Photo:小境勝巳

写真拡大

銀杏BOYZの6年9ヶ月ぶりとなるフルアルバム『ねえみんな大好きだよ』が10月21日にリリースされることが決まった。本作は、オリジナルメンバー脱退後、峯田和伸1人になってから初めてのフルアルバムになるのだが、この6年9ヶ月を顧みれば、前作からここに至るまでの銀杏BOYZは休むことなくラジカルに動き続けていた。

【銀杏BOYZ 峯田和伸】インタビューのフォトをもっと見る

銀杏BOYZ結成から17年間の活動の中でも、かなり濃厚な時間を過ごしていたわけだが、これらの経験や刺激が、銀杏BOYZにとって最も重要なアルバム制作にどう反映されたのだろうか。また、誰もが新型コロナウイルス感染拡大による制限や影響を強く強いられている今、峯田はどんなことを考え、銀杏BOYZの表現に反映させたのだろうか──。

ここでは、こういった今の峯田が考えていること、アルバム完成までの経緯と思い、収録楽曲についてを徹底インタビュー。アルバム収録曲数「11」にちなんで11週にわたってお届けする(毎週水曜日更新)。第3回の今回、そして次回の第4回はアルバム冒頭に荒々しいハードコアパンクの2曲を入れた理由を聞いた。

寒河江のパンクス・森くんから声をかけられて

── アルバム『ねえみんな大好きだよ』の冒頭は耳に刺さるようなノイズのイントロで始まる鮮烈なハードコアパンクの新曲2曲(『DO YOU LIKE ME』『SKOOL PILL』)から始まります。

峯田 うん。やっぱり僕にとってハードコアパンクは初恋だからね。

── は?

峯田 ハードコアパンクって、僕にとっては初恋に近い感じなんだよ。だから入れたっていう(笑)。よくあるじゃん、中学の頃とかに初めて女の子を好きになったときって、経験がないからさ「明確にこの子が好きだ」「この子に僕は確実に恋している」みたいな気持ちさえも曖昧で、好きかどうかすらよくわかんないけど、何か気になる……みたいな(笑)。

その子と目が合えばいちいちドキドキしちゃったりして。それで家に帰ってからも、気づくとその子の名前を自分のノートに意味もなく書いちゃったりするっていう(笑)。この感じがまさに僕にとってのハードコアパンクだったんですよ。

もともと僕はさ、小さい頃から音楽は好きだったし、小学生の頃にブルーハーツとかも聴いてたの。でも、ブルーハーツをパンクロックだと認識して聴いていたわけではなくて。高校生になるまで、実はパンクっていう音楽とか概念を僕はよく知らないでいたんです。だから、高校の最初の頃は、KANもニルヴァーナも同一線でチョイスして聴いてたっていう。

でもさ、それがあるとき、衝撃的なことが起こるんですよ。高校2年のときなんだけど、森くんっていう同級生と同じクラスになってね。森くんとは最初はそんなに喋らなかったんだけど、「でも、森くんは目つきがヤバいな」と思って僕はちょっと意識してたの。一方、森くんは森くんでさ、僕のことをやっぱり「この人はいっつもイヤホンをしてるけど、どんな音楽を聴いているんだろう」と思って見てたんだって。

そんな中、あるとき学校でさ、同じく同級生だった村井くん(村井守。元ドラム)と僕がニルヴァーナの話をしてたのね。それを聞いた森くんは「あ、峯田くんは、ニルヴァーナみたいな音楽も聴くんだ」と思ったみたいで、そこから声をかけてくれて仲良くなったんだ。高校2年の途中の頃のことだね。

森くんはお兄ちゃんの影響で、高校2年生にしてパンクスだった。森くんは山形の寒河江っていうところに住んでてさ、この地域は当時パンクシーンがあったんだ。そういう素養があるから、森くんはパンクの歴史とか日本のパンクバンドとかを全部僕に教えてくれてね。それが僕は超楽しくて、週末になると森くんの家に泊まりに行ってた。

今でも思い出せるよ、森くんの家(笑)。本棚、レコード棚とか、当時の山形の高校生にしてはかなりすごいのが揃ってた。リップ・クリーム、非常階段、ガーゼ、ラフィンノーズとか。全部森くんから教えてもらった。日本のパンクバンドのブートのライブビデオとかもいっぱい観せてくれた。

その森くんがさ、高校3年の後半のあるときに僕にこう言うわけ。「かっちゃん(峯田)さ。俺パンクバンドやることにしたんだけど、ボーカルがいねぇず。かっちゃん、ボーカルやってくんねーが?」って。驚いたけど、「森くんが声をかけてくれたんだからやろっかな」みたいに思ったけど、ただその森くんが「バンドでやる」っていう音楽が全部ハードコアなんだ。カオスUKとかエクストリーム・ノイズ・テラーとか。

