「先延ばし癖」を直すにはどうすればいいか。メンタルコーチの大平信孝氏は「先延ばしを繰り返してしまう人には、共通の口癖がある。そうした口癖を直せれば、思考パターンを変えることができる」と説く--。
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■「できた人」と「できなかった人」、二極化が進んだ2020年

今年はみなさんにとってどんな1年だったでしょうか。

本来なら、東京オリンピックが開催されて、過去最高に盛り上がる1年になるはずでした。ですが、実際は自粛に次ぐ自粛で、事態が落ち着くまでの様子見、新しい生活様式への適応などをしているうちに、「あっという間に時だけが過ぎてしまった」と感じている方も少なくないでしょう。

今年は特に、やりたいことが「できた人」と「できなかった人」にくっきり分かれました。不安を抱え混乱するなかでも、自分のやるべきこと・やりたいことを淡々と実行した人もいます。一方で、世の中の流れや情報に振り回され、日々生活するだけで精いっぱいで、やるべきこともやりたいことも、ほとんどできなかった人もいるでしょう。

「できなかった人」の最大の原因の1つが、先延ばし癖です。誰しも、やらなければいけないことがあるのに、「あと5分だけ」と、ネットサーフィンや雑談、休憩を延々とやってしまった……という経験があるのではないでしょうか。

■「先延ばし」はストレスを増やす

めんどくさいこと、あまり気乗りしないことを先延ばしすることで、その瞬間だけはイヤな思いをせず、気分よくいられます。ですが、先延ばしにはデメリットもあります。その最たるものが、「ストレスが増える」ということ。仕事でも趣味でも未完了事項が増えると、フラストレーションが蓄積されていきます。

さらに、先延ばしが習慣化してしまうと、負のスパイラルから抜け出せなくなってしまいます。新しいこと、ちょっと難しいこと、大事だけれどめんどくさいことなどに取り掛かるのが、どんどん遅くなります。本当に重要なことに時間を割かずに、どうでもいいことばかりに時間を浪費し続けると、常に時間と締め切りに追われることになります。最終的には、現状維持のためのやっつけ仕事や見切り発車ばかりになってしまいます。

■何げない口癖が先延ばしのきっかけになっている

さらに悪いことに、「わかっちゃいるけどできない自分」「逃げちゃう自分」を責め、自己嫌悪に陥ります。先延ばしを抱え過ぎてしまうと、どこにいても心からくつろげなくなり、イライラして人にキツくあたってしまうこともあります。そして、その焦りや不安を解消するためにゲーム、SNS、お酒、たばこ、お菓子、買い物など余計なことに時間をお金を費やしてしまうのです。結果的に、重要なことを先延ばしにすると、精神的、肉体的、頭脳的に疲れてしまうのです。

先延ばしをしてしまうのは、あなたの性格や能力が原因ではありません。先延ばしの原因が、実は何気なく使っている口癖にあるとしたら信じられますか? 実は、先延ばしする人には共通する口癖があります。

■先延ばし常習犯の「口癖」4パターン

先延ばしの常習犯に共通する「口癖」をご紹介していきます。自分がよく口にしていないか、もしくは、口に出してはいなくても内心つぶやいてはいないか、チェックしてみてください。

口癖1:条件待ち系
「○○だから、できない」
「新型コロナウイルスが落ち着いてからでないと、できない」「今はお金がないから、できない」など、条件が整わないから「先延ばし」する人の口癖です。「才能さえあれば、もっと活躍できたのになぁ」「時間さえあれば、勉強するのに」なども同じです。状況を分析できている点は素晴らしいのですが、「できない条件」だけをできるだけたくさん集めて、先延ばしする自分を納得させてしまいます。
口癖2:不安系
「◯◯だったらどうしよう……」
「新型コロナウイルスの影響で中止になったらどうしよう」「失敗したらどうしよう」「反対されたらどうしよう」など、不安になると先延ばしする人の口癖です。「うまくいくかなあ」なども、同じ意味の口癖です。失敗するリスクを事前に想定している点は素晴らしいのですが、不安になりすぎて思考も行動もストップし、結果的に先延ばししてしまいます。
口癖3:時間系
「今さら○○だから、無理」
「今年もほぼ終わってしまったから、今さらやっても無駄」「今さら始めてもモノになるとは思えない」「いい歳をしてそんなことはできない」「あと10年若ければやっていたのに」など。決して戻ることのできない「時間」を理由に、先延ばしを正当化します。
口癖4:準備系
「もう少し実力をつけてからでないと、できない」
「もう少し技術を学んでから実行に移したい」「ちゃんとリサーチして準備してからでないとできない」など、準備不足や実力不足を理由に先延ばしする人が使う口癖です。向学心が強く、真面目に取り組む姿勢は素晴らしいのですが、行動に着手するハードルを上げすぎてしまい、結果的に先延ばししてしまいます。

