2021年1月2日よる9時から放送の「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!」での役どころはもちろん大注目。それを抜きにしてもここまで愛される理由とは?(写真:アフロ)

インスタのフォロワー数123.5万。石田ゆり子さんは国民的スターである。

老若男女に愛されている石田さんは、おひとりさまの星でもある。「独身大物俳優最後の砦」というような言い回しがあって、それは主にイケメン系の独身男性を崇めるものだが、女性の石田ゆり子さんもまさにそれ。

2020年は、瀬戸康史さんと山本美月さん、松坂桃李さんと戸田恵梨香さんなど30代のビッグカップルが生まれ、結婚っていいよね感がたちこめるなか、いささか心許ない独身たちにとって、石田ゆり子さんはまさに最後の砦である。俳優たちが未婚でも一般人のわれわれには1ミクロンも関係もないとはいえ、ついついひとり身の俳優がいると支えにしてしまうものなのだ。

石田ゆり子さんと天海祐希さんの共通点

いま、独身女性の支え的存在の代表格は、石田ゆり子さんと天海祐希さんかと思う。頼りがいある理想の上司的な天海さん、楚々とした有能な秘書的な石田さんと、タイプは異なるものの、50代にして、風のように水のように澄んだ雰囲気が、ますます増して見えるところが共通している。あくまで勝手なイメージながら、ふたりとも、仕事にも私生活にもがむしゃらな印象がない。仮に私生活はマイペースだとしても、仕事は妥協することない職人だと思うが、いわゆる白鳥は水の下では激しく足をばたつかせていても水面上では涼しい顔をしている。そういう雰囲気がふたりにはある。

なかでも石田ゆり子さんがインスタグラムで垣間見せる猫と犬と一緒に、さりげなく上質な生活は、全部は無理でもすこしなら取り入れることができそうな気がしてしまう。フォロワー数123.5万という数値から、多くのひとの憧れ度数は推測できる。筆者も、彼女のインスタで紹介されていた、ほうじ茶とめんつゆとごま油と八角に漬け込む煮玉子のレシピを真似してみたことがあるが、彼女がインスタで提示する生活は、日常をちょっとだけ上質にする、そのさじかげんが絶妙なのである。

とはいえ、いま、ここまで石田ゆり子さんが支持されるのはなぜなのか。高校生のときにスカウトされて芸能界入り、女優デビューから32年。ベテラン俳優といって過言でない石田ゆり子さんの魅力が改めて注目されたのは、ドラマ『逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)』(2016年 TBS系)で演じた役の影響は大きかったであろう。契約結婚からはじまった主人公みくり(新垣結衣)とそのパートナー・平匡(星野源)を懐深く見守る、みくりの叔母・百合ちゃんは多くの視聴者に支持された。

百合ちゃんは仕事に情熱を注ぐあまり、アラフィフになっても独身。仕事でしっかり成功しているので、経済的にも困らず、素敵な生活を送っていて、みくりには憧れのひと。そんな彼女が、17歳も年下の男性と恋愛関係になるのも『逃げ恥』の見どころのひとつだった。主に20、30代の視聴者はみくりに、40代以上は百合ちゃんに自分を投影できた。

百合ちゃんが放った「呪い」もたちうちできない

百合ちゃんのエピソードで白眉だったのは、連ドラ最終回、年の差恋愛を揶揄されたときに毅然と放つのセリフ「いまあなたが価値がないと切り捨てたものは、この先あなたが向かっていく未来でもあるのよ」や「私たちのまわりにはね、たくさんの呪いがあるの。(中略)自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからは、さっさと逃げてしまいなさい」は世代問わず、喝采をもって迎えられた。

「呪い」とは主に、女性はこうあるべきとか、こうあるべきでないとか、一般常識のようなことにとらわれてしまうこと。年齢や性別で規定されがちなことから自由になろうという機運は年々強くなっている。2011年に内田樹さんが『呪いの時代』という本で現代社会に潜む「呪い」を取り上げたころから、日常でも「呪い」という言葉を使うことが増えて、『逃げ恥』でも使用されたことで、さらにポピュラーな言葉になった。石田さんは、私たちがついとらわれてしまう「呪い」と程遠い、呪いに決してかからない、呪いがたちうちできない清らかさの象徴のようなイメージをまとっている。


