増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

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・危篤の知らせで葬儀屋まで呼んじゃった
早すぎる!早すぎるんです、課金が。
ツイッター発のマンガ「100日後に死ぬワニ」は評判が評判を呼び、大人気コンテンツになりました。このタイトルこそカギで、私含め読者はこのほのぼのストーリーがどんな帰結を迎えるのが、最初から全員わかっています。

ストーリーがほのぼのであればあるほど、このタイトルは強烈に関心をひっぱる凄いものだと、伊集院光さんもラジオで画期的な構成を褒めていました。ツイッターのような無料メディアから注目を集め、それがメジャーなコンテンツとして成長していくことはネット時代ならではのサクセスストーリー。ましてファンから熱い支持を受けていた以上、感動の大団円となるはずでした。

なぜ炎上してしまったかといえば、最終回に連続して、この作品の出版、映画化、歌手いきものがかりとのコラボ動画と、これでもかというほどマネタイズ(課金)情報が発表されたからです。

早すぎる金儲けに、感動にひたったファンから猛然と批判の炎が燃え上がりました。危篤の知らせに医者だけでなく、葬儀屋さんまで用意してしまうような利きすぎる機転が批判の矛先です。

・マネタイズ批判ではない炎上理由
ツイッターのようにネット上無料でアクセスできるコンテンツは多々あります。しかし永久に無料だとしたら、作家は生きていくことができません。絵やマンガ、音楽、文章その他、あらゆる創作物はマネタイズ(課金)ができなければ生産できません。作品をそのまま売るだけでなく、スポンサーがついて支援する、2次利用などで利益が生まれることで、作者には収益がもたらされます。それを原資に作者は創作活動を継続でき、良い作品を作り続け、供給し続けることができます。

生前極貧だったゴッホは、画商の弟テオが兄の絵を売りさばき、生活を支えました。作品が何億円もの価値を呼んだのは死後。生前はそんな評価を全く受けること無く、生活に苦しんだゴッホ。課金ができなければ作家は生きられません。今回のワニも、SNSヒット作品として映画化や商業化されること自体は、恐らく大きく批判されることはなかったでしょう。

ではなぜ今炎上しているのかといえば、それはマネタイズそのものではなく、そのタイミングが最悪だったからです。

・麻雀放浪記・ドサ健の教訓
私が人生を学んだ名作映画「麻雀放浪記」で、イカサマ賽を使うおりんさん(男性)を脅迫する主人公・坊や哲に対し、もう一人の主人公・ドサ健は「おりんのグラ賽なんてみんな知ってる。自分だけが気がついて他が節穴なんて事はない」といいます。みんなわかっているのです。

テレビが最終回をニュースで取り上げられるまでに成長したこの作品は、SNS時代の成功者です。マネタイズ自体を非難する人はほとんどいません。しかしそれを感動の最終回と同時にぶつけてしまったのは何とも悪手だとしかいいようがありません。書籍化、映画化、コラボ動画など、どれも思い付きで即実現できる訳が無いことなど、今の時代誰でもわかります。

そうした商業化実現には事前打合せやなどしっかりした準備と、ビジネス化のプロの関与が必須です。善意やクリエイティビティだけで作品が成功できることは無いのです。感動的ストーリーが、最終回、同時に大宣伝という流れになったことで、露骨な金のニオイが満ちあふれてしまいました。

ドサ健の教えのように、みんなわかっているのです。お金儲けはして良いのです。でももうちょっとだけ順番を踏めなかったのでしょうか。感動の余韻が冷める1週間後、せめて数日後に書籍化のお知らせ。書籍化ニュースのさらに後日に映画化。大きな流れができての歌手コラボ、マーチャンダイズ(グッズ化)・・・・という、タイミングを読んだマーケティングができていたなら、炎上は起きなかったことでしょう。

ドサ健はこうも言いました。「死んだら負けだ」。死んでしまったワニはこの先どうなるのでしょうか。(ハッ?これが新たなストーリーだったのか??ここは地球だったのか!?Byテイラー大佐)