<img src="https://marketingnative.jp/wp/wp-content/uploads/2021/08/ceo13_pctop.jpg" />

写真拡大 (全6枚)

大企業に感じた強さと優しさ。従業員は「社畜」とは大違い

――取締役上席常務執行役員兼CMOを務めていたトランスコスモスを6月下旬に退社されたとのこと。何があったのですか。

トランスコスモスは社会に本当に必要な会社で業績も絶好調、オーナーの奥田(耕己)ファウンダー、奥田(昌孝)社長ともに私に対して全幅の信頼を置いてくださり、贅沢な話で何の不満もなくて…無い物ねだりですかね(笑)。私の持っている能力や適性を最大限に活かして、もっとサプライズを感じるイノベーションを起こすには、固定観念や忖度のない個人としての活動を強化し、やりたいこと全てに挑戦できる環境がベストであると考えました。今後はアーティスト活動だけでなくビジネス全般においても、「佐藤俊介」ではなく「CEOセオ」という名前で活動していこうと思っています。

トランスコスモスは本当に素晴らしい会社でした。在職中に学んだことはたくさんありますし、私自身も会社の対外的なイメージ向上や収益性の改善などさまざまな点で少しは貢献できたと思います。今も感謝の気持ちでいっぱいですね。

――例えばどんなことを学びましたか。

トランスコスモスに限らず、大企業は基本的に「仕組み」で商売をしており、多くの人員を抱えることができる環境、そして一従業員の能力に依存しない層の厚さが強みです。一方、スタートアップにはそんな強みはほとんどないですから、「できる人と仕事をする」という文化で、極端な話、仕事ができない人は切り捨て、できる人だけ残ってくれ、という発想になりがちです。私はずっとスタートアップの世界で生きてきましたので、あまりバリューを発揮できていない人でも、どこかに活躍できる居場所や役割があるはずだと考える大企業の強さと優しさを同時に感じました。

トランスコスモスはとても従業員に優しい会社です。実は私が入社したとき、経営陣に「もっと筋肉質な組織にして生産性を上げましょう」という話をしたのですが、「今の組織の在り方で売り上げを上げよう」と提案されました。

よく大企業のビジネスパーソンのことを「社畜」と揶揄する人がいますが、やめたほうがいいですね。社畜どころか、毎月給料をもらえるだけでなく、福利厚生もあり、そもそも辞めたければすぐに辞められるわけですから働く側は文句を言うより感謝ありきで発言したほうがいいと思います。

――個人の能力や適性を活かす方向に進もうと考えた背景をもう少し詳しく教えてください。

大企業とスタートアップではカルチャーが大きく異なります。組織内で求められることは「改善」が中心で、100を130に、1000を1200にする「getting better(より良くする) 」を目指すのが基本です。一方、立ち上がりのスタートアップはイノベーション活動が主軸で、これまでありそうでなかった製品やサービスを作る、あるいは桁違いの展開を示したり、「cannot」を「can」にしたりすることを目指します。そう考えると、自分の強みをより発揮しやすいのはやはりゼロイチのスタートアップかな、と思ったのです。

これも極論ですが、大企業では1兆円の売り上げが2兆円になっても、従業員の給料が倍になるわけでもないですし、画期的なイノベーションが誕生するケースも思ったほど多くはありません。雇用は増やせるかもしれませんが、もちろん株式会社ですし当然正しいこととはいえ、「資本家との向き合い」が全てです。つまり金持ちをより金持ちにするためにどうするのかという、より格差を生み出すエコシステムでもあります。

個々の従業員についても同様です。仕組み化が進んでいますから、厳しい言い方をすると、大企業では良くも悪くも「あなた」である必要がないのです。私が辞めても売り上げが変わるわけではないですし、社長が辞めても変わらないと思います。例えば、柳井正さんや三木谷浩史さんがファーストリテイリングや楽天のトップの座から退いても一時的に株価に影響はするかもしれませんが、すぐに回復すると思うのです。実際ZOZOTOWNはあれだけワンマンで影響力を持ったオーナーである前澤友作さんが辞めてからも株価は倍以上になっていますよね。たとえ創業社長で圧倒的なトップであっても、会社が傾くことがないように日頃から仕組みを強化しているわけです。その半面、突出した個性の育成に課題が生じるのは、仕組み化の一側面として仕方ないことだと思います。

