本企画はスポーツの力を活用して社会貢献活動を推進する日本財団のプロジェクト「HEROs」と共同で実施している特集企画です。

HEROsではアスリートに対して活動支援(資金提供)も行っています。詳細はHEROsのHPで!

社会貢献活動に挑戦しているのは、プロアスリートだけではありません。

社会貢献活動に積極的に取り組む3部活、上智大学体育会サッカー部・九州国際大学サッカー部・慶應義塾大学体育会野球部。それぞれどのような思いから活動を始めたのでしょうか。また競技外での活動を通じて、感じたことや学んだことは何なのでしょうか。

3校の事例を通じて、アマチュアスポーツチームが競技外での活動を行なう意義について紐解いていきます。

 

ピッチ外での活動から、大学サッカーを知ってもらいたい(上智大サッカー部)

上智大学体育会サッカー部は、大学の他体育会とともに集団献血を実施しています。運営を主に担当しているのは、チーム内の企画課ボランティア部門。「ボランティア部の部員が『コロナ禍で献血をしてくれる人が減っている』というニュースについて教えてくれて、部として何かできないかと考え始めたのが発端でした」取組の中心にいる学生トレーナーの田崎隼太郎さんが経緯を話します。

学内の体育会と合同で、集団献血を実施

 

上智にはプロの指導者がおらず、学生主体でチームを運営。サッカーの指導や戦術考案も学生監督や最上級生が行なっており、今回の活動も学生から動いています。

ボランティア部門は昨年立ち上げられ、6人で活動中です。上智大学体育会は共通認識として“競技外での活動を積極的に行なう”ことを掲げており、その一環で立ち上げられました。

 

献血活動のほかに、サッカークリニックも運営している

 

まずは、部員が池袋駅前の献血カーに出向きSNSで発信するところから始めることに。そして、上智大体育会本部がその投稿を発見し「体育会として集団献血を開催しよう」という話になったと言います。

「これまでも、『オフザピッチでも何か活動をしたい』とはずっと考えていました。ただずっと実現していなくて。ひとつ形として実施できたことで、選手一人ひとりが大学部活の社会的な存在意義について考える機会を作れたと思っています。実際その後他のSDGsプロジェクトがスタートしたり、サッカークリニックの実施にも繋がっています」

 

これからも集団献血の活動は続けていく予定。コロナ禍で現状はあまり動けていないが、近くの商店街を活性化する地域貢献の取り組みも考えていると、田崎さんは話してくれました。

「大学サッカーはまだまだ注目が少なく、魅力を知っていただく機会があまりないと感じています。勝つことで勇気を与えるといった社会的価値はもちろんあると思いますが、注目されていないからこそ、ピッチ外の活動へ力を入れるべきなのかなと。社会でより知られることで、大学サッカーファンが増えていけば良いなと思います」

他者との関わりの中にサッカーがある(九州国際大サッカー部)

九州国際大学サッカー部では、サッカー大会の企画・運営、会場提供、オリジナルエコバッグの作成、定期清掃活動など部としてさまざまなSDGsの活動に取り組んでいます。

SDGsに取り組むきっかけを作ったのは、チームを率いる籾井徹司監督の一声でした。取り組もうと思ったのは、「海外の環境問題について知る機会があり、日本との差を思い知ったこと」だと言います。そこからSDGsについての記事を読んだり、講習に参加したり理解を深めていったそうです。「サッカーだけに取り組むのではなく、SDGsは学生にとって社会に出ても活きる経験になるな、と」

 

「新人戦全国大会に負けた日の夜、『来シーズンはSDGsに取り組もうと思っている』と学生やスタッフに伝えました。そもそもSDGsとは何か誰も知らないかと思っていましたが、知っている生徒もいて驚きました(笑)」

当初は監督自ら企画して進めていく予定でしたが、“やらされている”活動になることを懸念。「学生たちに考えてもらって、身近なところで自分たちができることは何か考えてもらいました」

具体的にはグループワークと企画案出しを実施。選手から上がってきた案には、指導陣が思いつかないようなものもあったと話します。

 

清掃活動はSDGsの取り組みの中でも大きなプロジェクトになっています。もともと2019年より、公式戦翌日のアクティブリカバリーと位置付けゴミ拾いを継続的に行なっていました。学内のゼミがJICAと連携して清掃活動を行うということで、一緒に取り組むことになったとのことです。

地域での活動の様子

 