■口癖を変えれば、思考パターンが変わる

こうした口癖は、先延ばしするための「言い訳」にもなります。では、口癖をなくし、先延ばしを撃退していくにはどうしたらいいのでしょうか。

最初にすべきことは、「気が付く」こと。まずは、ご自身で4つの口癖を普段使っていないか確認してみてください。そして、該当するものがあったら、思考パターンを見直すチャンスです。まずは、意識して使わないようにしてみてください。今まで漫然と使っていた口癖を一度やめるわけです。

次に、思考パターンを変えていく必要があります。「◯◯だから、やらない」を、「◯◯だからこそ、今すぐ10秒だけ行動してみよう」と、新しい口癖に言い換えていくのです。

写真=iStock.com/takasuu
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■「大事なことを後回しにしてしまう」が先延ばしの正体

最後に、先延ばしとはいったいなんなのかを理解する必要があります。

そもそも、多くの人が先延ばしの本当の意味を理解していません。「重要でないこと=些末なこと」を先送りすることは、「先延ばし」ではありません。私がいう先延ばしとは、「あなたにとって重要なこと・価値あることを後回しにすること」です。後回しにすることで、自分の人生や仕事に重大な損失が生じることを後回しにすることが、先延ばしなのです。

口癖を使わないようにするだけでは、本当の意味で先延ばしはなくなりません。大切なことは「自分の人生で本当に実現したいことは何か?」を明確にすることです。一度初心に戻り、あなたにとって本当に大事な価値観を見極めてください。そして、「自分にとって大事な価値あることの先延ばしをやめよう」と決意し、実行することが大切なのです。

■とりあえず「10秒」やってみる

そして、あなたにとって重要な事柄については先延ばししないでください。先延ばしせずに行動に着手するためのポイントは、ちゃんととりかかろうとせずに、まずは「10秒でできる小さく具体的な行動」からスタートしてみてください。

たとえば

・読みたい本を通勤バッグに入れる
・メール返信の1行目だけ書く
・仕事に関する資料を眺める
・企画書関連のファイルを開く
・気がついたことをメモする

どうですか? これなら先延ばしせずにできると思いませんか。10秒試してみて、スムーズにいくのであればそのまま続けてしまえばいいのです。もしうまくいかなかった場合は、たった10秒ですから、すぐに別の方法を試すことができます。

■変化を嫌う脳の防衛本能を乗り越える

脳は、「変化を嫌う」という防衛本能を持っているので、新しいことや難しいことに着手するよりも今まで生き延びてきた現状維持をよしとする性質があります。その一方で、「少しずつであれば変化を受け入れる」という性質(脳の可塑性)も持っています。10秒アクションという小さな行動であれば、変化を嫌う脳でも対応できます。

まずは、「4つの口癖」を意識して使わないようにするだけでも、先延ばしをやめる大きなキッカケになります。そして、10秒は、あなたが思っているよりもたくさんのことができる時間です。あなたも、年内に先延ばしを撃退して、本当に大事なことに着手してみませんか。

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大平 信孝(おおひら・のぶたか)
メンタルコーチ
アンカリング・イノベーション代表取締役。会社員時代、自身がセルフマネジメントと部下育成に悩んだ経験から、脳科学とアドラー心理学を組み合わせた、独自の目標実現法「行動イノベーション」を開発。これまで1万人以上のリーダーの部下育成に関する悩みを解決してきたほか、オリンピック出場選手、トップモデル、ベストセラー作家、経営者などの目標実現・行動革新サポートを行う。著書に『先延ばしは1冊のノートでなくなる』(だいわ文庫)ほか。
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(メンタルコーチ 大平 信孝)