一方、スタートアップでは個性を十二分に発揮して働いてもらわないと困るわけで、「あなた」である必要があります。これまでは大きな会社にするためには仕組み化が必要なので「属人化を排除すべき」と言われてきましたが、「個の時代」を迎えた今、そもそも大きな会社にする必要すらなかったり、属人的なほうがむしろユニークな個を作りやすかったりする気がします。そういう時代の流れも踏まえて、これからはビジネスの顔だけでなくアーティストの顔を持つユニークな個であるCEOセオを前面に打ち出して活動するほうがシンプルで理に適っていると考えました。

オンリーワンの「個」として、自分にしかできないことを追求する

――あれ!?でも、昨年4月に公開した記事では「個の時代というけど、1兆円稼ぐ個人はいないのではないか。大企業ならゴロゴロ存在する」として、大企業を前にしたら個人ができることなんて霞んでしまうと言っていましたよね。

それは率直に言うと、大企業側にいる際のポジショントークです(笑)。大企業は別に悪でも魔王でもなくて、大きな数字を生み出すポジションから見れば定量的な物差しで比較するのは当然なんですよね。「1兆円稼ぐ個人はいない」という発言は嘘ではなく事実なのですが、個のポジションから見れば1兆円も稼ぐ必要ってそもそもないんですよ。それよりも、組織では辿り着けない体験を創っていくほうがユニークで人を引きつけられるのではないかと考えています。ユニークな大企業って少ないんです。でもユニークな個は本当にたくさんいるので、その可能性に注目しています。

――今もトランスコスモスの大株主ですよね。

そうです。ただ、株についても大企業とスタートアップでは考え方が違いますね。大企業は社長でも株を持っていない会社はたくさんありますが、スタートアップは創業者が大株主で会社を支配しているケースが多い。株式会社なのだから本来はそのはずですが、大企業は株以上に序列や勤続年数のほうが重要かもしれませんね(笑)。でもそれはやはり会社のポジションによって変わってくるものなんだと思います。スタートアップだけでは経験できなかったことをたくさん学ぶことができました。

――なるほど(笑)。これから具体的に何をするのですか。

会社経営やアーティスト活動だけでなく、将来の可能性があるジャンルにはどんどん手を広げていきたいと思います。もう「大企業」「スタートアップ」「アーティスト」というくくりでは考えていないですね。したがって今後、大企業で再びビジネスをすることがあっても、それは自分にしかできないと思うから行うのであって、全てのテーマがオンリーワンの「個」の活動という認識です。

会社経営については、2010年に立ち上げたブランドビジネス「satisfaction guaranteed(sg)」(サティスファクション・ギャランティード)の第2章という形で、このほど株式会社CEORY(セオリー)を設立しました。sgでやり残したブランドビジネスを大幅にアップデートさせてCEORYで取り組みます。sgはある種D2Cの走りで、デジタル上におけるブランド作りに挑戦していたのですが、残念ながら道半ばで中断しています。

しかし、現在は当時と異なり、FacebookやTwitterだけでなく、Instagram、YouTube、TikTok、さらに音声メディアなどスマホの発展に伴って情報を伝える手段が増え、デジタルでブランドが作りやすくなりました。D2Cブランドが注目されているのも多様なSNSの登場やスマホの進化が背景にあります。

Netflixがアパレルや雑貨を販売するECサイトを立ち上げたり、アーティストでもラッパーのトラヴィス・スコットが大手スニーカーブランドとコラボしたり、カイリー・ジェンナーら有名なセレブが自分のコスメブランドを持ったりしています。デジタルをフル活用し、アーティストやメディアが独自のブランドを持つことは、DX化された新規事業を生み出すことと同義です。これからさまざまな個や企業がSNSを活用してブランドを持つ時代が加速していくと考えています。私もブランド作りの知見を活かして、そうしたブランドトランスフォーメーションをCEORYで支援していきたいと思います。

何も頼れない時代だからこそ、自分が頼れる人に

――今さらなのですが、そもそもなぜ「CEOセオ」を名乗ろうと思ったのですか。

これからはとにかく個としての輪郭を強める戦略が重要だと考えたからです。すでにその傾向はありますが、所属なんて大した意味をなさなくなる時代がそのうち来ます。トランスコスモス在職中も、誰も私のことを「トランスコスモスの佐藤」とは思っていなかったんですよね。それは私がこれまで起業家一筋の人生で、個としての活動が中心だったからだと思います。あと佐藤って日本に200万人もいる日本一の名字なんですよ。先ほどとは違う意味にはなりますが、佐藤だと所属を付けないと誰なのか認識してもらえない。絶対に「どこの佐藤?」ってなる。それでは不利なんです(笑)

