任期中最後の演説となった「光復節」演説を行う文在寅大統領(写真・ソウル新聞)

韓国の文在寅大統領は2021年8月15日、日本からの植民地解放を祝う「光復節」の演説を行い、「朝鮮半島の統一にはより多くの時間がかかるとしても、南北が共存し、朝鮮半島の非核化と恒久的平和を通じて東北アジア全体の繁栄に寄与する朝鮮半島モデルを作るとができる」と訴えた。さらに、「朝鮮半島の平和をしっかりと制度化することこそ、韓国と北朝鮮の双方にとって大きな利益」と付け加えた。

文大統領は「われわれにとって分断は、成長と繁栄の最大のネックであると同時に、恒久的平和への道をふさぐ大きな障壁だ。しかし、この障壁は乗り越えることができる」と述べ、信義と善意のやりとりを行いながら共存共栄を追求した過去の東西ドイツのようなモデルを、朝鮮半島でも構築する必要性を力説した。

日韓「ツー・トラック」協議方式をアピール

日韓関係については未来志向的な協力と慰安婦や徴用工問題などの歴史問題を分けて協議する「ツー・トラック」方式を再確認しながらも、対話を進めることを強調した。文大統領は「韓国と日本は(1965年の)国交正常化以降、民主主義と市場経済という共通の価値を基盤として分業と協力を通じた経済成長をともに成し遂げてきた。これこそ、今後も両国がともに進むべき道だ」と述べた。

さらに「懸案はもちろん、コロナ禍と気候変動など世界が直面する脅威に共同で対応するための対話の窓はつねに開かれている」と明らかにした。ただ、「正すべき歴史問題については、国際社会の普遍的な価値と基準に合う行動と実勢で解決していく」と付け加えた。

コロナ禍への対応について、「デルタ型ウイルスの拡散による第4派の感染急増を乗り越える。10月になれば国民の70%が2回目のコロナワクチン接種を終えられるように接種率の目標を高める」と述べた。

2021年の光復節での演説は、文大統領にとって2022年5月までの任期において最後の演説となった。まったく解決の兆しが見えない南北、日韓関係については、新たな提案を行う代わりに、政権が変わったとしても引き続き進むべき「新たな夢」に言及したことで、国家的ビジョンという側面からアプローチを行った。

通常、光復節の演説内容の両軸となる北朝鮮と日本へのメッセージを減らしたぶん、防疫と経済を軸としコロナ禍克服に関する内容が相当増えたのが特徴だ。「われわれはかつての大韓民国ではない。自ら誇りを持ち、新たな夢を持つ順番だ」と述べ、ポストコロナ時代の先頭に立つ国家となるために注力してほしいと述べたことも、この脈絡から出たものだ。

演説の中では、「夢」「世界」にそれぞれ20回言及し、「経済」が18回、「コロナ」が10回使われた。「先進」に9回、「リード(先導)」にも7回言及している。一方、「日本」は2020年の8回から3回、「南北」も8回から4回へと減少した。

南北関連についてはとくに、「信頼を積み上げ、統一に対する周辺国の憂慮を克服」したドイツのケースに言及した後、「朝鮮半島の平和をしっかりと制度化することこそ、南北共に大きな利益になる」と言及。「朝鮮半島モデル」を提唱したことは注目される。

日本とは先進国と先進国との関係を望む文大統領

一方で、コロナ禍を契機とした東北アジアの防疫・保健協力体にのみ言及しただけで、朝鮮戦争の終戦宣言や平和協定はもちろん、南北鉄道の連結や南北離散家族の再会についても言及しなかった。北朝鮮はこれまで閉鎖されていた南北間の通信連絡線(ホットライン)を再開したものの、再開から2週間で韓国側の呼びかけに応答しなくなっていた。さらに北朝鮮は米韓合同軍事演習に対する批判談話を出した状況や、韓国国内の世論にも配慮したものと思われる。

韓国・梨花女子大学北朝鮮学科のパク・ウォンゴン教授は「北朝鮮の最近の状況を考えると、北朝鮮関連の内容には慎重にならざるをえなかった。しかし、足元の問題ではなく、東北アジア協力体に言及したことは、中国を含めた多国間の枠でもあり、北朝鮮側にとっても負担を感じることはないだろう。コロナワクチンについても、結局は北朝鮮も必要なものでもあり、文大統領は最も現実的なメッセージを送った」と評価する。北朝鮮大学院大学のヤン・ムジン教授は「朝鮮半島モデルは南北共存というメッセージを再確認するものであり、文大統領は現時点では北朝鮮を気遣ったのではないか」と指摘する。

日韓関係については、未来志向的協力と歴史問題を別途に解決していくという「ツー・トラック」の基調を維持する一方で、対話のほうを強調した。文大統領は歴史問題について「正すべき歴史問題」と表現した。2017年と2020年に「強制徴用」「慰安婦」と直接言及し、また日本による輸出規制が行われた2019年には「隣国に不幸を与えた過去を省察すべき」と圧力を掛けた内容とは対照的なものになった。

さらには、1945年の解放後に、新国家樹立のために結成された政治組織である朝鮮建国準備委員会で副委員長を務めた独立運動家の安在鴻(アン・ジェホン)の演説に言及し、「先祖は解放という空間において日本人に対する復讐の代わりに抱擁を選択した」「植民地民族の被害意識を超越する、大胆で抱擁的な歴史意識だ」と言及した。

韓国・国立外交院日本研究センターのチェ・ウンミ教授は、「韓国は日本との対話の窓を開けており、日本がこれまでの対応を変えるべきであること、そして既存の垂直関係ではなく先進国と先進国としての平等な関係をつくっていこうというメッセージが込められている。任期内に日韓首脳会談は難しくても、日韓中の首脳会談の枠をつかって日韓首脳会談の機会をつかむことが現実的だ」と指摘する。
(『ソウル新聞』2021年8月16日)