準決勝、延長戦の末スペインに敗れ、うなだれるサッカー男子日本代表【写真:AP】

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「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#59

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、五輪を通して得られる多様な“見方”を随時発信する。3日、準決勝でスペインと対戦したサッカー男子日本代表は、スコアレスで迎えた延長後半に途中出場したオーバーエイジのエセンシオに決められて0-1で敗れた。2004年のアテネ五輪で10番を背負った元日本代表MF松井大輔(サイゴンFC)はこの試合にどんな「ミカタ」を持ったのか。(構成=藤井 雅彦)

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 0-1という結果はスコアだけを切り取れば“惜敗”だと言えます。延長後半途中までスコアレスの展開に持ち込んでいたので、どこかでワンチャンスを決めれば勝機があったかもしれない。準々決勝のようなPK勝ちも立派な勝利で、勝つチャンスは間違いなく転がっていました。

 ただ、内容を見ていくと“完敗”という表現が恐らく正しい。ほとんどの時間で主導権を握ることができず、スペインのポゼッションサッカーに圧倒されてしまった。内容で審査する競技だとしたら、3対7くらいだったのではないでしょうか。

 大会直前に行った親善試合とオリンピック本大会との違いを改めて痛感しました。強い国やチームであればあるほど、その差も大きくなります。彼らは親善試合で手を抜いているわけではないけど、本番になるとボール一つに対しての集中力や球際の強さ、それから勝負強さや汚さといったところも全く違います。いわゆる「目の色が変わる」という現象です。

 欧州や南米の強豪国は、国民からの大きな期待とプレッシャーを背負っています。親善試合では称賛も批判もされないけど、大会本番では今後の評価に大きく関わってくるので死活問題になり兼ねない。国全体に見張られている感覚と言ってもいいかもしれません。そうやって彼らはただ技術的にうまいだけでなく、本当の意味で強いチームに変貌するのです。

 日本は序盤からずっと押し込まれ、思うようにボールをつなげませんでした。グループリーグ3試合であれだけスムーズだったビルドアップに苦労して、前線へ効果的なボールを配給できた場面は数えるほどしかなかった。久保建英選手や堂安律選手がボールを受けてもすぐに相手選手に囲まれてしまい、サポートの距離も遠い。もう少し相手を押し込む展開にできれば、相手ゴールに迫る違ったアイデアを出せたかもしれないけど、この試合ではハーフウェーラインをいい形で越えていく場面が少なすぎた。それが最も大きな差で、必然的に守備の時間が長くなってしまいました。

 スペインのように実力があるチームに対しては、中盤でボールを奪うことも難しい。引いた状態で守っていても一瞬の隙を突いて縦パスを入れられてしまうので、その次からはさらにボールを奪いに出るのが難しくなる。選手個々のサッカーIQが高いサッカーで、まさにスペインが得意とするサッカーでした。

銅メダル獲得のポイントはフレッシュな選手の起用

 自陣での守備を踏ん張っていたのは間違いない。でも、そこから得点を奪いに行くエネルギーは残っていなかったし、実際にチャンスはほとんどなかった。僕は南アフリカ・ワールドカップでオランダと対戦して0-1で負けたけど、その試合は守備をしていた記憶しかありません。終始押し込まれて、ようやくボールを奪ってから相手陣地に行ってもすぐにマイボールを失い、また自陣に走って戻ることの繰り返し。スペイン戦を見ていて、そのオランダ戦を思い出しました。

 見ている側としては応援の気持ちもあるので「惜しかった」と感じるかもしれませんが、当事者である選手たちは力の差を感じたはず。ボールを奪えず、下がっても嫌なところにボールを入れられて、どんどんと土俵際に追い込まれてしまう。それを90分間続けられた後、さらに延長戦の30分間も苦しい時間が続き、最後は途中出場の実力ある選手に一瞬の隙を突かれてしまいました。

 少しの差かもしれませんが、なかなか埋められない“差”があったとしか言いようがありません。それがW杯で直面しているベスト16の壁であり、五輪の場合はベスト4に壁があるということなのでしょう。日本サッカーのレベルは上がっているけど、世界のサッカーも同じか、それ以上にレベルを上げています。だから追いつくのは簡単ではない。

 悔しい気持ちと喪失感が大きく、3位決定戦に向けて気持ちを切り替えるのは大変な作業だと思います。だけど、このチームにはロンドン五輪で同じ経験をした吉田麻也選手や酒井宏樹選手がいる。オーバーエイジの彼らには今こそ過去の教訓をチーム全体に伝えてほしいし、それが使命だと思います。五輪はメダルを争う大会で、銅メダルと4位では全く見え方が違います。その意味と重さをチーム全体が共有して戦ってほしい。

 メキシコにはグループリーグで2-1と勝利していますが、だからといって今回も勝てるとは限りません。相手からすれば2回は負けられないと思っているはずで、それこそどんな手を使ってでも日本を倒しに来るはず。そのチームをしっかり上回らなければいけません。

 勝つためのポイントを一つだけ挙げるとすれば、スペイン戦でもチームを活性化してくれたフレッシュな選手の起用法ではないでしょうか。相馬勇紀選手は右利きだけど左サイドで縦に突破してチャンスを作れていたし、前田大然選手も攻守両面でスピードを生かして存在感を発揮していました。選択肢やバリエーションが増えるのはチームにとってプラスです。

 次の3位決定戦は、泣いても笑っても今大会最後の試合になります。金メダルを目標に戦っていたと思いますが、彼らにはそれぞれの未来があります。1年後にはカタールW杯もあります。立ち止まっている暇はありません。そして、日本国民を笑顔にするような勝利で大会を終えてほしい。ベトナムから日本の勝利を願っています。(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)