VAIO 2020年のモバイルノートPC、そのこだわりはハイパフォーマンスの維持だ

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VAIOは第10世代インテルプロセッサーを搭載したモバイルノートPCの2モデル、12.5型の「VAIO SX12」(以下、SX12)、14.0型の「VAIO SX14」(以下、SX14)を発表した。

ベースとなるのは、2019年発売のSX12およびSX14で、オールインワンの拡張性とモバイルに最適な軽さとスタイリッシュを継承しつつ、新たに最新の第10世代インテルプロセッサーを搭載することで性能向上させたモデルである。




最上位モデルにおいては、6コア12スレッドで動作する「Core i7-10710U」の高いパフォーマンスと、VAIO独自チューニング技術「VAIO TruePerformance」でCPUの性能を十分に引き出すことで、オフィスワークだけではなくクリエイティブワークでの生産性能向上を狙う。

このVAIO TruePerformance技術は、最新のCPUに合わせて進化を続けている。
モバイル向けのCPUは、バッテリーで動作させるためTDP(熱消費電力)が15Wと低めに設定されている。
これは2コア4スレッドの古いハイパフォーマンス向けのCPUから変わらない。

さらに、技術向上で4コア8スレッドや6コア12スレッドのメニーコア(多くの処理を並列で行える)化された最新のCPUもTDPは15Wで変わらない。

つまり15Wを2つのコアで分けて使っていた時代よりも、1コア当たりの割りあて電力が低くなったことが、このVAIO TruePerformanceの攻めどころとなったのだろう。


モバイルノートPCも夢の4GHz駆動


Core i7-10710Uは高い負荷が掛かる処理が発生すると、ターボブーストテクノロジーにより最大クロック数が4.70GHzまで上昇する。5年以上前のモバイル向けのCPU 「Core i7 4510U (2コア4スレッド)」は、ターボブースト時の最大クロック数は3.10GHzにとどまっており、Core i7-10710Uはメニーコア化によるパフォーマンス向上に加えて、ターボブースト時のクロック数も向上している。

以前は、より高性能を求めるなら、高いTDPで動作するラップトップ向けのCPUやデスクトップ向けのCPUを選ぶしかなかった。現在は、バッテリー駆動にも最適な省電力で動作させることを目的としつつ、メニーコアと高いクロック数での動作による高いパフォーマンスを得ると言う選択肢が増えたと考えると良いだろう。

とはいえ、最大と謳う4.70GHzでの動作は発熱を伴うため、システム自体に回路維持のために高温になりすぎる前に、クロックを落として発熱を抑えるような仕組みも用意されている。

最高のパフォーマンスが発揮できたとしてもCPUの冷却が追いつかない場合は、しばらくしてそれよりも低いクロック数で動作することになる。そこで、CPUの温度をいかにして下げるか、その冷却のための対策を行い、パフォーマンスを高めることがモバイルノートPCを含めた全てのPCに共通の設計思想である。

VAIOの冷却の思想は、冷却後のパフォーマンスを高めてそれを維持することだ。

例えば、CPUの冷却効率が悪い場合は温度を下げるために大幅にクロック数が下がる。
動作温度に余裕が出た時点でクロック数が上がるが、また高温になると大幅にクロック数が下がという動作を繰り返す。このクロック数の上下動作は長時間になればなるほど、熱が逃げなくなり、クロック数が低い動作時間が長くなり、上がるクロック数も低く、高いパフォーマンスで動作する時間も短くなるなど、全体的なパフォーマンスが低下していく。


効率の良い冷却で、できるだけ高いクロック数で安定動作させることが重要


そこで、冷却対策の徹底と独自のCPUチューニングで温度上昇の波を平均化し、さらに冷却後も高いクロック数で動作させるように設計を見なおしているのだ。

ノートPCの内部は、メモリーやストレージなど効率よく作動させるためにCPUは基板の内側にレイアウトされている。筐体の外側にレイアウトされたファンに熱を伝導させるためには、ヒートパイプと呼ばれる熱伝導性が高い金属でCPUの熱を取りだして、ファンでその熱を排出する。




特に熱伝導性が高いのが銅を使ったヒートパイプだが、銅を使用することで重量増は避けられない。軽量さが特徴となるモバイルノートPCでは、銅をふんだんに使うのではなくCPUに近い場所やファンに近い場所など要所要所に取り付けるなどし、軽量化と熱交効率を考慮した設計を採用していることが多い。一方でSX12およびSX14ではヒートパイプ自体を銅にして熱伝導を重視した設計にしている。


発熱量が多いCore i7用のヒートパイプは太くて分厚い(写真=左)


発熱がハイエンドモデルのCore i7よりも低いCore i5 -10210UやCore i3 -10110U、Celeron 5205U搭載モデルではヒートパイプ自体を薄くするなど軽量化しているが、Core i7モデルでは効率よく熱伝導させるためにヒートパイプの太さと厚さを増すことで、冷却効率の向上と高いパフォーマンスを実現している。

銅素材を使用した一番重いモデルでもSX12が906g、SX14が1043gであり、モバイルノートPCとしては十分過ぎるほど軽いのである。

今回の熱対策では、効率よくパフォーマンスを引き出すためにCPUのクロック数を高めるリクエストに対して、瞬発的に電力を供給できるように電源回路の設計も新しくなっている。

従来は高負荷時にACアダプターだけでは電圧が足りない場合、バッテリーの電圧をACアダプターの電圧まで昇圧してから電力を供給していたが、この昇圧にタイムラグがあったのだという。

そこで、ACアダプターの電圧をバッテリーの電圧と同じになるよう降圧することで、バッテリーの電力をすぐに供給できるようタイムラグをなくす設計としている。

一方で、ACアダプターの電圧を常に降圧を掛けた状態となるため、ロスした分が熱となることから、電源のための冷却処理も強化している。

ここまでしなくても、CPUのパフォーマンスは十分に高いのだが、それでもCPUのパフォーマンスを引き出したい、効率よく快適にPCを使って欲しいと言う技術者の思いが、こうした設計とチューニング技術に詰め込まれているのだ。

他社ではやらないような設計の見直しは、パーツ増加、そしてコストにも影響する部分だが、ものづくりという観点から見ると、VAIOらしいこだわりが感じられる部分であり共感する部分でもある。




SX12およびSX14は画面サイズが異なる2モデルだが、画面周りのベゼル(額縁)を狭くしてモバイルノートPCの大画面化と、軽量化、そして法人利用に対応した堅牢性を持たせたスタンダードな製品である。

スタンダードな製品とは言え、背景にある設計ストーリーは既存のパーツを組み込んで作ったのではなく、パーツのレイアウトや基板の形状、バッテリーの位置や形状、放熱のためのエアフローを考慮した筐体設計、低温やけどをしないよう一部分だけが熱を持つヒートスポットをなくし、熱を拡散するための背面設計など、技術者の思いが詰まった製品だ。




法人向けモデルでもあることから、ともすれば地味な印象を持つかも知れないが、今回はプライベートでも満足がいく「ALL BLACK EDITION」や、美しい天板の仕上げの「RED EDITION」もラインナップされている。


この2モデルは外観の品質にもVAIOらしいこだわりが詰まっているので、店頭で是非確認してみて欲しい。


執筆  mi2_303