お笑い芸人西野亮廣さんの代表作で、累計55万部のベストセラーとなった絵本『えんとつ町のプペル』の映画が、12月25日に劇場公開される。作品に出てくる「えんとつ町」は、黒い煙に覆われて、空を見上げることができない。それは現代の日本がモチーフという。製作総指揮を務めた西野さんが、映画に新たに込めたメッセージを聞いた――。

※本稿は『プレジデントFamily 冬号』の掲載記事を再編集したものです。

■映画のモチーフは、夢を見られない今の日本

撮影=大森大祐

――12月25日公開の映画『えんとつ町のプペル』はどのような物語なのでしょうか。

【西野】黒い煙に覆われた町の中で、星を見に行くえんとつ掃除屋の少年とゴミ人間の物語です。

――物語の着想は、どこから生まれたのですか?

【西野】どうしても自分の体験と重なっちゃうのですが、僕は25歳くらいまではずっとテレビの仕事をずっとしていて。そこからやっぱり世界で勝負をしたいなと思った時に、日本語に依存してしまうと、どうしても海外に出られないんで、翻訳のハードルが低いものか、もしくは非言語のものに挑戦しないといけないなと思っていた時にタモリさんから「お前、絵描けよ」って言われて、「じゃあ、やります」って絵本を描き始めました。絵本がその条件と合っていたので。

そこからテレビから絵本のほうに軸足を移していったのですが、そのあたりから、「世界を狙う」とか「ウォルト・ディズニー超える」みたいなことを言うと、日本中からすごくバッシングされたんですよ。

僕の時間を使って、僕が挑戦しているだけなんで、たぶん誰にも迷惑はかけていないはずなんですが、どうも周りはそれを許さなかった。

――なぜ、許さなかったのだと思いますか?

【西野】みんな自分の夢と折り合いをつけたからだと思います。要するに、大人になる過程でみんなどこかで折り合いをつけているから、「お前も折り合いつけろよ」っていう力学が働いたと思うんです。

とにかく、夢を語れば笑われ、行動すれば叩かれるっていう社会になってしまっているなって思ったんで、これを物語に落とし込もうと思ってできたのが、「えんとつ町のプペル」ですね。

©西野亮廣/『映画えんとつ町のプペル』製作委員会

■お金の勉強不足で夢が奪われる

――日本人はそもそも、どうして夢を持てなくなっているのでしょう?

【西野】夢を諦めないといけない確率が上がっちゃっているっていうのがあると思います。理由はいくつかあると思うんですけど、日本の場合だと、どんどん人口が減って(市場が小さくなって)いる。そういうところで、ちょっと夢を見にくくなっていると思います。

©西野亮廣/『映画えんとつ町のプペル』製作委員会

だけど、それは言ってもしょうがないことなので、今から頑張れる部分でいうと、やっぱりお金の教育を徹底的にしなかったっていうところ。

日本人って幼稚園から始まって、高校でも、大学でも、お金の勉強をしないじゃないですか。それで、社会に出てようやく、「あれ、お金ないな」とか、「ちょっと待って、お金増やすってどうするんだっけ」みたいなことになっている。

挑戦しようと思ったら、お金は絶対に必要です。生活費や何かしようと思ったら予算が必要になってくるし、そういったものを集めるノウハウの勉強を一切してないと、当然夢を諦めないといけない確率が上がってしまう。

――夢を持っても、お金がないから無理だなって思ってしまう。

【西野】はい。みんながそういう状況なんで、結局諦めざるを得ない。要は、シンプルに、みんなの目が死んでいる理由がお金の知識不足である、っていう。

クラウドファンディングだって今でこそ一般化したと思うんですけど、7、8年前は、日本中が知らなかったので。何かやろうと思ってお金がいるってなった時に、「よっしゃ、クラウドファンディングで集めよう」っていう選択肢が日本にはなかった。それって本当は学校で教えてあげなきゃいけないことで。

