トイレ ※画像はイメージです

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 女性に多い夜間頻尿の原因は「過活動膀胱」と「夜間多尿」。そのどちらも、ちょっとしたセルフケアでグッと症状が改善するんです! 加齢のせいだと諦めず、自分のQOLを守ろう。

【写真】夜2回以上トイレに行く人と死亡率のグラフ

「朝までぐっすり眠りたいのに、夜中にトイレに起きてしまう」「夜中にトイレに起きた後、なかなか眠れない」。こうした症状は“夜間頻尿”と呼ばれている。

「夜間頻尿は、夜間に1回以上トイレに起きることを指します。年齢を重ねるほど、夜中にトイレに起きる人の割合は増えていきます」

 そう話すのは、長年にわたって自律神経機能を研究し、泌尿器科医との共同研究も行っている堀田晴美先生。

 重篤な病気に比べて軽く見られがちな夜間頻尿だが、実は怖い側面がある。東北大学の研究チームの調査によって、夜間頻尿になると死亡率が約2倍になるという結果が報告されているのだ。

「夜間頻尿によって持病が悪化したり、夜中にトイレに行く際に転倒して寝たきりになったりすることが全身状態の悪化につながります。それが間接的に死亡率に影響しています」(堀田先生、以下同)

 年齢とともにトイレが近くなりがちだが、60代になると7〜8割の人が夜中に1回はトイレに起きるようになるというデータもある。

「夜中にトイレに起きる回数は60代で1回、70代で2回程度であれば通常の範囲です。ただし、回数が3回、4回と増え、結果的に睡眠不足になり日中に眠気を感じて困っている場合は泌尿器科などの医療機関に相談することをおすすめします」

 ちなみに、夜間頻尿に加えて血尿や、排尿時の下腹部や泌尿器の痛みや不快感がある場合は要注意。膀胱炎や膀胱がん、心不全、腎臓病といった病気の兆候である可能性があるため、すぐに病院を受診することが望ましい。

夜間頻尿の原因のひとつは“夜間多尿”

 夜間頻尿の原因で多いのは、夜の尿の量が多いこと。

「夜間は尿の産生自体が少なくなるように腎臓の働きや脳下垂体から分泌されるホルモンなどが調節されます。高齢になるにつれてそうした調整がうまく働かなくなることもあり、それが夜間多尿の原因のひとつと考えられます」

 さらに、夜間多尿の原因として多いのが水分のとりすぎ。

「健康のためにと水分を必要以上にとっている人が多い。就寝前などに水分をたくさんとると当然トイレに起きやすくなってしまいます」

 1日の水分摂取量の目安は食事以外での水分が1・5リットル。

「水分量を制限することで夜間の排尿が1〜1・5回程度、減ることがわかっています。特に夕方以降の水分摂取を減らすと効果が出やすいので、夜間頻尿でお困りの方は夕食後のお茶や寝る前のコップ1杯の水の摂取をやめてみてはいかがでしょうか」

夜2回以上トイレに起きる人は死亡率が確実に上がる!

 宮城県に住む70歳以上の784人を調べたところ、夜間排尿回数が2回以上の人たちは1回以下の人たちと比べて、死亡率が1.98倍だった。

出典◎中川晴夫ほか、Impact of nocturia on bone fracture and mortality in older individuals:a Japanese longitudinal cohort study(2010)をもとに作図

過活動膀胱の原因は自律神経の乱れ

 女性の夜間頻尿の原因で多いのが“過活動膀胱”だ。

「過活動膀胱は年齢とともに増える病気で、尿もれや頻尿といった尿トラブルの原因になりやすいことが特徴です」

 通常、膀胱に尿をためるときには膀胱がゆるみ、排尿する際には膀胱が収縮する。過活動膀胱はこの切り替えがうまくいかないために起こる症状だ。

「膀胱に少ししか尿がたまっていないのに収縮が始まってしまうため、急にトイレに行きたくなってしまうんです。近年の研究によれば、夜間頻尿のうち3分の1は過活動膀胱だともいわれています」

 日本排尿機能学会の調査では、40歳以上の女性で夜1回以上トイレに起きる割合は66・9%、3回以上は10・6%、過活動膀胱の症状があるのは10・8%という報告がなされている。

