日本は二酸化炭素排出量に対する反則金が存在しない

 日本の自動車メーカーが、いまひとつ電気自動車(EV)の販売に勢いづかないかという点について、いくつかの背景が考えられる。

 最大の要因は、日本の電動車両の導入政策に、優遇策はあっても罰則がないからだ。この点については、昨年トヨタが催した記者会見の場で、寺師茂樹副社長が記者の質問に答えて、次のように語っている。「EVの採算がまだ十分に合わないのは事実だが、海外市場でのクレジット(反則金)を支払うよりましだから」。そのうえで、2030年までには日本の道路事情に最適なEVを導入したいと述べた。

 米国のZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)規制、中国のNEV(ニュー・エナジー・ヴィークル)規制、そして欧州の二酸化炭素(CO2)排出量規制は、それぞれEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)の導入割合や、企業としての平均CO2排出量を達成できなければ、反則金を支払わなければならなくなる。たとえハイブリッド車(HV)を持っていても、反則金を支払ったのでは新車販売を伸ばしても利益が抑えられてしまうのである。

 もうひとつの理由は、現在のところまだリチウムイオンバッテリーの原価が割高で、なおかつ、消費者が価値を見出せる車両販売価格からするとあまり高価な車両価格は付けられず、価格の上下をあまり気にしない高級車からでないと導入しにくいからだ。たとえば、欧州のCO2排出量規制では、企業平均値で実現しなければならず、当然大型の高級車ほど燃費が悪いので、そこから電動化が進む。したがって欧州自動車メーカーは、いかにもEVやPHEVの導入に熱心に見えるが、そうしなければ反則金の対象となってしまうのだ。

 米国では、EV専門メーカーのテスラはZEVの規制対象とならないので(売っているクルマすべてがEVなので)、逆に、規制を達成できないメーカーへ、規制による導入台数の余剰分をCO2排出量枠という権利として売り、利益を得ている状況だ。ZEV規制やNEV規制によるEVやPHEVの導入台数は年々増え、その負担が大きくなっていくので、トヨタの寺師副社長の発言にもつながることになる。

 以上のことから、EVの導入は海外市場が優先され、日本国内へは遅れるのである。

もはや永遠のテーマになりそうな集合住宅の充電器設置問題

 くわえて国内には、マンションなど集合住宅の管理組合問題という難題が控えている。集合住宅の駐車場に、200Vの普通充電コンセントや充電器を設置できない状況があるのである。駐車場やエレベーター、玄関ホールなどは、居住者が共同利用する場所であり、そこに何だかの手を加える場合、住民の代表が集まって運営・管理を行う管理組合で合意を得る必要がある。

 ところが、駐車場に充電コンセントなどを設けようとしても、管理組合の賛成が得られないのである。理由はさまざまなようだが、なかには「自分に関係ないことだから反対」という感情的な理由で拒む考えがあり、理屈ではないため解決策が得られないでいる。

 一方、新築マンションでは、これからの時代に向けて充電設備があるほうが価値は高まるとの考えもあり、デベロッパー(開発業者)のなかには建設時に設置する動きもある。それでも、数多い既存の集合住宅では、大多数が管理組合の反対で充電ができないことから、住民のなかでEVやPHEVを購入したい人が、購入できずにいるのである。

 初代リーフのころ、購入者の9割が戸建て住宅に住む人であった。その状況は現在もあまり変わっていないだろう。この点においては、日本の自動車メーカーの技術や意欲の問題ではなく、自己中心的な住民の意識がEVやPHEVを拒んでいるともいえるのである。