2021年1月2日放送の「逃げ恥」特番は放送前からファンの期待が高まっている(写真:TBSホームページより)

呪いをはねのける力のありそうな石田さん。石田ゆり子さんが実際どんなひとか知る由もないが、深窓のご令嬢のように見えて、水泳が得意な、健やかなひとであるようだ。

いまは『逃げ恥』の百合ちゃんのイメージが強い石田さんだが、2020年後半、彼女は2本の映画に連続で出演した。雫井脩介のベストセラーが原作の『望み』(堤幸彦監督)と、秦建日子の小説が原作の『サイレント・トーキョー』(波多野貴文監督)の2作で、前者は行方不明になった息子が殺人事件の容疑者かもしれないとなったとき、犯人であろうとそうでなかろうと息子には生きていてほしいと強く願う母親役。後者は、爆破テロに巻き込まれた主婦と思いきや実は……というトリッキーな役。どちらも百合ちゃんとは違うヘヴィな役柄だ。

思い込んだら真っすぐ揺らがない強さ

石田さんは映画だと過去にも、天童荒太の直木賞受賞作の映画化『悼む人』(堤幸彦監督 2015年)では宗教家にとことん尽くし抜き、彼のとんでもない願いを叶えようとする役を演じていたし、芥川賞作家・平野啓一郎の小説が原作『マチネの終わりに』(西谷弘監督 2019年)は、恋愛ものながら、石田さんの演じた役はパリで活躍するジャーナリストで、爆弾事件に巻き込まれたことからPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされるようになるという設定で、これまたヘヴィ。

これら、まったく違う役柄ながら、ひとつ共通している点がある。思い込んだら真っすぐ揺らがない強さを発揮することだ。『望み』や『サイレント〜』のスタッフに聞くと一様に、石田さんが演じることで、役ががむしゃらすぎず、親しみやすさが生まれるというようなことを(大意)言うのだ。かつてはがむしゃらな演技が演技派として評価されていたときもあるが、いまはそうではない。どんなに自分を貫くにしても、むき出しの激しい表現よりも、他者を傷つけないような配慮する身振りが好まれる時代に、石田さんの表現はフィットする。

『望み』や『サイレント〜』の取材をしたとき、石田さんが愛される理由がすこしだけ実感できたような気がした。反応がすこぶるナチュラルなのだ。「2020年は、ほぼ悲しい物語を撮っていたんです」(『サイレント・トーキョー』パンフレットより)と言ったときにほんとうに素直にちょっと悲しそうな表情をした。

「演じることは心の筋肉を使う」と語ってくれた石田さんに、自分の身体感覚に正直に生きている印象をもった。天然な雰囲気を出して場を和ませつつ、最終的にきちっとテーマに沿った話にまとめてくれる配慮もあって、こちらが熱意をもって聞くと、「ん〜…」と考えたりしつつちゃんと答えを出してくれる。「望み」で夫役を演じた堤真一さんとの対談のときは、堤さんを立て、自身は天然キャラとしてほっこり笑いを振りまきながら、語るところは語る。雰囲気づくりのうまさに舌を巻いた。

強さを押し出さずとも

ジェンダー問題が問われるいま、男性優位な社会ではなく、女性がしっかり発言し行動していくことが重要視されているが、強さを押し出さずとも、それが可能であることを石田さんに感じた。

2021年、年明けに放送される『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル‼』(1月2日よる9時〜 TBS 系)での百合ちゃんはどうなるのだろう。公式サイトでは、年下恋人とすでに別れているとか……。百合ちゃんにも、石田さんにも、おひとりさまの砦でいてほしいけれど、そうでないといけないというような感覚も石田さんにはないような気がする。

石田さんの魅力は、既婚とか未婚とか、こうでなくてはいけないとか、そういうカテゴリーがいっさいない、ほんとうの自由を感じるところにある。これからの時代は、ますますそういう生き方が主流になっていく気がする。