「若手」って、いつまで若手扱いしてもらえるんだろう。

なんとなく“若手気分”で仕事をしてるけど、「若手」という武器が使えなくなったとき、自分に残るものって何かあるのかな…?

そんな疑問を持って今回お話をうかがったのは、今年2月に書籍『若いカワイイからの卒業』(リットーミュージック)を上梓した、元アイドルグループ『アイドリング!!!』リーダー、現ボイストレーナーの遠藤舞さん。

アイドル時代、自身の年齢やキャリアについて悩んだという彼女に、「若さ以外の武器」についてお話を聞きました。

〈聞き手=いしかわゆき〉


遠藤舞(えんどう・まい)】1988年生まれ、東京都出身。スカウトをきっかけに、2006年よりアイドルグループ『アイドリング!!!』のメンバーとして活動。在籍中はリーダーを務め、高い歌唱力、トーク力を武器に活躍。2014年からはソロシンガーとして活動し、2017年に芸能界を引退。現在はボイストレーナーとして多くのアイドルグループや歌手に歌唱指導を行う傍ら、レコーディングの仮歌、CMのナレーション、オーディションの審査員など幅広いフィールドで活躍中

21歳にして“ババアいじり”をされ、「魔のBBAループ」に突入…!?

いしかわ:
最近、「若さ」という武器っていつまで通用するんだろうという危機感を抱いていて…

遠藤さんが最初に危機感を覚えたのはいつだったんですか?

遠藤さん:
危機感といいますか、私は20代でがっつり「ババアイジり」をされてきた経験がありまして…


えっ

遠藤さん:
アイドルの世界って、いわゆる「ババアいじり」みたいなノリがあるじゃないですか。年上メンバーに対するいじりというか。

私も21歳で「アイドリング!!!」の最年長になったときに、それを経験したんですよ。

当時、私以外は全員現役の中高生。だんだん、学生服みたいな衣装が自分だけコスプレみたいに思えてきちゃって。

いしかわ:
まだ21歳なのに

遠藤さん:
今思えばそうなんですよ!

でも不思議なもんで、まわりから「ババア、ババア」って言われてると、「自分はババアなんだからババア然としてすごさねば」「21歳だからミニスカートはけない」って洗脳されていくんですよね。

ババアじゃないのに自らババアに寄っていく…“魔のBBAループ”に突入するんです。


この同調圧力感、わかるかも…

遠藤さん:
でも、アイドルを辞めた途端、ババアなんて言われなくなりました。

むしろ、「お若いですね!」と言われることもあるくらいで。

いしかわ:
(わかる…私も大学時代後輩にババア呼ばわりされたことある…

実年齢どうこうというより、コミュニティ内での比較ですよね。ババアいじりって。

遠藤さん:
「信頼関係があるいじりだから大丈夫」っていう人もいるかもしれないけど…たいていの場合は致命傷です

私自身10代のころ、21歳でリーダーを務めていた加藤沙耶香さんに面白半分でババアいじりをしてしまった。言った自分に特大ブーメランになって返ってきました。

そういう経験をしているので、21歳のときに、ある意味で「若さ」という武器を失ってるんですよね、私。


過去を振り返る遠藤さん。共感する人、かなり多い気がします

「自分、若くないかも…」と思うのは「脱皮の時期」の訪れ?

遠藤さん:
ただ一方で、自分自身で「若さを失うこと」への焦りを感じるのは悪いことじゃないと思うんです。

アイドルをやっていた23歳のとき、同級生は大学を出て社会人として働きはじめるタイミングでした。

みんなキャリアをスタートしていく一方で、私のキャリアは終わりに向かってるんだ…と焦りが出てきたんですよ。

いしかわ:
なるほど

遠藤さん:
でも私、これは「ポジティブな印」だと思っていて。


「若さへの焦り」が、ポジティブな印?

