「いきなり!ステーキ」の看板(2020年1月、時事)

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 業績悪化で閉店が相次ぐステーキ専門店「いきなり!ステーキ」ですが、一部の店に掲示しているポスターがネット上で話題となりました。ポスターに、店を運営するペッパーフードサービス(東京都墨田区)の一瀬邦夫社長の写真、「いきなり経営者になるチャンス!」というキャッチコピー、「いきなり社長システム」「独自の独立システムで36名の社長が誕生!」「訳あり店舗を運営してもらいます!」といった文言が書かれているからです。

 ポスターについて、ネット上では「荒業」「いきなり社長システムやばい」などの声が上がっていますが、なぜ、「訳あり店舗」の運営者を募集しているのでしょうか。同社の広報担当者に聞きました。

経営感覚のある人を求めたい

Q.「いきなり経営者…」のポスターはいつから掲示しているのでしょうか。

担当者「2019年4月から、『いきなり!ステーキ』の一部直営店で掲示しています。なお、ポスターにある『社長システム』の基本契約を変更する計画があるため、ポスターの撤去を始めています」

Q.ポスターを掲示した狙いは。また、「訳あり店舗」とはどのような店なのでしょうか。「訳あり」ということでネット上では「いきなり地獄」「『いきなり倒産』する店ではないのか?」といった声も出ています。

担当者「訳あり店舗は売り上げが減少傾向にある店です。当社が大量出店してきた過程で“サラリーマン的”感覚を持つ店長が増え、当初想定していた『いきなり!ステーキ』の価値をお客さまに届けられない店舗が出てきました。

そこで、売り上げが減少傾向にあることを正直にお伝えした上で、経営感覚があり、当社社長の一瀬の経営哲学を共有していただける人に店舗運営を委託し、より充実した店舗づくりをしていただきたいと考えました」

Q.ポスターにある「開業資金300万円(保証金150万円含む)」「最低保証30万円」とはどういうことでしょうか。

担当者「開業資金300万円の内訳ですが、当社グループへの加盟金が150万円、保証金100万円、店舗で使う釣り銭50万円です。保証金と釣り銭の計150万円については、委託契約終了時に、店舗の水道光熱費、食材費など運営期間中の残存債権を引いた上で返金します。また、『最低保証30万円』とは、当社が店の運営をお任せする際の対価として契約期間中にお支払いするものです」

Q.ポスターが話題となったことで、募集状況などに変化はありましたか。

担当者「訳あり店舗の募集に関し、数件のお問い合わせを頂きました」

Q.この募集を「いきなり!ステーキ」全体の業績向上にどう結び付けようとしているのでしょうか。

担当者「先述したように、このポスターを掲示したのは、経営感覚のある人を募って不振店舗の運営をお任せし、より高いレベルの店舗運営を実現することで、最終的に多くのお客さまに喜んでいただきたいと考えたからです。なお、委託後に拡大した利益はそれぞれの店舗運営者に分配します。

募集に応じていただいた運営者は、不振店舗の売り上げを回復させることで大きなリターンを得ることができると考えております」

話題性やインパクト的には成功

いきなり!ステーキ」の取り組みについて、飲食店コンサルタントの成田良爾さんに聞きました。

Q.「いきなり!ステーキ」が訳あり店舗の運営者を募集しており、ネット上で話題となっています。このような形での募集は珍しいケースだと思いますが、どう捉えますか。

成田さん「『いきなり!ステーキ』は、コース料理のメインディッシュだったステーキを『メインディッシュのステーキをいきなりサクッと食べてから次の店へ』とする革新的なスタイルを提案するなど、話題性やインパクトを重視した戦略で業績を伸ばしてきました。今回、運営者を募集した店の業績回復の可否はともかく、話題性やインパクトでは成功ではないでしょうか」

Q.訳あり店舗は売り上げが減少傾向にある店を指すそうです。フランチャイズでこうした運営者を募集するのは問題ないのでしょうか。

成田さん「例えば、募集時に店舗の業績を改ざんしたり、『誰が経営してももうかる』などとあおったりするなどして、事前に聞かされていた店の状況と実際の契約内容が違ってくるようであれば問題だと思います。そうでなければ、特に問題はありません」

Q.ポスターには、「開業資金300万円(保証金150万円含む)」とありますが、飲食店(フランチャイズ)の開業資金としては妥当なのでしょうか。また、「最低保証30万円」「想定収入初動月収70万〜100万円」とも書かれていますが、実際に可能なのでしょうか。

成田さん「店舗の契約事項の詳細にもよりますが、一般的な飲食店のフランチャイズ開業資金としては安いと思います。ただし、ポスターでは最低保証や想定収入に関する詳しい説明がないため、売り上げが実現可能かどうかは判断しかねます。飲食店の経営は手法によって大きく変わるため、売り上げが想定を下回ることもありますし、大繁盛することもあります」

Q.フランチャイズで飲食店を運営するメリットはあるのでしょうか。

成田さん「例えば、『いきなり!ステーキ』と同等の飲食店舗を個人で開業するには、最低でも1500万〜2500万円はかかります。また、無名の飲食店を開業した際は売り上げも未知数です。フランチャイズで初期費用を抑えられ、『いきなり!ステーキ』のネームバリューもありますので、契約内容によっては十分にメリットはあると思います」

Q.フランチャイズの飲食店運営者になる際の注意点はありますか。

成田さん「月々のロイヤルティー(商標権などの使用料)や販売促進費、解約要綱などを含め、まずは契約内容を事前によく確認することです。私のコンサルティング会社にも『フランチャイズ契約後、マイナス要因があった』といった相談がありますが、契約後に解決するのは難しいです。

ただ、飲食店を経営したことがない人には、契約内容の判断は難しいと思います。事前に飲食店専門のコンサルタントに相談してみるのもいいかもしれません」

Q.「いきなり!ステーキ」苦境の理由と打開策として考えられることは。

成田さん「要因はいくつもありますが、一般的には店舗数の拡大が早過ぎたなどと言われています。個別企業について具体的な打開策をお伝えすることは遠慮しますが、一般的には、目の前の結果を追い求めるのではなく、『100年続く店づくり』を目指すことが業績回復につながると考えています」