何度逮捕されても盗撮を繰り返す人たちがいる。加害者臨床を専門とする精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは「盗撮をやめられない人の中には、撮った画像を見返さない人も多い。『捕まるかも』というスリルと、バレなかったときの安堵感が、再犯の呼び水になっている」という――。

※本稿は、斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/OLEKSANDR PEREPELYTSIA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/OLEKSANDR PEREPELYTSIA

盗撮と窃盗症には共通点が多い

かつて『万引き依存症』(イースト・プレス)を執筆しているとき、窃盗症と盗撮のメカニズムが極めて似ていることに気づきました。

窃盗症には女性が多く、盗撮加害者は男性ばかりなので、その性別こそ違いますが、人間の行動原理やメカニズムとして、問題行動に耽溺し依存するプロセスや特徴は非常に似通っています。また、いずれも犯罪行為ですし、被害者が存在します。盗撮の被害者は撮影された人(主に女性)ですし、万引きの被害者は商品を盗まれた店舗や、そこで働く従業員です。

まずは、アメリカ精神医学会が出している精神疾患の分類と診断の手引きである診断ガイドライン『DSM-5』における窃盗症の診断基準からA〜Cを明記します。

窃盗症の診断基準
A:個人用に用いるためでもなく、また金銭的価値のためでもなく、ものを盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
B:窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり。
C:窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感。

これらが、いかに盗撮行為との親和性が高いかを、順に見ていきましょう。

■盗んだそばからモノに興味を失う窃盗症のケース

共通点1:「盗撮のための盗撮」へと自己目的化

まずはじめに診断基準Aについて。ここでいう「個人用に用いる」とは、万引きをした食べ物を自分で食べたり、衣服を着用するようなことです。そして「金銭的価値のため」というのは、万引きしたものがそもそも自分の欲しいものであったり、フリマサイトで転売して利益を得るようなことを指します。そもそもすべての窃盗行為には、多かれ少なかれ「金銭的価値のため」という目的が含まれるという解釈もありますが、ここでは詳しいところまで論じません。また、この診断基準Aは、職業的窃盗犯や貧困による窃盗を除外するための基準であることをお断りしておきます。

自分で食べたり、転売するためではなく、それでも衝動的に万引きを繰り返してしまうことが、『DSM-5』では窃盗症と診断される一つの基準です。この盗んだものを使ったり、売ったりして自分のために使うことを「自己使用」といいます。

窃盗症の場合、最初はお金の節約のためや「みんながやっているから」という軽い気持ちから始めた万引きが常習化していきます。すると、なかには盗んだものを使わず、ただひたすら家にため込んだり、逆にすぐに捨ててしまう人も出てきます。歪んだ承認欲求から、他人に譲渡して感謝されようとする人もいます。自分が万引きして手に入れたものに対して、盗むそばから興味や関心がなくなり、自己使用をしなくなるケースもあります。

■撮るだけ撮って見ることなく削除する盗撮加害者

盗撮加害者にとっての「自己使用」とは、盗撮した画像や動画を用いたマスターベーションのことです。また「金銭的価値のため」とは、商業目的で転売をしたり、盗撮サイトに掲載して広告収入を得ることです。

もちろん初期の段階では、盗撮したものを性的に利用し、自分だけで楽しみたいという気持ちが動機になっている人が多くいます。

しかし、やがて盗撮して性的な快感を得られたという経験が積み重なることで、「駅構内で女性を見ると盗撮して快感を得たい欲求が生じる」という条件付けが定着し強化されていきます。そうなると、万引きしたものを自己使用しない窃盗症のように、盗撮したらそこで満足し、画像を撮るだけで見ることもなく削除をする人もいるのです。

盗撮のための盗撮」と表現した当事者がいます。当クリニックで治療を受けた盗撮加害者521人への調査で、「盗撮したデータの使用方法」について尋ねたところ(図表1)、「保存&自己使用なし」が16%、「保存なし&自己使用なし」が25%を占め、盗撮してもマスターベーションしない人はおよそ4割にのぼることがわかりました。

盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)より

この「盗撮のための盗撮」は、窃盗症との共通性を提示するだけでなく、行為依存としての盗撮を如実に表す言葉だといえます。

■「バレるかも」緊張からの安堵でストレス低減の感覚を得る

共通点2:緊張と緊張の緩和

ふたたび窃盗症の診断基準を見ていきましょう。

B:窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり。
C:窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感。

「盗みたい」という衝動により、盗みを行う前の段階では「バレないかな」といった緊張感を味わっています。そして成功したときには「うまくやった」「なんとかバレなかった」という解放感や満足感を得るといわれています。この万引きをする前の緊張の高まりと、万引きをしたあとの解放感や満足感、つまり「緊張と緊張の緩和」の流れによって一時的にストレスが和らいだり、低減されたような感覚を覚えるのです。

