最高益を達成したセブン&アイHDだが、新型コロナウイルスはあらゆる業態に影響を及ぼしている(撮影:今井康一)

日増しに深刻となっている新型コロナウイルスの感染拡大。日々報じられているとおり、外出自粛などによって飲食店は大きな打撃を受けている。流通大手セブン&アイ・ホールディングス(HD)の足元の業績動向からも消費行動の変化が見て取れる。

セブン&アイHDは4月9日に2020年2月期決算を発表した。通常とは異なり、電話会議形式で行われた説明会で、井阪隆一社長が語った3月の動向は次のようなものだった。

都内コンビニは立地によって明暗

国内のコンビニ事業は、セブン‐イレブンの既存店売上高が前年同月比で3.2%落ち込んだ。ただし、この数字ではすべてを測れない。店舗の立地ごとに売上高の二極化が進んでいるからだ。

在宅勤務を行う人の増加などを受けて、住宅地にある店舗では売上高が伸びる反面、駅前や行楽地、オフィスに近い立地の店舗では客数が減少している。4月7日に緊急事態宣言が出るとその差は一層顕著になり、約2800店ある東京都内では、中野区や世田谷区、杉並区の売り上げが前年同月比で1割近く伸びている。

また、スターバックスなどコーヒーチェーンの休業によって、近隣店では「セブンカフェ」の売り上げが急増することが起きているという。

一方、海外コンビニ事業は苦しい状況が続く。約9700店を展開しているアメリカでは、外出制限など日本より厳しい措置が取られている。とりわけ、国家非常事態宣言の出た3月13日以降は客足が減少した結果、アメリカとカナダにあるセブン‐イレブンの3月後半の既存店売上高は、前年同期比でマイナス11%に落ち込んだ。

海外コンビニ事業に次いで売り上げ規模が大きいスーパーストア事業では、イトーヨーカドーが食料品の需要を獲得している。だが、イトーヨーカドーの中でも大型店やショッピングセンター「アリオ」などの大型店は、人混みを回避する消費者心理を背景に苦戦。その結果、3月の既存店売上高は前年同月比で5.3%減となった。

百貨店のそごう・西武では、3月3日から全15店舗で営業時間を短縮。衣料品や化粧品といった不要不急の商品の売り上げも大幅に落ち込んだことで、3月の既存店売上高は前年同月比で33.4%も落ち込んだ。

緊急事態宣言の発令翌日の4月8日以降は、首都圏と兵庫県にある百貨店9店舗で食品以外の売り場を休業している。4月以降も厳しい状況が続きそうだ。

今期業績の見通しは示せず

ただ、2020年2月期の業績は総じて好調だった。売上高にあたる営業収益は、円高やガソリンの販売価格低下によるアメリカ・カナダでのセブン‐イレブンの減収とイトーヨーカ堂の減収が響き、前年同期比2.2%減の6兆6443億円となった。だが、営業利益は同3.1%増の4242億円と過去最高益で着地した。

利益を押し上げたのはセブン‐イレブンにおける採算向上だ。国内外の店舗でカウンター周りのファストフードなどの粗利率が改善されたことや、国内でCMなどの広告宣伝費を効率化したことが奏功した。一方、2021年2月期の業績予想は新型コロナウイルスの影響が読めないために「未定」とし、決算発表と同時に予定していた中期経営計画の発表も延期した。

井阪社長は「日々刻々と(新型コロナウイルスによる影響は)変化している。どういう状況になるか計り知れない」と述べた。

たしかに先を見通すのは難しい。セブン&アイHDの2021年2月期のカギを握るのは、業績改善が急務のイトーヨーカ堂とそごう・西武だ。

2020年2月期のイトーヨーカ堂は、店舗数の減少や既存店での売上高減少が響き、営業収益は前年同期比4.1%減となった。ただ、営業利益は同38.5%増の65億円となった。


セブン&アイHDの井阪隆一社長は新型コロナウイルスの影響について、「日々刻々と変化している」と話す。写真は2019年10月撮影(撮影:今井康一)

利益を押し上げたのは、食品部門の強化や売り上げの厳しい衣料品・住居関連商品での自社商品縮小、テナント誘致といった構造改革を実施した店舗だ。この成果を受けて、井阪社長は「(構造改革の)水平展開を加速させる」とするが、うまく軌道に乗せられるかが勝負となる。

そごう・西武は2019年10月の消費増税に加え、訪日外国人客数落ち込みの影響を受けた。その結果、2020年2月期の営業収益は前年同期比2.5%減、営業利益は1.7億円と同94.7%減となった。

百貨店事業は2021年2月期に、関西を中心に5店舗の閉店と秋田と福井の2店舗での店舗面積縮小を予定している。池袋など首都圏店舗に経営資源を集中させる考えだが、当面は我慢の状況が続きそうだ。

「コロナ後」を見据えて動き出す

井阪社長は決算説明会の場で、「新型コロナウイルスを契機に、顧客の行動ががらっと変化する可能性もある」との考えを示した。実際、ネット注文が増加するなど、「コロナ収束後」の好材料となる動きが見え始めている。

例えば、ネットで注文した商品をセブンなどの実店舗で受け取れる「セブンネットショッピング」。巣ごもり需要によって書籍やゲームの販売が好調となり、3月の売上高は前年同月比で30.9%増加した。

イトーヨーカドーのネットスーパーでは、安定した配送体制を組むことができている西日暮里店(東京都荒川区)からの配送分が同7.1%増加した。ミールキットやレトルト食品などが伸びているという。

新型コロナという見えない敵との闘いは難渋しそうだが、新たな消費行動に対応し、それを奇貨とできるか。今後の小売業を占う焦点になりそうだ。