10月26日、所信表明演説をした菅義偉総理。官房長官時代から、携帯電話料金引き下げを強く要求していた

 2020年10月末、総務省は「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を発表した。携帯電話料金の値下げは、菅義偉総理の肝入り政策のひとつであり、「アクション・プラン」が求めるのは、大手キャリアから“サブブランド”や、“格安スマホ”などと呼ばれるサービスへ乗り換えやすくするための取り組みだ。

 それに呼応するように、通信量が20GBの新プランを「UQ mobile」(月額3980円)と「Y!mobile」(月額4480円)が相次いで発表。MNP(携帯番号変更なしの乗り換え)の手数料撤廃を打ち出すところもあるなど、各社動きだしている。

 だが、最新の調査では、おもに利用している携帯・スマホのサービスは、3大キャリア(ドコモ、au、ソフトバンク)が75%を占めている(MMD研究所調べ)。なぜ、乗り換えが進まないのか。携帯業界の御意見番・ITジャーナリストの法林岳之氏が解説する。

「これまでは総務省が本腰を入れて取り組んでこなかったことが、まずひとつ。そして、なんといっても大きいのが、乗り換え手続きの複雑さ、面倒くささでしょう。ですが、今回アクション・プランが示されたことで、乗り換えも盛んになっていくと思います」

 今後加速していくであろう乗り換えだが、どう選べばいいのだろうか。

「各サービスの比較の前に、まずは格安スマホとはなんなのか、大手キャリアとは何が違うのか、知っておくこと。メリットとデメリットを理解することです。誰もが格安スマホに向いているわけではありません」(法林氏、以下同)

 携帯電話事業者には大きく分けて、MNOとMVNOがある。MNOは、ドコモやau、ソフトバンクのように、自社で基地局やネットワークを整備しているところ。MVNOは、MNOから設備(電波)を借りている会社。設備投資分をコストダウンできるため、格安でサービスを提供できるのだ。

「Y!mobile」「UQ mobile」は、それぞれソフトバンクとauという大手キャリアのサブブランドで、本来はMVNOとは別だ。しかし、今回は「格安スマホ」としてMVNOと同様に扱う。また、「楽天モバイル」は、自社で設備を持つMNOだが、格安プランを売りにしており、「格安スマホ」として扱いたい。

 格安スマホのメリットは何か。それは、「料金の安さ」。月々の料金は、大手3社の平均で約6800円。それがサブブランドなら約3000円、MVNOなら約4000円、月額で安くなるというデータがある。

「乗り換えるかは、料金の安さとデメリットを天秤にかけて、それが見合うかどうかで決めればいいと思います」

 では、デメリットは何か。代表的なものが、サポート面での心配だ。

「ショップが少ないところが多いので、自分でSIMを入れられないレベルの人には向いていない。手続きは、基本的にオンラインでおこないますから、そのハードルもあります。サブブランドなら、メインブランドのショップで、ある程度のサポートは受けられます」

 通信速度は、携帯会社によって大きく差が出る。サブブランドの「Y!mobile」「UQ mobile」、そして「OCN」「イオン(ドコモ回線)」あたりの優秀さが目立つ。

 MMD研究所がおこなった調査では、この4社は格安スマホの通信速度が落ちるといわれる昼や夕方の時間帯でも、大手キャリアと遜色ない速度をキープしていた。

 現在すでに格安スマホを使っている人も、速度の違いを検討して、乗り換える手はある。大手からの乗り換えより、格安→格安への乗り換えはハードルが低いのだ。

 キャリアメール(例・○○○@docomo.net、△△△@softbank.ne.jp)は、使えなくなることが多い。

「総務省のアクション・プランでは、キャリアメールの継続使用の検討を求めていますが、どうなるかわかりません。格安スマホに乗り換えるならば、早めにメールをGmailやアウトルックなどに変えたほうがいいでしょう。