この特徴は、盗撮加害者にも当てはまります。

駅構内のエスカレーターで目の前にスカートをはいた女性がいるとしましょう。常習化した盗撮加害者は「盗撮したい」「いや、ダメだ」「でも盗撮したい」「周囲にバレたらどうしよう」などさまざまな思いが頭の中を駆け巡り、その際はとてつもない緊張の高まりを感じています。

しかしいざ無音アプリを立ち上げて、スカートの中をサッと盗撮すると、女性は何も気づかずに立ち去ります。その後、エスカレーターを降り、駅構内の人目につかないトイレの個室でスマホを開き、写真フォルダで先ほど盗撮した画像を目にした瞬間、「はぁ……バレなかった」「なんとか撮れた」という安堵感や達成感、解放感に包まれるのです。

■罪悪感は感じたのに再び渇望が湧き起こるのが依存症

これら一連の緊張感とそこからの緩和が起こる際、盗撮加害者の頭の中では、職場や家庭でのストレスが吹っ飛んだような感覚が訪れます。もちろんそれはあくまで一時的なものなので、その後に強い罪悪感や後悔を経験することも少なくありません。

この性的逸脱行動における一連の内的プロセスについては、イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズの名著『親密性の変容』(而立書房)に記述があります。

ギデンズは、依存症を生理的現象というよりも社会的心理的現象としてとらえ、「アディクション(嗜癖)とは、不器用で衝動的な過去の反復である」と述べており、その特徴として1行為中の高揚感、2自己喪失、3生活時間の一時停止、4行為後の後悔、5禁断症状(行為再開への渇望)、という5つのプロセスを挙げています。

盗撮しようかな」「でも見つかったらどうしよう」というハラハラドキドキした感覚、無我夢中で盗撮した後の達成感やバレなかったことへの安堵感。しかしその後、すぐに「ああ、またやってしまった」と後悔が襲います。すると「もう絶対にやらない」と決めたものの、舌の根も乾かぬうちに「ああ、また盗撮したい」と渇望が湧いてくる……というわけです。

ギデンズは、精神医学や心理学の専門家ではなく社会学者ですが、これは非常に依存症の本質を突いていると思います。

■条件付けの回路ができあがるとドーパミンの分泌が定型化する

共通点3:スリルを求めゲーム化していく

窃盗症と盗撮加害者、彼らにとって欠かせないのがスリルです。より強いスリルと刺激を求めてエスカレートしていくことも共通しています。

ここで理解の一助となるのが、脳から分泌される「ドーパミン」です。

例えば盗撮加害者が、エスカレーターで目の前にいる女性のスカートの中を、スマホを使って盗撮していたとします。このような依存行為をするとき、人間の脳の報酬系と呼ばれる部位では、側坐核という部位が活性化され、ドーパミンという神経伝達物質が大量に分泌されています。そしてこれは、どの依存症にも共通していえることです。

ここで、もう少し専門的に「性的嗜癖行動」の形成プロセスについて見ていこうと思います。ドイツの精神病理学者ヴィクトル・ゲープザッテルは、性的倒錯の病理を嗜癖性の病理であるとしています。また精神科医の故・小田晋氏も、その嗜癖性について生化学的視点から以下のように述べています。

強迫的性行動は、脳視床下部にある性ホルモン中枢、性行動中枢と視床下部・扁桃核にある攻撃中枢が同時に興奮し、その興奮が極点に達すると極めて強い快感を感じ、それが反復化し嗜癖化するものと考えられています。この際、A10神経を通じての麻薬類似物質(β-エンドルフィン)と覚醒剤類似物質(ドーパミン)の同時大量分泌が起き、これが嗜癖化の下部構造になると考えられます。
(小田晋「依存精神病理学の展開と異常性愛」アディクションと家族(2)、2005)

さらに精神科医の斎藤学氏は、テストステロンとセロトニンの関係から、その嗜癖性を以下のように述べています。

テストステロンは男性の攻撃性・積極性を推進している代表的なアンドロゲン(男性ホルモン)であり、主に男性の睾丸から分泌されています。女性の卵巣からも少量であるが分泌されており、また男女ともに副腎からの分泌もあります。男性は女性に比べ20〜40倍のテストステロン濃度があり、これが男女の性衝動に見られる違いの主因と考えられています。このテストステロンが男性の性的嗜好、関心、動機、行動などを支配しているのですが、テストステロンが支配するのはあくまでも性衝動であって、性交そのものではありません。テストステロンは性的自慰を促進しますが、それが必ずしも性交には結びつかないのが特徴です。
(斎藤学『男の勘ちがい』毎日新聞社、2004)

■セロトニン濃度が高いと性行動は抑制される

テストステロンの影響が圧倒的とはいえ、ヒトの性衝動を決定する物質には、ほかにもバソプレシン、DHEA(dehydroepiandrosterone)、LHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)、セロトニン、ドーパミンなどさまざまあり、脳の男性化とヒトの男性性を調節します。テストステロンが減少するとLHRHがLH(黄体形成ホルモン)を放出させ、それが睾丸を刺激してテストステロンが増産されます。この値が十分に高くなると、LHRHからLHの経路をストップしろという指令を受け、テストステロンの増産が止まります。