遠藤さん:
「もう若手なんて言ってられない」と気づくのって、“脱皮の時期”が来たってことだと思うんですよ。

そのタイミングが来ないと、逆に怖いと思います。

「変わらなきゃ」という焦りが、人を次のステージに進ませると思うので。

いしかわ:
なるほど…たしかにそうかも。

そのタイミングできちんと脱皮できるように、「若いうち」にやっておいたほうがいいことはありますか?

遠藤さん:
シンプルに、若手時代に「若さ」以外の武器を搭載することなんですけど…

私、使えるうちは、「若さ」という武器を惜しみなく使い倒したほうがいいと思ってるんです。

「限りある資源」ではあるけど、間違いなく一つの強み。上手に使えるかどうかで、成長スピードはまったく変わってくると思うので。



遠藤さん:
たとえば、トライ&エラーは「許される」という武器がある若いうちの特権。

私、アイドルを卒業したあと、一般企業で働いたり、いろんなアルバイトをしたりしてるんですよ。

いしかわ:
えっ、元アイドリング!!!の遠藤さんが…!?

遠藤さん:
高校を卒業してすぐに芸能界に入って世間知らずだったので、自分にどんな仕事ができるのか、「若さ」以外の武器を知っておきたくて。

たくさん失敗したけど、だからこそ自分の武器が何なのかが見えました。

でも、今思うともっと失敗しておけばよかったなあ…。「許されなくなるタイミング」って、本当に急に来るので。

いしかわ:
許されなくなるタイミング…何歳くらいだったんですか?

遠藤さん:
これ、年齢じゃなくて。「立場が変わった瞬間」なんですよ。

アイドル時代は甘やかしてもらってたんですけど、ボイストレーナーになって生徒を見る立場になってから、一気に失敗が許されない空気になりました。

責任が広がるとき、「若さゆえに許される」は終わると思います。



「若さ」がなくても「カワイイ」の手札は増やしていける

遠藤さん:
私、16歳のときからずっと、「カワイさ」には賞味期限があると思ってたんですね。

でも30代になって、「若さ」はなくなるけど、「カワイイ」はなくならないと気付きました。



遠藤さん:
大人でも、カワイらしさが残っているほうが、人として好かれると思うんです。

会社にも「カワイイ上司」っていません? 締めるときは締めるけど、スキがあって決して威圧感を与えない人。

いしかわ:
…稀ですけどいます。そしてめちゃくちゃ人気者です

遠藤さん:
「カワイイ」は若い時代だけの魅力じゃない。

むしろ、歳を重ねるごとに「カワイイ」の手札って増えていくんじゃないかな。

年代ごとに「カワイイ」の種類が増えていって、どの「カワイイ」を使っていくか楽しんじゃうくらいがいいのかもしれません。

いしかわ:
そっか…ありがとうございます。

歳を重ねることを、少し前向きに思えるようになった気がします。

遠藤さん:
失う以上に、増えていく。

「カワイイ」はかたちを変えて、自分のなかにずっと存在してますから!



今まで漠然と「永遠に若いままでいたい…」という思いがあったんですけど、私、この取材を通して初めて「歳を取る」ことへの怖さがちょっと軽くなったかもしれない…。

取材の最後に、遠藤さんが「若さがなくなっても、絶対しみったれるな!」と名言を残してくれました。しみったれず、かわいらしく歳を重ねていきたい。

パワーをもらえる取材、ありがとうございました!

〈取材・文=いしかわゆき(@milkprincess17)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉

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「21歳でBBA扱いされるとヒト♀はどうなるのか」「29歳で世に放り出されたらタダの世間知らずおばさんになった」など、遠藤さんが赤裸々につづったエッセイが好評発売中。

アイドル時代のエピソードはもちろん、セカンドキャリアの選び方や恋愛・結婚の話など、リアルでタメになるエピソードが詰まっています。

今まさに「若いカワイイ」状態から脱皮しようとしている方に、きっと勇気を与えてくれるはず。