かつては魅力的なスポーツモデルが多数存在した

 今の国内で売られる三菱車のラインアップを見ると、SUVのアウトランダー/エクリプス クロス/RVR、ミニバンのデリカD:5、軽自動車のeKシリーズが主力だ。

 そしてデリカD:5、eKクロス、eKクロススペースも、エクリプス クロスなどと同じくダイナミックシールドのフロントマスクを装着。つまり今の三菱車は、SUVがすべての商品に共通するモチーフになった。

 過去を振り返ると、三菱は1950年代から三菱ジープの生産を開始している。この流れを受けて1982年に初代パジェロを発売した。それまでのSUVは、悪路で使う業務用車だったが(当時はSUVという言葉もなかった)、初代パジェロは乗用車感覚を強めた。そのために新しいカテゴリーのクルマとして一般ユーザーの間でも人気を高め、パジェロの登場以降、トヨタ・ランドクルーザーなどのライバル車も内外装の質を向上させている。ちなみに1991年に登場した2代目パジェロは、1992年に1カ月平均で約7000台を登録した。今のアルファードに匹敵する売れ行きで、憧れのクルマになっている。

 パジェロが好調に売れる一方で、三菱はスポーツモデルにも力を入れた。実質的な発祥は、1970年に登場したギャランGTO。セリカやスカイラインと並ぶ人気車になった。1976年にはセダンのギャランΣ、クーペのギャランΛを発売してスペシャルティカー路線を確立し、1987年にはギャランVR-4が登場した。

 ギャランVR-4は直列4気筒2リッターのDOHCターボエンジンにフルタイム4WDを組み合わせた高性能モデルだ。パジェロで築いた4WD技術を4輪制御に進化させ、4輪操舵も採用した。この路線で1990年には最高出力280馬力を達成したGTO、1992年から始まるランサーエボリューションシリーズに繋がる。ラリーにも参戦した。

 以上のように4WDと4輪制御を軸に、SUVとスポーツモデルをそろえるのが三菱のクルマ作りになった。アウトランダーとエクリプス クロスのPHEVは、前後輪にモーターを配置して綿密な4輪制御を行う。運転の楽しさや優れた走行安定性と、環境性能を両立させた。

ランエボ復活を望む現場の声も多いという

 しかし2015年以降の三菱は、セダンやクーペをベースにしたスポーツモデルから撤退している。今の国内で売られる三菱車には、スポーツモデルだけでなく、セダン/ワゴン/クーペも用意されない。

 車種を減らした目的は、商品開発の集中で効率化を図ることだ。三菱は、コロナ禍の影響を受ける前は、世界生産台数の26%をタイ、14%をインドネシア、8%を中国が受け持っていた。アセアン(東南アジア諸国連合)地域で強いメーカーだから、商品開発もこの市場に焦点を合わせた。

 その結果、優先順位としては悪路向けを含めたSUV、ピックアップトラック、多人数乗車の可能なMPV(マルチ・パーパス・ビークル/多目的車)が高まっている。とくにSUVは、日本と海外の両市場で人気が高く、三菱がジープやパジェロの時代から手掛けてきたカテゴリーでもある。4WDや4輪制御技術の強みも発揮させやすい。

 つまり今の三菱にとって、SUVが世界的に注目される状況は、売れ行きとブランドイメージを伸ばす絶好のチャンスだ。三菱の「2020-2022年度中期経営計画」を見ても、次期型のアウトランダー/パジェロスポーツ/エクスパンダー/トライトンが計画され、市場はアセアン、カテゴリーはSUVという組み合わせになる。

 スポーツモデルについても、4輪制御技術を駆使したエクリプス クロスPHEVなどのSUVで進める計画だ。三菱は2030年に電動車(PHEVなどを含む)の比率を50%に高める計画だから、開発投資も増えるため、商品のカテゴリーはSUVなどに集中させる。

 この方針は理解できるが、GTOやランサーエボリューションを知る世代としては少し寂しい。三菱の販売店でユーザーの反応を尋ねた。「ランサーエボリューションは今でもファンが多く、新型が発売されたら即座に乗り替える心積りのお客様も少なくありません。新型が登場すれば嬉しいですが、今はSUVと軽自動車をしっかり売ることが大切でしょう。それでもエクリプス クロスのエボリューションが欲しいという声は聞かれます」。

 今の状態が続くと、ランサーエボリューションのユーザーがスバルのWRXに乗り替えるなど、顧客の流出も心配されるだろう。ランサーエボリューションの復活は困難としても、エクリプス クロスにローダウンサスペンションを組み込んだエボリューションを用意するなど、スポーツモデルの復活に向けたファイティングポーズを見せてほしい。