職務質問は拒否できる?

写真拡大

 京王線車内で10月末に起きた刺傷事件など、公共の場での凶行が相次いでいます。京王線事件の容疑者は刃物や大量のライター用オイルなどを持って移動していたとみられますが、こうした危険物を持っている場合、警察官から、「職務質問」を受けるケースもあるようです。

 事件などの際によく聞く「職務質問」とはそもそも、どのような法律に基づく行為で、どんな人が対象になるのでしょうか。また、拒否することはできるのでしょうか。白石綜合法律事務所の宮崎大輔弁護士に聞きました。

「異常な挙動」などから合理的に判断

Q.そもそも、職務質問とは、どのような法律に基づいて行われるのでしょうか。職務質問ができるのは、警察官だけなのでしょうか。

宮崎さん「警察官職務執行法2条1項には『警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者または既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる』と規定されています。これが職務質問の根拠規定になります。従って、職務質問ができるのは原則として、警察官に限られます。

条文にある対象者を大まかに説明すると、本人の挙動や周囲の状況などから、(1)犯罪をしたと疑われる人(2)犯罪をしようとしていると疑われる人(3)既に起きた犯罪について何か知っていると思われる人(4)今後起きそうな犯罪について何か知っていると思われる人――ということになります」

Q.「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断」と条文にありますが、具体的にはどのような人が想定されるのでしょうか。

宮崎さん「例えば、金融機関の前を何度も行き来している人や奇抜な格好をしている人は職務質問を受けやすいかもしれません。ただし、不審事由が認められるか否かはあくまで、警察官の主観なので、目が合っただけで質問される可能性もあります」

Q.職務質問では、どのようなことを聞かれるのでしょうか。また、荷物検査もあるのでしょうか。

宮崎さん「先述した通り、警察官職務執行法2条1項には『異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由』がある場合、質問できると規定されています。これはいわゆる、『不審事由』というもので、警察官はこの不審事由を中心に問いただします。

質問事項は行き先や用件、住所、氏名、年齢、職業から始まり、さらに所持品や不審事由の理由を問いただします。例えば、同じ場所を何度も行き来していた理由、奇抜な格好をしている理由などです。職務質問に伴って、荷物やポケットなどの中身を確認する所持品検査もよく行われます」

Q.何も答えずに立ち去るなど、職務質問を拒否することはできるのでしょうか。

宮崎さん「職務質問に対して回答することは任意なので、質問を拒否して立ち去ることはできます。ただし、質問を拒否したり、立ち去ろうとしたりすること自体が不審事由に該当しますので、前科(特に薬物関係)がある人は身体検査令状を請求されてしまう可能性があります。警察官は無線などで、対象者の前科を確認することがあります」

Q.京王線刺傷事件の容疑者が事件前に職務質問を受けていたとしたら、どのようになったでしょうか。

宮崎さん「職務質問や所持品検査によって、ナイフが発見され、銃刀法違反等で逮捕されていた可能性もあります。ただし、容疑者が職務質問や所持品検査を拒否した結果、前科などもない場合は令状請求が難しく、そのまま解放されていた可能性もあります」

Q.職務質問は「何となく怖いもの」というイメージもあります。どんな社会的意義があるのでしょうか。また、職務質問を受けないようにするには、どうすればよいのでしょうか。

宮崎さん「職務質問が行われることにより、『警察の目が常に私たちに向いている』というイメージを皆が持つことが犯罪の予防効果となる上、実際、職務質問によって、犯人が捕まることもありますので、治安維持のためになくてはならないものだと思います。もちろん、人権侵害の可能性もあるので、あくまで任意で行われることが前提です。

職務質問を受けないようにするには』との質問ですが、あまり奇抜な格好をせず、警察官の前でも堂々としていれば、まず、職務質問を受けることはないと思います」