「過活動膀胱の原因は不明な部分もありますが、自律神経の働きが影響していることは明らかです。自律神経は内臓の働きや血圧、体温、代謝などの機能を調整する神経。

 その中には脊髄を通り、膀胱と脳の脳幹にある排尿中枢を司る部分をつないでいる神経もあります。例えば老化などの原因で膀胱の自律神経調節がうまくいかなくなると膀胱が過敏になり、過活動膀胱になってしまうのです」

過活動膀胱セルフチェック

夜間頻尿とは「過活動膀胱」のひとつの症状。
この1週間のあなたの状態に最も近いものをひとつ選んで、点数を足していってみましょう。

Q1 朝起きてから寝る前に何回尿をしましたか?
・7回以下…0点 ・8〜14回…1点 ・15回以上…2点

Q2 夜寝てから朝起きるまで、何回尿をするために起きましたか?
・0回…0点 ・1回…1点 ・2回…2点 ・3回以上…3点

Q3 急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありますか?
・なし…0点 ・週1回未満…1点 ・週1回以上…2点
・1日1回くらい…3点 ・1日2〜4回…4点 ・1日5回以上…5点

Q4 急に尿がしたくなり、我慢できず尿をもらすことがありましたか?
・なし…0点 ・週1回未満…1点 ・週1回以上…2点
・1日1回くらい…3点 ・1日2〜4回…4点 ・1日5回以上…5点

Q3が2点以上で、かつ合計点数が3点以上の場合は過活動膀胱が疑われます。5点以下は軽症、6〜11点は中等症、12点以上は重症と考えられます。

自律神経が乱れる原因は……

 自律神経が乱れる原因には、いろいろな要素が挙げられる。

「自律神経は、ストレスや感情による影響を知らず知らずのうちに受けてしまう神経です。また、今はコロナ禍で運動不足の方が増えているといわれていますが、その結果、自律神経が乱れて過活動膀胱になる人が増えることも懸念されます」

 堀田先生いわく、膀胱は自律神経に関する不調が出やすい部分なのだという。

「血圧が高くても低くても本人には自覚がないように、基本的に自律神経の働きは意識にはのぼりません。しかし、人は1日に何度も排尿をするため、膀胱に関する自律神経はいちばん、意識にのぼりやすい部分です。そのため、何か問題が生じると過活動膀胱などの症状として現れやすいんです。

 ただ、これらは骨盤底筋を鍛えるなど、セルフケアで改善することがあります。近年実験で効果が立証されている下記の“会陰さすり”などで改善する人もいます。まずは取り入れてみて」

その日の夜から効果が出る!? 「会陰さすり」を試そう

 会陰さすりは、肛門と生殖器の間にある『会陰部』を指か専用のローラーで約1分間やさしくさする方法。それによって、次のような効果が期待できるという。

「会陰さすりで会陰部をやさしく刺激すると、その刺激が仙髄に伝わります。仙髄とは脊髄にあり膀胱の筋肉をコントロールする自律神経が通る場所。自律神経の膀胱への刺激が遮断され、過剰な収縮が抑えられます」

 実際、堀田先生らの研究参加者の中にはその日のうちに効果が現れた人も少なくない。

「過活動膀胱が原因の夜間頻尿は、早ければその日の夜から改善される可能性もあります」

 会陰さすりは即効性がある方法だが、気をつけるべきポイントも。

「会陰部を強く刺激すると逆効果になってしまうので、やさしくさすることが大切です。また、お風呂など皮膚が濡れる場所では感触が変わる可能性があるので避けたほうがいいでしょう。夜間頻尿の改善には就寝前に行うのがおすすめです」

1.トイレなどで生殖器と肛門の間を指で左右にさする。

2.片道3秒の速さで、指がかすかにふれる程度のやさしい力で往復10回さする。これを1日に最低1セット行う。

※ローラーによる会陰さすりの臨床研究論文は下記
Iimura, K. et al., PLOS ONE, 2016

教えてくれたのは……堀田晴美先生●東京都健康長寿医療センター研究所 自律神経機能研究室研究部長。日本自律神経学会理事。自律神経系の活動をコントロールする方法を長年にわたり研究している。共著『夜間頻尿 朝までぐっすり! 自宅ケアBOOK』(主婦と生活社)がある。

(取材・文/熊谷あづさ)