――ではこれからは佐藤俊介ではなく、全部「シーイーオー・セオ」でいく、と。

もともとはCEOと書いて「セオ」と読むのですが、みんな「シーイーオー」と読むので、後ろにわかりやすくカタカナで「セオ」と付けています。「CEOセオ」で「セオ」と読んでください。実は海外向けにもカタカナが付いていたほうが良いかな、とか思ったりしています。

――わかりました。ただ、一般の会社員や公務員にはなかなか想像できない世界ですね。

いや、そんなことはないですよ。名前を覚えられたほうが有利な営業担当者やクリエイターこそユニークな名前を作ったほうがいいと思います。実際にクリエイターでは結構いますよね。これは単にテクニックであって、あとは恥じらいをクリアできるかどうかの話なので難しいことではないですよ。

――若い世代の中にCEOセオさんに共感したり、憧れたりしている人が多いと感じます。とはいえ、そういう人の多くは学生だったり、企業や団体に勤めていたりして、なかなか「私は今日からCEOセオだ」「個の時代だ」と言って生きていくのは難しいと思います。別名とも個の時代とも縁が薄いけど、CEOセオさんには憧れるという人たちに何かアドバイスはありますか。

これからは何かに頼ったり、誰かを信じたりする考え方はもうやめたほうがいいですね。情報をフェアに収集し自分の軸を持つこと。例えばの話ですが、2年前に「海外から新型ウイルスがやってきて、日本人は軽症が多いけど世界中で蔓延してパニックになり、どこの国でもみんながマスクをするようになる」「緊急事態宣言が出て、飲食店が夜8時で閉店して飲酒ができなくなり、海外旅行だけでなくお店に入るにもワクチンパスポートが必要になる」なんて言ったら、SFの見過ぎとか、陰謀論に染まりすぎだと嘲笑されていたでしょう(笑)。ところが、それが現実に起きている、もしくは今にも起こりそうになっているわけです。それくらい何が起きても不思議ではない、難しい時代に突入したと感じます。全く先の読めない時代になったからこそ自分に軸をしっかり持たないといけないし、メディアやネットの意見を鵜呑みにするのではなく、ファクトから自分の意思や考えを導き出して生きていくべきです。

そう考えれば組織の中にいても、その他大勢ではなく「あなた」であるべきだし、自分にしかできないことをして、必要とされる個になることを意識すべきです。そこまで踏み込んでほしいですね。

――企業の中で個として目立つ活動をするのはなかなか難しい面もあると思います。

それも固定観念で、一歩を踏み出さない言い訳をしているだけだと思います。結局、行動すれば変えられますし、世の中も組織もこれから変わってくるはず。それに、自分が新しいアウトプットをしても、ほとんどの人は気にしていないものです。自意識過剰に考える必要はそんなになくて、法律や就業規則に違反していなければ処分されることもないでしょう。「なぜそんなことをしたのですか」と聞かれたら、それだけ個としての認知が上がったと捉えていいと思います。でも倫理に外れていたり、人に迷惑を掛けたりするようなことはもちろんダメですよ。


CEOセオさんがアーティスト活動の一環としてリリースした楽曲『風』

比較すべきは所属ではなく、行動の数

――中には「個の時代なんて甘い」と言う人もいそうです。

もちろん、「企業にいるからダメ、個人だからいい」という単純な話ではありません。大企業にもスタートアップにも良いところもあれば不安もあるし、それは個人で活動している人も同じです。「今の会社にいても5年後、10年後の自分が想像できない」と言う人がいますが、人気YouTuberも「5年後に自分はどうなっているだろうか」と悩んでいると思いますよ。

だから所属ではなく、行動の数で比較すべきです。所属を問わず、成功している人の多くは行動量が豊富です。どこにいても不安がなくなるわけではないのですから、たくさん行動して自分を成長させていくしかないと思います。

――組織の中にいようが、独立していようが、個人としての輪郭を強めて行動量を増やさないと不安なんか消えないよ、と…。

そうですね。ただ、行動する際に毎日頑張っても自分に何も色がつかない働き方と、色がつくキャリアの積み上げ方ならどちらがいいかと聞かれたら、私は色がついたほうがいいという考え方です。一生懸命に10年間働いても、会社名や役職名がないと自分を語れない人にはならないほうがいいと思います。10年たっても会社名を言わないと生けていけないのは、個人としてのアウトプットを繰り返して自分に色をつける活動をしてこなかったからです。厳しい言い方をすると、会社の顔で10年間、生きてきたわけです。それは今の時代にはリスクではないですか。