ここまでお金のことを教えない国って、僕が知っている限りでは日本ぐらいで、とにかく夢をつぶすような学校教育のカリキュラムになっていることは間違いないです。

■貧困が連鎖するスラム街と日本は同じ

――どうして学校教育でお金のことを教えていないのでしょう。

【西野】踏み込んだ話をすると、そっちの方が支配しやすいからだと思います。国民全員がうっすら貧乏になった方が支配しやすいので。

お金を持っちゃうと、例えば、GAFAみたいなのが出てくると国でもコントロールできなくなってしまうので。基本的には全員をうっすら貧乏にする教育にはなっている。そして、これに親が気付いてないっていう問題があります。

僕は結構、貧困国に行くんですけど、スラム街で起こっていることと日本で起こっていることって本質は似ているなって。つまり、親が働き方を知らないから、子供に「こうやったら働けるよ」って教えてあげられない。貧困の連鎖から抜けられないんです。

――日本も同じ状態……。

【西野】日本は、ずっとその状態ですね(笑)。

■クラウドファンディングを批判した日本人

――確かに先進国の中で唯一収入が上がっておらず、貧しい国になっているという話は聞きます。

【西野】むちゃくちゃ貧しいですよ。

だから、たぶん20年ぶりに海外行ったりしたら、物価の高さにひっくり返ると思います。ランチで2000〜3000円でしょってなっているので。アメリカに行って昼ごはんとか食べようってなったら、びっくりすると思うんです、日本人は。

――ランチで3000円は高いですね。毎日は食べられないです。

【西野】だから、お金の教育をしないと絶対ダメだっていうことを言う人もいるんですね。

だけれども、お金の話をした瞬間に「あいつ銭ゲバだ」って言って叩いちゃう。そこはすごく学校教育に洗脳されているなと思います。親御さんは、ちゃんと勉強して、自分の子供だけでも守ってあげないと。

僕、2013年にクラウドファンディングした時に、すごいバッシングされたんです。詐欺だ、宗教だ、って言われて。本当にヤバいと思いました。言葉を選ばずに言うと、未開の地の人たちとしゃべっているような感じがしたんです。みんな、槍でつついてくるんですけど、「クラウドファンディングが宗教って何?」って思って。マジでこんな国になっちゃったのかと思いました。

©西野亮廣/『映画えんとつ町のプペル』製作委員会

■批判に負けないためにも知識が必要

――西野さんは批判されても、くじけることがなかったのはなぜでしょうか? 心が折れて負けてしまう人もいると思います。

【西野】僕がクラウドファンディングをしてバッシングされたのって、みんなの知識が追い付いてなかっただけなんです。つまり、クラウドファンディングっていうものが「悪」だからではなくて、ただみんなは知らないってだけでバッシングをする。知らないで叩いている人が何人いようが関係なくて、なぜならこの人たちが間違っているっていうのはもう結果が出ているからです。

だから、知識だと思いますね。くじけない心って。

――心の強さというよりも、知識。

【西野】知識ですね。

自分が圧倒的に正しくて、みんなが手の平を返すってことが見えていたら、あとはどれだけ待つかってだけの話なんで。だけど、ここが自分が知識不足でグラグラ揺れていると、「あれ、間違ってんのかな」とかなっちゃうと、コロッとくじけてしまうかもしれません。

クラウドファンディングをバッシングするって、ほんとに日本だけなんで。

■知らないという感情と嫌いという感情は近い

――知識不足でバッシングしてしまうというお話しがありましたが、なぜ、知識がないとバッシングしてしまうのでしょうか?

【西野】知らないって感情と嫌いって感情が近いってことですね。

つまり僕たちは、人が嫌っている理由を深堀していくと、嫌いだから嫌っているものってあんまりなくて、知らないから嫌っているっていうことが結構ある。

クラウドファンディングよく分からない、怪しい、詐欺だ、嫌い、みたいな。オンラインサロン、怪しい、宗教だ、嫌い、みたいな。咀嚼する前に嫌っちゃうってあるじゃないですか。知らないものを結構嫌う傾向にある。

©西野亮廣/『映画えんとつ町のプペル』製作委員会

 毒キノコを食べたら死ぬ、みたいな感じです。よく分からないものを口にしたら危険は伴うので、得たいの知れないものをはじくっていうのは、身を守る行為ではあると思います。でも、それが行き過ぎちゃうと、身を滅ぼしちゃうっていう。

――そうですよね、今、日本って守りに入り過ぎて沈んで行っている気がします。

【西野】ほんとに。それはなんとかしたいな。

 だから、やっぱりみんな教育の方に行きますもん。友達で夢を叶えた人とか、(日本が沈んで行っている)根源どこなんだっていうと、やっぱり学校教育がやばすぎるっていうところになって、みんなそっちに行きますね。

■学校で生きる力は身に着かない

――先ほど、お金の教育をしないというお話しがありましたが、ほかに学校教育のまずいところってどこですか?

