル」の位置が、地理的条件から天王山と梶原でズレることになりました。

 天王山トンネルの場合、現在の下り線の左右ルートがもともとの上下線で、その北側にトンネルを2本平行して新設し、新たな上り線としました。一方、梶原トンネルは、真ん中の2本(上下線の右ルート)がもともとのルートで、その外側に1本ずつトンネルを新設し、交通容量を増やしたのです。

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 右ルート/左ルートの案内標識を見ると、それぞれが離れているようにも思えますが、実際にはつかず離れずの線形となっています。どちらのルートを選んでも、所要時間や距離の面で違いほとんどはありません。

 ただしまれに、片方のルートが事故や工事などで渋滞していて、もう片方は順調に流れている場合があります。その情報は、分岐の手前にある電光表示板で知らされるので、ルート選びの参考になります。

※一部修正しました(1月30日17時29分)。