身売り、遊女の悲哀…童謡「はないちもんめ」や「ずいずいずっころばし」に秘められた残酷な意味とは?

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有名なあの童謡の由来は…

童謡には悲しい・あるいは暗い由来を持つものがいろいろありますが、特に生々しく悲劇的に感じられるのは『はないちもんめ』でしょうか。皆さんはこの歌の由来はご存じですか?

地域によって歌詞には違いがありますが、大体このような内容です。

勝ってうれしい はないちもんめ
負けてくやしい はないちもんめ

となりのおばさんちょっと来ておくれ
鬼がいるから行かれない
お釜かぶってちょっと来ておくれ
釜がないから行かれない
布団かぶってちょっと来ておくれ
布団破れて行かれない

あの子がほしい
あの子じゃわからん
の子がほしい
この子じゃわからん
相談しよう そうしよう

この歌を歌ったことがない、あるいは歌いながら遊んだりしたことがないという人も、冒頭部分くらいは聞いたことがあるでしょう。

このわらべ歌の正体は「身売りの歌」です。「もんめ」とは重さの単位である「匁」のことで、花一匁程度の安値で少女が売られていることを表しています。

理由は貧困ゆえの口減らしのためです。「勝ってうれしい」は、買い手側が安く買い叩けて嬉しい、という意味。「負けてくやしい」は、自分の娘が高く売れなくて悔しい、という意味でしょう。そして「あの子がほしい」と来た日には、なんだかこの文章を書いているだけで重苦しい気分になってきます。

この童謡の本当の意味も…

ところで「身売り」あるいは「遊女」に関する事柄が由来とされるわらべ歌がもうひとつあります。『ずいずいずっころばし』です。

ずいずいずっころばし
ごまみそずい
茶壷におわれて
どっぴんしゃん
抜けたら どんどこしょ

俵のねずみが
米食って ちゅう
ちゅう ちゅう ちゅう

父(おっと)さんがよんでも
母(おっか)さんがよんでも
いきっこなしよ

井戸のまわりで
お茶碗かいたの だぁれ

リズミカルで、意味不明だけどユーモラスな歌詞ですね。これも多くの人が子供の頃に耳にしたことがあるでしょう。

参考資料『本当は怖い日本のしきたり』によると、これは遊女の悲哀を歌ったものだというのです。

かつて吉原遊郭に祀られていた五つの稲荷神社と遊郭に隣接する吉原弁財天を合祀した吉原神社

いわく「茶壷」は女性器です。ねずみ云々は、昔の遊女がねずみの鳴き真似をして男を誘っていたから。そして「父さんがよんでも母さんがよんでも」は、セックスの最中は親に呼ばれても戻らない、という意味だそうです。

最後の「お茶碗かいた」は、茶碗が欠けたということで、はかなく処女を散らせてしまったイメージですね。

私は子供の頃にこの歌で遊んだ記憶はないのですが、その遊び方というのは、複数人が人差し指と親指でいくつかの輪を作り、歌いながらその輪に指を次々と差し入れていくというものだそうです。

これは、何人もの男性客を相手にしないといけない遊女の性行為を表しているのだそうです。

これにとどまらず、もっと詳細に読み解いていくと、この歌が要するに「エロ歌」である証拠はいくつもあるようです。すべて挙げるとさすがに煩雑になるのでやめておきますが、試しに検索してみるとすぐ見つかりますよ。

「お茶壺道中」を歌ったものだった?

ただ、この歌がエロ歌であるというのはあくまでもひとつの解釈です。歌詞の由来については別の説も存在しています。江戸時代、京都の名産品・宇治茶を徳川将軍家に献上するために運ぶ行列について歌ったものだ、というものです。

江戸時代には、京都の名産品である「宇治茶」を徳川将軍家に献上するため、茶を詰めた茶壺を運ぶ行列が定期的に東海道や中山道を通っていました。これは1633年から幕末まで続いたそうです。

この「お茶壺道中」と呼ばれた一行は、大名行列と同じようにひどく威張っていました。街道筋の住民は土下座を強要され、もしも行列の前を横切ろうものなら手打ちは必至でした。

ですので、庶民は「茶壷が通ったら戸をぴしゃんと閉める」「父が呼んでも母が呼んでも外に出てはだめ」と戒められました。それが『ずいずいずっころばし』の歌詞なのだそうです。

これも、説明を聞くともっともな感じがしますね。ただこちらは「エロ歌説」と比べるとやや精密さに欠ける解釈で、歌詞の多くの部分の説明がつかないようです。

もちろん、どっちが本当なのかは分かりません。しかし仮に『ずいずいずっころばし』が遊女の歌なのだとすると、最初に挙げた『はないちもんめ』とは裏と表の関係にあると言えます。

明るくリズミカルな『ずいずいすっころばし』の裏には、人身売買と売春によって生きるしかなかった女性たちの悲哀と悲惨さが暗号のように表現されているのかも知れません。

参考資料
火田博文『本当は怖い日本のしきたり』(彩図社・2019年)