藤沢市に住むカナダ出身のブレイスウェイトさんと、娘のミオさん(写真:筆者提供)

神奈川県藤沢市に住むアフリカ系カナダ人キノタ・ブレイスウェイトさんは、ある日、黒人のカナダ人で日本人でもある娘ミオから突然、もう学校に行きたくないと言われ、うろたえた。その日、ブレイスウェイトさんは日本での暮らしは安全で子どもにとっては素晴らしい環境である一方、おそろしい面もあり、相当の注意が必要であると知った。

学校で起きている度を越したいじめもそのひとつだ。9歳のミオは父親に、学校の友人からからかわれたり、侮辱されたりというひどい行為を受けてきた、と伝えた。いじめの一番の原因は、ミオが言うには、自分で変えられないことだという。つまり、彼女の肌の色だ。

「普通」から外れている子が標的になりやすい

日本のいじめ問題は周知の事実であり、今日に始まったことではない。文部科学省の2020年のデータによると、日本の83%の学校でいじめがあったという。日本の学校で起きたいじめの報告件数は61万2496件で、2019年より6万8563件も増えている。報告された大半のいじめは小学校で起きており、揶揄や脅し、侮辱が多いという。

悲しいことに、幼稚園から高校、さらに大学に至るまであらゆる年代の子どもたちにとっていじめを受けるのは珍しい経験ではない。会社員さえも職場でいじめられたと訴えているほどだ。

原因はさまざまだが、人種、肌の色、出身地が社会で「普通」とされる特徴から外れている子どもたちはその標的になりやすい。そしてミオのように茶色の肌に縮れ毛の少女はここ日本では「標準」とはほど遠い。

そんな美しいミオがZoomのインタビューで説明してくれた。「学校に行っても面白くなかったの」。恥ずかしそうに微笑んで見せたが、そのはにかんだ笑顔の下に傷を抱えていることが容易にうかがえた。

一般的に、二度といじめが起こらないようにする方策はほとんどない。多くの社会にいじめは組み込まれている。ほとんど通過儀礼であったり、強い特権であったりもする。いじめは許容範囲の行為として受け入れられ、あまりに文化と一体になっているために、問題視されにくい「しごき」などの行いと区別がつかない場合もある。

学校はいじめの対処法を知らない

ところが、学校で幼い子がほかの子をいじめるとき――特に肌の色や見た目の違いがきっかけがになった場合は――偏見、人種差別、性差別などのおぞましい行動につながりやすい。だからこそ、けっして見逃したり、無視したりしてはいけないのだ。迅速に対処して効果を得る必要がある。


(写真:筆者撮影)

ブレイスウェイトさんは行動を起こすことにした。43歳の彼は元モンテッソーリ教師であり、作家でもある。ブレイスウェイトさんはまず、ミオの学校の教師たちにいじめの問題を知らせ、校内でこれにどう対応しているか、そして、彼自身に何ができるかを調べた。

「わかったのは、学校がいじめの対処法を知らないという問題です。また、見なかったふりをしたり、『子どものやることだから』と切り捨てたりしているということです。もう少しまともな対応ができるはずだと感じました」。ミオと一緒に受けてくれたインタビューでブレイスウェイトさんはこう話す。

「ただ、私が手を貸してミオの学校のいじめを解決できたとしても、これからもいじめたり、いじめられたりする子どもたちが大勢出てきます。その子たちのためにも”何か”したいと思いました」

その「何か」が『ミオ・ザ・ビューティフル』という本になった(和文翻訳はみうらせつこ氏)。子どもたちが、見慣れた人だけでなく、いろいろな人の美しさに気付けるよう励ます前向きな物語だ。


ブレイスウェイトさんがミオさんのために書いた『ミオ・ザ・ビューティフル』

読者は、外見、国籍、文化的背景、宗教、ジェンダー、性的指向などにかかわらず、すべての人間が似た感情を持っており、敬意を払うべき存在であるという絶対的――けれども理解されていない――真実に向き合う。

ブレイスウェイトさんは、娘が耐え、克服しなければならなかったのと同じ痛みをほかの子どもたちが味わわなくてすむようにとの願いと思いをこの本に注ぎこんだ。

残念ながら教師、保護者、生徒さえ、いじめを目撃しても黙っていることが多い。だが、ブレイスウェイトさんは傍観しているだけではいじめを止められないどころか、助長してしまうと考えている。これまでは解決できなかったが、積極的に押し返すことで結果は出るはずだ。

目下、2冊目を準備中

それはやってみる価値のある取り組みで、実際にミオの学校では成果が上がった。今ではミオの学校は、彼女と級友にふさわしく、教師やスタッフが子供達に与えたいと望んでいた、より安全な教育の場となった。たとえゼロにはならないとしても、いじめは絶対に許されない聖域だ。


2冊目となる『ケイ・ザ・トゥルーフレンド』

ブレイスウェイトさんは目下、『ミオ・ザ・ビューティフル』に続く2冊目の本の準備中だという。異なる人種の両親の間に生まれ、同じく日本で小学校に通う息子が主人公だ。クラウドファンディングのキックスターターでのキャンペーンが成功してプロジェクトに必要な資金が集まったため、今夏に発表される予定だ。

その本の題名は『ケイ・ザ・トゥルーフレンド』である。