ゴミ拾い中に地域の方から声をかけていただき、試合に来ていただいた方も。実際に外部の方と関わることで、学生たち自身に「周囲から見られている」意識が芽生えました。

「他者と関わる中でサッカーがあるのだ、と。チームのために頑張る選手が増えましたね。諦めずにボールを追いかけたり、きつい時こそ声をかけたりとチームを意識した言動が見られるようになりました」競技外での活動が、サッカーでのチーム力向上にも繋がっていることを、籾井監督も実感しています。

地元新聞でも活動が取り上げられた

 

SDGsに取り組む姿勢として、学生たちが固執してしまわないよう理想像は持たないようにしていると言います。「地域貢献している」という事実に満足しないよう、活動が必要な理由を考えていきたい、と。そういうことを考えられる人材が強くなっていくんだと、強調します。

「自分の思いをどう社会に還元していくのか。学生には、スポーツという一種のコミュニケーションツールを通じてスポーツ以外のことも考えられるようになって欲しいです」(籾井監督)SDGsの活動を通じて新たなスポーツの付加価値を生み出そうと、九州国際大学はこれからも活動を続けていきます。

 

地域から愛されるチームへ(慶應義塾大野球部)

慶應義塾体育会野球部では、特定非営利法人Being ALIVE Japanと連携し長期治療中の子どもたちを受け入れ療養生活をサポートする事業「TEAMMATES」に2018年より取り組んでいます。

当時の指導陣がたまたまBeing ALIVE Japanの方と知り合い、取り組みについて紹介を受けたことがきっかけです。「大学スポーツではまだ前例がなく、やってみたいと。ちょうど部としても、野球以外の活動もやっていきたいと考えていたところだったので始めました」伊豆野万琴さん(マネージャー・4年)は話します。

 

指揮を取る堀井哲也監督は、「地域の中で活動しているんだから、地域から応援されるチームになろう」と日頃から選手に指導をしています。挨拶や地域清掃など細かいところにも力を入れて取り組んでいるのが、慶應義塾野球部の特徴のひとつです。

 

現在受け入れている子は4人目。約1年間、週に1回練習に参加し正式な部員として活動しています。選手たちと一緒にキャッチボールやバッティング練習に取り組みます。試合のパンフレットにも、名前とポジションを書いています。1年間の活動の締めくくりは、秋に行なわれる早慶戦での始球式への参加です。

2019年11月2日、早慶戦で始球式を務めた田村勇志くん

部員とともに練習をする國久想仁くん(現TEAMMATES)

 

綿引達也さん(内野手/4年)は、「僕は3年生になるタイミングでプロジェクトメンバーになりました。『野球を教えてあげたい』と思って子どもたちに関わり始めたのですが、逆に教わることもたくさんあって。ひとつ挙げるとするなら、野球の楽しさに改めて気付かされたこと。練習がきついこともありますが、幼少期に野球を好きで始めた頃の気持ちを思い出させてくれますね」

 

SNSを通じて、活動の様子や早慶戦での始球式を配信しています。「良い取り組みですね」「学生だからこそ、距離感近く子どもたちと接していますよね」などと、良い反響は大きいと言います。伊豆野さんは「慶應野球部は野球だけではないと、伝えられているかなと。この活動を通じて部を知ってくださる方もいて、応援してくださる方々の幅が広がりました。」

 

綿引さんは、慶應野球部が客観的にどういう存在かもしっかり見据えていました。「慶應義塾大学は大学としても注目を浴びる存在。同時に、日本の大学野球界を引っ張っていくような存在でもありたいと思っています。日本で野球が広まったのも、早慶戦がひとつ大きなきっかけでした。常に見られている意識を持って、大学野球界で存在感を発揮していきたいです。」

学生だからこそ、届けられる価値があると言います。「今回の取り組みで、学生と子どもたちとの交流を見て笑顔になってくれる方々が一人でも多くいれば、社会的価値があると思っています。私たちも、SNSを通じてたくさん応援をいただいていて勇気づけられています。その応援に応えられるような取り組みをこれからも続けていきたいです」と綿引さん。今後の活動にも注目です。

2020年秋、オープン戦のベンチに入った石岡直歩くん

 

社会の一員として、アスリートが持つ力

3部活の事例から、競技外での活動が選手たちの成長に繋がっていることがわかります。社会との関わりを持つことで、ただスポーツに打ち込むのではなく、「なぜ」自分が競技に取り組んでいるのかを考えるようになります。ここに、個々が競技内外で強くなるきっかけがあります。

見ている方々に勇気や希望を与えるなど社会的な価値が大きいのがスポーツです。だからこそ、彼らアスリートが発信できるメッセージも多くあります。今後「社会の中での自分」という立場を意識し活動する学生がさらに増え、多くの団体が積極的にこういった活動に励む未来がくることで、社会におけるスポーツの価値が高まることは間違いないでしょう。