この記事をまとめると

■ホンダは2021年3月12日に「S660の生産を2022年3月に終了する」と発表

■その後、2021年11月に「S660を数量限定で追加販売」すると発表した

■これによってファンからクレームは上がらないのかについて解説する

顧客の不満に応えたS660の追加生産が新たな不満を生んだ!?

 ホンダは2021年11月に「S660を数量限定で追加販売」すると発表した。追加生産されるのは650台で、一部の販売店で取り扱ったり、抽選で販売する。

 ホンダは2021年3月12日に「S660の生産を2022年(来年)3月に終了する」と発表している。一般的にクルマの納期は長くても半年程度だから(今は例外も多いが)、多くのユーザーは「2021年7月頃までに注文を入れれば購入できるだろう」と考えた。

 ところが実際には2021年3月末、つまり生産終了を発表した半月後には、2022年3月までの生産枠が埋まった。S660は生産規模が小さく、とくに2018〜2020年には、1カ月平均の届け出台数が240台前後まで減っていたからだ。この状況で生産終了が発表され、欲しいと思っていた人達が一斉に注文したから、2022年3月までの受注枠が短期間で埋まり急遽受注を中止した。

 ホンダの販売店では「2021年3月末に、生産枠が突然埋まって受注の終了が伝えられ、商談を途中で中止するケースも多かった」という。これでは顧客が怒るのも当然で、改めて追加生産をすることになった。

 追加生産を発表して、2021年3月に慌てて契約したユーザーが不満を感じることはないのか。販売店にこの点も尋ねた。「650台を追加生産する内の600台は、基本的に商談を途中で中止されたお客様に販売する。残りの50台は、ウェブサイトで申し込みを行い、抽選でお客様を決める。通常の販売を再開したわけではないから、急いで購入したお客様から不満が生じることはない」。

いまモデューロXの中古車価格は400万円を超える

 本来ならば2021年3月12日に生産終了を発表した時点で、2021年5月末日という具合に期限を決めて、通常の受注を続けるべきだった。期限までに契約した顧客には、仮に納期が伸びても必ず納車すれば、不満は生じない。「S660が欲しいのに買えない」という悲しい思いをさせることはなかった。

 この失敗を多少なりとも補うのが11月に公表された追加生産だが、受注を中止したのは3月末だから、追加を発表するまでの時間が長すぎた。さらに50台は抽選で購入できるユーザーを選ぶという、これまた失礼な売り方をしている。

 以上のような失敗により、S660の中古車価格は高騰した。αの新車価格は232万1000円だが、走行距離の短い中古車は、300万円以上のプレミアム価格で販売されている。モデューロXの新車価格は315万400円だが、中古車価格は400万円を軽く超える。S660は中古車市場まで混乱に陥れてしまった。

 最近のホンダは、S660に限らず生産と販売面が荒れている。ヴェゼルの納期はコロナ禍の影響でパーツが不足しているとはいえ、大半のグレードが約8カ月まで遅延した。PLaYはさらに納期が長く、今は受注を中断している。

 納期遅延の背景には、狭山工場の閉鎖に伴い、ヴェゼルの生産を鈴鹿製作所に移したことも影響を与えた。鈴鹿製作所ではN-BOXなどの軽自動車やフィットも生産しており、ヴェゼルまで加われば生産が過密になるからだ。

 また狭山工場の閉鎖により、売れ筋価格帯が350万円を超えるホンダ車ではもっとも多く売られるオデッセイの廃止も決まった。

 これらの問題とS660の混乱は、根底では繋がっている。商品自体はいずれも優れているが、生産と販売がまったく制御されていない。ホンダの内部からも「上層部はお客様のことを本気で考えていない」という批判が聞かれる。ホンダは販売店の声にしっかりと耳を傾け、顧客の満足度を高める必要がある。