『LINEがあればメールは不要では』と思うかもしれませんが、メールアドレスで認証を求めるサービスも多いので、メールアドレスは必要です」

【格安スマホのメリットとデメリット】
●メリット
・料金が圧倒的に安くなる

●デメリット
・通信速度が遅くなることが多い
・実店舗が少なくサポート面が心配
・自分で初期設定をする必要がある
・キャリアメールが使えない 

auのサブブランド「UQモバイル」は通信速度が“格安スマホ”でNo.1

 以前は大手キャリアからの乗り換えでは、スマホが使えなくなる期間が1日か2日あったのだが、現在それは1〜2時間程度に短縮され
ている。

 乗り換えの際に新しいスマホに買い替える人が多いが、これまで使っていたスマホも、そのまま使えるケースがほとんど。もちろん、データの移行もほとんどが可能だ。

 チェックすべきは、自分が毎月何GB使っているかという、データ通信量だ。

「直近の月だけでなく、できれば半年分くらいは、さかのぼって確認してみてください。使用データ量に合わせて、プランを選べばいいのです」

 じつは、スマホ利用者の約6割は、月に3GB以下しか使っていないというデータがある。月間使用量は1GB=29%、2GB=16.7%、3GB=13.4%で合計59.1%。そして7GBまでの累計では、約79.2%となっている(「MM総研」調べ)。月に10GB、20GBも使うような人は少ないのだ。

 実際に3GBもあれば、かなりのことができる。ウェブサイトなら1万ページ以上の閲覧、音楽ダウンロードは約750曲(1曲4分として)、LINEのトークは、なんと150万通以上が可能だ。もっともデータを消費するのが動画の視聴だが、それでも12時間以上も観ることができる(YouTube/標準画質)。

 あとは、「家族割」のようなサービスがあるかどうか。各社によって違いがあるので、そこも選ぶポイントだ。

「格安スマホの料金は、各社それほど差がありません。大手キャリアから乗り換えれば、月に数千円は安くなるので、そこで数百円の違いを気にするのは、あまり意味がないといえます。

 ポイントは通信速度、ショップなどのサポート体制、家族割などがあるかどうか。家に光回線があり、Wi-Fiの環境があるようなら、3GBあれば十分です」

 一方で、最近話題の5Gは、格安スマホでも使えるのか?

「iPhone12など、5G対応の機種は、多くの格安スマホで動作が確認されています。ただし、5G回線を使える格安スマホは、まだほとんどありません。

 大手キャリアでも5G回線が使えるエリアは、ほんの一部ですし、エリアどころかスポットといった程度なのが実情。いずれはエリアも広がり、格安スマホでも使えるでしょうが、まだ先のことです」

 テレビCMでよく見る、「楽天モバイル」は?

「月額2980円が1年間無料、自社回線使用ならデータ容量は無制限など、華々しいキャンペーンで注目を集めていますが、現実はかなり厳しい。2020年4月から自社回線設備を持つMNOになったわけですが、基地局の整備は、まだまだ途上です。東京23区内は自社回線エリアですが、多摩地区などはエリア外が多い。

 エリア外ではauから電波を借りているのですが、それは月に5GBの上限あり。しかもauとの契約が順次終了しているので、最近では『都心でも“圏外”になる』と話題になっています。1年間無料は魅力的ですが、あくまで住んでいるところがエリア内であれば、の条件つきでしょう」

 では最後に、法林氏が推す、格安スマホはどこか?

「サブブランドではUQモバイル、MVNOではmineoです。UQモバイルは、ワイモバイルの後追いという感じでしたが、最近はauの一部サービスを利用できるようにしてきたり、店舗も少しずつ増やしているので、移行ユーザーには安心感が大きいと思います。

 mineoは『マイネ王』という、ユーザーサイトのサポートが魅力。しかも自社のサービスだけでなく、他社サービスを含めた情報が載っていたりして、mineoの懐ろの深さを感じさせます」

 じつは本誌記者も、3年前に格安スマホに乗り換え。家族3人で月に2万円近くかかっていたのが、約7000円に! 難点は、昼や夕方はネットにつながりにくいことくらいだが、今回の取材で再度乗り換えを決めました。あなたも、レッツ・トライ!

ほうりんたかゆき
1963年生まれ ITジャーナリスト。携帯電話やPC関連の記事を多数執筆。『できるZoom ビデオ会議が使いこなせる本』(インプレス)など著書多数

(週刊FLASH 2020年12月8日号)