【西野】先生が社会を知らないっていうところ。先生に税金のことしゃべってくださいって言ったら、たぶんみんなもごもごしちゃうと思う。

それなのに、その先生が進路相談をしてしまう。先生は答えられないですよ。社会を知らないので。

――知らないと、挑戦を応援できないですよね。

【西野】そこ、先生を責めちゃうのはちょっと酷だなと思っていて、先生はそういう競技を任されたから、それに従ってやっているので。どっちかっていうと仕組みの問題で、「学校では生きる力は教えてくれないよ」っていうことを親が割り切らないといけないですよね。

©西野亮廣/『映画えんとつ町のプペル』製作委員会

――親は割り切る。

【西野】学校は生きる力を学ぶところではなくて、学校で学んだことは全部ほぼ使えないっていうことを割り切る(笑)。これはもう世のことわりというか、日本では当然じゃないですか。

そういうことを割り切って、学校から帰ってきた時に子どもに何を教えるかっていうことをやらないと。学校のカリキュラムだけでは挑戦する人は作れないですよね。

――学校の先生は、一回社会に出て働いた人がいいですかね。

【西野】ほんとはね。そういう先生も中にはいらっしゃいますけどね。でもほんといい先生に当たるか当たらないかは運なので。だから基本的には親ですね。

僕がどのプロジェクトをやる時も決めていることがあって、自分の意志で変えられることと変えられないことをちゃんと分ける。

親目線でいうと、学校のカリキュラムは基本的に親の意思で変えられない。学校は生きる力を教えてくれるところではない、そこは変えられない。だから、親が自分の子供にちゃんとお金の教育とかをする。自分も一緒に本を読んで、一緒に勉強するっていうのは自分の意志で変えられるところなんで、そこはやったほうがいいですよね。変えられるところに手をつけたほうがいい。

■生きていくために夢や希望が必要

――ありがとうございます。では、最後に映画『えんとつ町のプペル』を通じて、読者に伝えたいメッセージをお願いします。

【西野】やっぱり、コロナというのは今、無視できないなと思っていて、ストーリーと重なる部分もすごくあります。

コロナで明らかになったのは、希望がなくなっちゃうと、人は急に不安定になるっていうこと。今年は特にみんな不安定になったはずなんですよね。

でも、例えばですね、「来週にコロナが終わります」っていうことが発表されたら、その一週間くらい、ちょっと頑張れるじゃないですか。少々の貧乏をしていても、そこを希望にがんばれるじゃないですか。

©西野亮廣/『映画えんとつ町のプペル』製作委員会

希望みたいな、僕たちがなめていた青臭いものが、実は生きる上で必要なんだなってことが、今回のコロナで証明されたと思うんですよ。希望が必要だったっていう。

「じゃあ、それを見続けるためには、何をしなきゃいけないのか」っていうことは、映画の中で主人公たちが実践しているので、そこが見どころですね。ぜひ見てください。

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西野 亮廣(にしの・あきひろ)
お笑い芸人絵本作家
1980年兵庫県生まれ。99年梶原雄太とお笑いコンビ「キングコング」を結成。2000年、コンビ結成5カ月後にNHK上方漫才コンテスト最優勝を受賞。05年当時の代表番組『はねるのトビラ』ゴールデン進出時に、絵本制作に取りかかる。4年の歳月をかけて初の絵本『Dr.インクの星空キネマ』を09年に上梓。そのほか国内外の個展、小説・ビジネス本執筆、国内最大のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰するほか、美術館建設など幅広く活躍。著書に『革命のファンファーレ』(幻冬舎)『新世界』(KADOKAWA)『えんとつ町のブぺル』(幻冬舎)『ゴミ人間 日本中から笑われた夢がある』(KADOKAWA)など。など。
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お笑い芸人絵本作家 西野 亮廣)