これらに加え、セロトニンは性衝動を制御する働きがあります。セロトニン濃度が高いと性行動は抑制され、低いと攻撃性や性行動が生じやすくなります。抗うつ剤として知られる「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)」は、脳のシナプス内のセロトニン濃度を上昇させることでリラックス状態を生み出しますが、同時に男女の性欲とオーガズムを抑制することも知られています。女性でもセロトニン値が低下すると、男性に見られるような性的倒錯を起こすといわれています。例えばセロトニンを減少させる物質であるアンフェタミン(覚醒剤)を乱用している女性は、マスターベーションや売春などに走りやすくなり、サディスティック/マゾヒスティック幻想に支配されやすくなります。

■「逮捕こそが最大のエクスタシー」と語る人もいる

そして、ドーパミンは性行為に伴い快感を増し、性行為で動機付けを高めます。ドーパミンには快楽惹起作用があるため、これを高める化学物質は乱用の対象となります。前述のアンフェタミンは代表的なドーパミン分泌刺激物質です。テストステロンによる性衝動・攻撃衝動が満たされれば、これもまたドーパミンの分泌を刺激して嗜癖化します。

このドーパミンが分泌されるのは、問題行動が周囲にバレずにうまくいったときばかりではありません。たとえバレても示談で済んだり、不起訴になった、罰金刑で済んだ、という「罪の軽さ」そのものが本人にとっては成功体験となるのです。これは窃盗症にも盗撮加害者にも共通した心理です。

問題行動を繰り返すたびに罪悪感や恥の感情、恐怖心を味わうわけですが、それらがスリルと刺激になっていきます。なかには、「逮捕されたらゲームオーバー」と語る盗撮加害者もいました。盗撮によって逮捕されないかという瀬戸際のスリルを味わうゲーム性にハマる人もいますし、極端な例では、「私にとって逮捕が最大のエクスタシー」という人すらいました。共感はできませんが、ちょっとやそっとの刺激では興奮しなくなり、罪悪感や後悔も薄れていくことは伝わると思います。

写真=iStock.com/SergeyChayko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SergeyChayko

これは盗撮に限らず、多くの依存症者は、「やめようと思えばいつでもやめられる」と口にします。しかしそれは嗜癖行動が定着するごく初期段階に限ったことです。より強い刺激とスリルを求めて問題行動がゲーム化していくと、簡単には後戻りできないのです。

■万引きした食品をカビても腐ってもためこんでいた女性

共通点4:枯渇恐怖とため込み

盗撮で自己使用せず「盗撮のための盗撮」に移行していくタイプの人のなかには、画像を見返すことなくため込むタイプの人もいます。この行為も、窃盗症に通じるものがあります。これはかつて私が関わった窃盗症の女性の話なのですが、彼女は過食嘔吐をするために食料品を万引きすることが常習化していました。彼女は万引きして手に入れた食料品を、冷蔵庫ではなく自室に置いていたのです。当然、夏場は腐ったり、カビが生えたりすることもありますが、それでもなお自室にため込み、過食嘔吐を繰り返していたというのです。

このように、ものをため込みたい、ストックがないと不安になることを「枯渇恐怖」といいます。そしてため込む行為を精神医学では「強迫的ホーディング(compulsive hoarding)」や「ため込み」と呼びます。ため込みの対象は、実際の価値にかかわらず、新聞や雑誌、古い洋服、かばん、本、郵便物、書類などのほか、電子媒体も含まれ、いかなるものでも対象となり得ます。いわゆる収集家(コレクター)とは異なり、整理した状態でため込むのではありません。

■3.63テラバイトの盗撮動画をためこんでいた男

もちろんため込みを行っているからといって、まったく自己使用しないわけではありません。この女性のように一部は自己使用しているケースもありますし、ため込むこと自体が目的化している場合もあります。

斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)

依存症でなくとも、自分のクローゼットに洋服がいっぱい入っていないとなんだか不安、という人がいるかもしれません。そういう人にとってクローゼットは、自分の心の表れにもなっています。

そしてこの枯渇恐怖は、盗撮加害者にも見られます。彼らにとってスマホのフォルダの中身と心の様子は一致しています。

2020年10月、有名大学医学部の医師が、看護師や女子高生の盗撮動画を15年間かけて3.63テラバイトも撮りためていた事件がありました。1テラバイトは、20万枚以上の画像が保存できる容量ですから、これは相当の量です。

撮ったらそれで満足してデータを消去してしまう人がいる一方で、枯渇恐怖の人はデータを消去されることに過敏に反応します。消されてしまうと心のバランスが取れなくなってしまい、それ自体が次の盗撮行為への渇望につながってしまうからです。

----------
斉藤 章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士
大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模と言われる依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、長年にわたってアルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で、現在までに2000人以上の性犯罪者の治療に関わる。主な著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『「小児性愛」という病 それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太・作、集英社)がある。
----------

(精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤 章佳)