確かに森くんの家でパンクは色々覚えたけどさ、さらにハードコアとなると、ジャケットとかも真っ黒でオドロオドロしくて「なんか怖ぇな」みたいな(笑)。森くんが「バンドでやろうと思う」っていうハードコアのレコードを聴いてみるんだけど、最初は本当に「カッコ良いのか悪いのかよくわからない」「音楽なのか、これは」みたいに思ったよ。隣の部屋の弟が僕の部屋に来てさ「兄ちゃん、なんなの、これ。こんなにやかましい音楽」みたいに言うしね(笑)。

でもさ、ハードコアを繰り返し聴いていると、やっぱり忘れられなくなってくるんだよね。気づくと、カオスUKのロゴをノートに意味もなく書いちゃったりして(笑)。つまり、初恋と同じ感覚が僕にとってのハードコアなんだよ。だからこそ、今回のアルバムの冒頭にはハードコアを入れたかったんだ。「はじまり」みたいな意味で。

模倣するだけのコピーバンドとは違う、パンクバンドの高揚感

── そのバンドは、森さん、峯田さん以外にどんなメンバーの方がいたんですか?

峯田 森くんがギター、ベースが森くんの家の前に住んでたキヨタカっていう奴、それと藤木くんっていうロン毛のドラム。そこにボーカルとして僕が加わったんだけど、このバンド全員キャラ濃いなっていう(笑)。しかも、バンドの練習するのはキヨタカの家の車庫だからね。車庫の中にドラムセットとかアンプとかをどんどん持ち込んで、普通に昼間っから音を出しちゃう(笑)。あれは面白かったな。

藤木くんは最初、僕にさ「よう。本当に歌えんの、お前は」みたいに言ってきた。そこで僕は「歌えるよ!」っつって。やったことのないのに、そう言って(笑)。それでいきなりやったこともないハードコアをガチャガチャやったんだよ。忘れられないほど楽しかった、あのバンドは。

── そのバンドでのライブのエピソードも度々語られていますね。

峯田 うん。ライブをやったのは山形のフルーツライン左沢線っていう電車の一番最後の駅の近くにある小さな町の、大江町ふれあい会館っていうところ。ちょうど高校を卒業するときの記念ライブみたいな感じで、誰かが会場を貸し切って、そこにいくつかのバンドと一緒に出たんだ。寒河江のパンクシーンのバンド、スケーターのバンドとかが集まってね。

ライブ当日になったら森くん、キヨタカ、藤木くんは革ジャンでさ、鋲とかがバンバン付いたのを着て来てる。チェーンを巻いてるキヨタカなんか「このチェーン重いわ!」みたいなことを言ってた(笑)。

── 峯田さんは?

峯田 僕は革ジャンとか持ってないからさ、おじいちゃんが着てたピタピタのスーツを「モッズスーツ」ってことにして着て。森くんは「いいと思う! かっちゃんはこのままのほうが良い気がする」って言ってくれたのを覚えてる。そのメチャクチャな4人で演奏したんだ。僕らはトリだったけど、結果的にこの日で一番盛り上がったよ。

実はさ、この森くんとのバンドの前にも、僕は一度だけ別の友達からBUCK-TICKのコピーバンドに誘われて歌ったことがあったの。ただ、そのときはカラオケをやっているみたいな感じであんまり面白さを感じられなかった。だってさ、「BUCK-TICKのように歌わなくちゃいけない」「音程を外さないでうまく歌わなくちゃいけない」っていうことが前提のバンドだったからね。だから、そのときはバンドっていうものをそんなに楽しく思えなかったんだよ。

でもさ、この森くんたちとのバンドは違ったの。僕がちょっとステージから声を発すれば、お客さんは「ウワーッ」と返してくれる。ラフィンノーズの『GET THE GLORY』をやればメチャクチャ暴れてくれる。「すげーな、これ」みたいな。とにかくすごく高揚したのを覚えてるし、忘れられないんだ、今でも。

あまりにも楽しくて高揚してさ。帰りに田んぼにみんなでダイブしたりしたから(笑)。本当に僕にとってすごい日だったんだ、あの日は。

※次回へつづく

●全11回インタビュー:各回更新!

峯田和伸が銀杏BOYZフルアルバム『ねえみんな大好きだよ』全11曲を語る!【11週連続ロングインタビュー第1回】

銀杏BOYZ 峯田和伸が語る、アルバムを“サポートメンバー”と作ること【11週連続ロングインタビュー第2回】

リリース情報

銀杏BOYZ ニュー・アルバム『ねえみんな大好きだよ』

10月21日(水)発売
品番:SKOOL-049 価格:3,300円+税

収録曲(全11曲)
01.DO YOU LIKE ME
02.SKOOL PILL
03.大人全滅
04.アーメン・ザーメン・メリーチェイン
05.骨
06.エンジェルベイビー
07.恋は永遠 feat.YUKI
08.いちごの唄 long long cake mix
09.生きたい
10.GOD SAVE THE わーるど
11.アレックス