牛の生育状況を確認する鈴木夫妻と川目部長(右)(北海道中標津町で)

写真拡大

 北海道の酪農地帯で「働き方改革」が着実に進んできた。かつては朝から晩まで働きづめのイメージが根強かった酪農を「魅力ある仕事」にしようと、JAなどが作業受託環境を整備し、酪農家も自ら省力化を実践。10年間で家族労働時間は年間100時間近く減り、完全混合飼料(TMR)センターは15年間で10倍に増えた。趣味や家族の時間を楽しめる、ゆとりある経営が広がりつつある。(尾原浩子)

外部委託や機械化で余裕のある生活へ


 全国屈指の酪農地帯、北海道根釧地域。中標津町計根別地区の酪農家、鈴木ひとみさん(49)は「ここ数年で拘束される時間が大きく減って、子どもとの時間も持てるようになったの。子どもにも『酪農家はすてきな誇りある仕事なんだ』と伝わっていると良いな」と笑顔を見せる。

 経産牛140頭を夫婦2人で飼育する鈴木さんの働き方は、ここ数年で激変した。かつては飼料を全て自前で栽培していたが、JAけねべつのTMRセンター「アクシス」の構成員になったことで飼料が供給されるようになった。自身もフリーストールを新設し搾乳ロボットを2台導入するなど、国の事業を活用して規模拡大と省力化を並行して進めた。1日の労働時間はここ数年で2時間は減った。一方で頭数を増やし乳量は過去5年で3倍に増やしたという。

 夫の直良さん(48)は「これまで切り詰めて仕事をしてきたが、余裕ができたのがうれしい。特に、負担を掛けていた妻が余暇の時間を持てることが良かった。牧草収穫の手間もなくなり、牛の管理がしっかりできるようになった」と成果を実感する。

 JAでは2011年度から「アクシス」で飼料栽培からサイレージ調製までを担う他、各酪農家の乳量や乳成分など生乳データを集めている。データを分析し、不調の予兆を把握して酪農家につないだり、飼料設計に生かしたりする。「アクシス」をモデルにして新たなセンターもできている。

 作業の外部委託も積極的に進める。JAでは牛が出したふん尿処理や哺育・育成なども受託する環境を整えた。

 JA購買部の川目剛部長は「『稼げない』『きつい』『臭い』『危険』『汚い』の“5K”だった酪農は、ここ最近で大きく変わった。受け入れ体制を整えたことで、道外の若者も新規参入するようになってきた」と喜ぶ。

課題は経費増 安定した後押し必要


 北海道では近年、TMRセンターの設立が相次ぐ。2003年に8組織だったTMRセンターは、18年には10倍の80組織に増えた。牧草収穫などを受託するコントラクターは18年で154組織。生まれたばかりの子牛を預かり初妊牛にして返す哺育・育成専門農家は78戸で、年々増えている。ロボット搾乳は19年に299戸590台と、普及が加速化している。

 1農家が1年間に酪農ヘルパーを利用する日数は、09年の16・54日から18年の23・16日へと、1週間近く増えた。ただ酪農ヘルパーは慢性的に不足しており要員確保は道全域の課題となっている。

 営農類型別経営統計(北海道2018)によると、年間の家族労働時間は酪農が6712時間で、10年前(6809時間)に比べて減っている。ただ、水田作(2388時間)、畑作(2966時間)に比べると、突出して多いのが実態だ。

 酪農学園大学の荒木和秋名誉教授は「酪農家の労働時間は、環境整備で大きく減ってはいる。各地で酪農家を目指す若者を育てようという機運も、高まってきた」とみる。

 魅力ある仕事にしていくため「働き方改革」が必須だとした上で「外部委託は経費を伴う。若者の新規就農を地域ぐるみでもっと広げ、次世代に産地をつなぐためにも、安定的で将来を見据えることができる政策が必要だ」と指摘する。