今、芸能事務所を辞めるタレントが増えていますが、所属事務所を離れても食べていける人と、そうでない人は何が違うのかというと、その人の個性が発揮されて、その人でなければならない仕事をしていたかどうかではないでしょうか。それはビジネスパーソンも同じ。企業の中にも、組織を出たときにすぐ食べていける人と、そうでない人がいるとしたら、どちらになりたいかといったら組織を離れても食べていける人を目指したほうが良いですよね。そういう存在を目指して行動することが不安を取り除く最大のポイントだと思います。

日本の優れたサービスで世界を目指す

――わかりました。では、今後の方向性に関連して、これからの日本の社会や景気についての予測を教えてください。なかなかコロナが収束する気配が見えない中で、注目していることはありますか。

私は2011年から2019年まで約8年間、シンガポールに住んでいたので余計に感じるのだと思いますが、日本は本当にいい国で、自然が豊かで資源も豊富ですし、治安が良く、住環境も整い、食事も美味しい。さらに日本人は日本語という言葉の壁にも守られています。また日本の経済情勢を見ても、世界から軽視される可能性はまだまだ低くて、日本はこれからも十分伸びていくチャンスはあると思います。海外のさまざまな国へ出ていく日本人は多いですが、こんなに差別化されてポジションの良い母国もなかなかないですよ。

――日本はこのまま衰退していくような話をよく見るのですが、違う考え方なのですね。

北は北海道から南は沖縄までこれだけ暮らしやすい条件が整っている国はそんなにないと思います。だから日本という国の良さを活かす方向性を思考するべきで、私は日本のサービスを世界に持っていくビジネスが重要だと考えています。

日本人が世界に渡り挑戦することはグローバル展開の王道に思われるかもしれないけど、それより日本のサービス・モデルで世界のマーケットを取りにいくほうがいいと思います。つまりアメリカの企業が国内だけでなく世界標準で使用される製品やサービスを作っているのと同じ考え方です。

――クールジャパンみたいな感じですか。ほかに世界標準になれる日本のサービスで、注目しているのは何ですか。

クールジャパンは仕組み的に今ひとつだったかもしれませんが、世界で使ってもらえるサービスを作るという点では、クールジャパンが投資してきたアニメや食はコンテンツとして良いと思います。

あとは視点を変えると介護は良いですね。高齢化が世界で最も進んでいる国ですから、日本で良いモデルが作れたら世界中で利用してくれるでしょう。そういうふうに日本が進んでいる製品やサービスを世界に広げていくのが良いと思います。ほかには堀江貴文さんが言うように、ロケットのような日本の地政学的なメリットを活かす展開も良さそうです。

――「世界に学べ」という考え方は古いのですかね。

古いというか戦い方の問題で、海外のカルチャーやエコシステムのフィールドで戦っても相手の罠にはまるだけで勝てないでしょう。それよりも例えば、日本のおもてなしを意識した老人ホームのビジネスモデルを世界に輸出したほうがうまくいくかもしれません。

逆に「GAFAのような世界で使えるプラットフォームを作ろう」という考え方はやめたほうがいいと思いますね。また、フランスのようなブランドワインを環境も作り手もカルチャーも異なる日本で作ることは求められていないと思います。やるなら日本酒でしょう。役割分担があるわけですから、無理に欧米のカルチャーに影響される必要もないし、世界に学ぼうという発想だけにこだわっていると、いつまでたっても勝てない気がします。日本にも優れたところはたくさんあるのですから、そこを活かすべきです。

――日本の製品やサービスが世界でそんなに受け入れられますか。

全然受け入れられると思いますし、受け入れられるカルチャー作りという点でマーケティングは重要になると思います。彼らは大谷翔平の二刀流もしっかり受け入れてくれています(笑)。しっかりした結果を出せる優れた製品やサービスなら大いに人気になると思いますよ。

――本日はありがとうございました。

Profile
CEOセオ
連続起業家兼アーティスト。
24歳より連続起業を経て、デジタルホールディングスやトランスコスモスなどに会社を売却、「まんが王国」を展開するビーグリーで株式上場も経験。2016年からトランスコスモスの取締役上席常務執行役員兼CMOとして大企業経営に参画、国内関係会社取締役など多数兼務。2019年俳優の山田孝之とミーアンドスターズを設立、代表取締役社長兼CEOに就任。また連続起業家としてだけでなくビジネス系アーティストとして活動を開始。ホリエモンや明日花キララとコラボレーション。2021年、次世代型ブランドコングロマリット企業であるCEORYを設立、代表取締役社長兼CEOに就任。

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN